導きの声
手足も抑えられたリオナは口を塞がれたまま、
近くの茂みへと引きずり込まれてしまう。
「んん⋯っ!んんん⋯っ!」
「悪く思うなよ?
可愛いお嬢ちゃん」
「可哀想になあ。
こんな俺達に目をつけられちまって」
「んーっ!んーっ!」
「ほら、口開けな」
「やあ⋯んっ!は⋯っ、んっ、んぅ⋯っ!」
涙目で必死に抵抗を試みるリオナだが、
複数の男達の力に適うはずが当然なかった。
悪党達の計画的な連携プレーにより、
両手足を縄で拘束され、猿轡を噛まされる。
(何で⋯?
何で私がこんな目に遭うの⋯?
ただ、歌を歌ってただけなのに⋯。
分かんないよ⋯)
「よし、上手くいったな。
お前ら、船に戻るぞ。お頭が待ってる」
悪党達は強引に土のう袋をリオナに被せると肩に担ぎ上げ、
そのまま走り出して行った。
(セーラさん⋯、ザ・フランセスの皆⋯。
今まで本当にありがとうございました⋯)
身体と声の自由だけでなく、
視界も閉ざされたリオナはゆっさゆっさと揺れる肩の上で、
ポロポロと無数の涙を流したのだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その頃一方、
リコル海賊団の旗が掲げられている船の甲板では、
賑やかに宴会が催されていた。
「ちょっとカイ!
それは、僕が取っておいたサーモンなんだけど!?」
「るせー。
早いもん勝ちだろうがよ。
それに、
今日大会で優勝して優勝賞品の食糧を得たのは俺のお陰だろ?」
そう、この船こそリコル号で、
カイ達の旅の移動手段及び生活拠点である。
今日の剣技腕試し大会でカイが優勝したため、
そのお祝いと思われる。
「それはそうだけどさー!」
「まあまあ、ナギサ。僕のをあげるから。喧嘩はやめなさい」
「うわあ!
さっすが、センリ兄!サンキューっ!」
「単純な奴」
「カイ、また一段と剣の腕前を上げたらしいな」
栗色ロン毛ヘアーの頭には黒色の三角つば帽子、
右目にはドクロマークが入った黒色の眼帯、
そして、落ち着いたモノトーンカラーのフロックコートを羽織っているこの若い長身のハンサムな男こそ、
リコル海賊団の船長&二刀流剣士のゼンである。
「まあ、はい。
ゼンさんにはまだまだっすけど」
「お前はお前らしくいればいいんだよ」
「いいえ。
いつか、ゼンさんと同じ二刀流剣士になって見せるんで」
「ははは。
それは頼もしいな」
「それより、ゼンさん。
次はどこの島に財宝探しに行くか、
目星をつけてんすか?」
ビールジョッキをぐいっと一気に飲み干すゼンに、
カイが別の話題を持ちかける。
「いーや、まだだ。
とりあえず、
情報収集で一旦サンダリンズに戻ろうと思ってる」
「げ⋯、そう⋯すか⋯」
ゼンが言うサンダリンズというのは、
海賊達だけで作られた町で一般市民は住んでおらず、
カイ達の生まれ故郷でもある場所なのだ。
「どうした?カイ。
そんな露骨に嫌そうな顔をして」
「いえ⋯、別に⋯」
カイが苦虫を噛み潰したような顔をするのには理由があった。
その理由はたった一つだけで、女性である。
高身長でイケメン剣士であるカイが女性にモテないはずがなく、
サンダリンズに帰る度、
カイは多くの女海賊達に捕まってしまうのだ。
「カイは女の人にモテモテだもんね。
特に大人のお姉さんに。
あー、一度でいいから僕もカイみたいに大人のお姉さん方にちやほやされてみたいな〜」
「今までカイが何人の女の子を泣かせてきたのか、
僕は改めて聞きたいね」
羨ましそうに伸びをするナギサと悪戯っぽく微笑むセンリは、
カイがサンダリンズに帰りたくない理由を当然知っている。
「るせえ。俺は女が嫌いなんだよ」
「はっはっは。
カイ、お前みたいに若くて男前の男は、
女をはべらせてなんぼだぞ」
「⋯理解不能っす」
「今日行った町のサファニーブに一人くらいはいたんじゃないの?
カイ好みの女の子」
「は⋯い⋯?」
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