第3話

 セックスを終え、シャワーを浴びながら思考が鮮明になっていくことを奈美は意識した。

 掴まれ、舐められていた首に触れ、力を込めた。


「……同じだった」


 後ろ首を右手で掴み、そしてその後ろ首を舐める行為。進也と全く同じだった。偶然などではなく同じくせだった。

 ミナトは私を抱きながら綾香を重ねていた。つまりそれはあの行為が私と進也だけの行為じゃなく、ミナトと綾香もやっていた行為なのだ。

 あの行為はミナトが発祥だったのだろうか。ミナトが綾香にして、綾香がねだって進也が覚えた。そして進也は私とする時に同じように掴んで舐めた。

 もしくは綾香が発祥で進也とミナトに望んでさせていたのだろうか。

 どちらにしろそれが今日、私とミナトの間で行われたことに不思議な繋がりがあることを奈美は意識せずにいられなかった。


「因果なものね」


 ブラジャーとショーツだけを身に着け、浴室から戻るとミナトは窓近くの換気扇の下で加熱式タバコを吸っていた。

 下着だけを着て、スマホもいじらず虚空をぼんやりと見ながら煙を吐き出していた。

 わずかに聞こえてくる外の音から雨はまだ止んでいないだろうことが分かった。

 奈美は椅子に座り背もたれへと大きく背を預けた。オレンジ色の明かりだけが灯る薄暗りの中、ミナトのほうに顔を向けた。


「私に彼女を重ねられた? 私は進也を充分に思い浮かべられたけど」

「少しはな」


 素っ気なく一言だけの回答。


「首を掴んで舐めるさっきの行為、進也も同じようにしてた」


 ミナトは奈美へと顔を向けた。無関心っぽい顔だったが、その顔には少しの興味を滲ませている。


「あれって先に始めたのは誰なんだろう。私は違うから、進也か綾香さんかあなたよね、きっと」

「同じことされてたんだ。進也に」

「ええ、よくしてたわ」


 奈美は答えてすぐにミナトの言葉に違和感を覚えた。口にした進也の名前が親近感を持った言い方だったからだ。


「進也のこと、知ってるの? 知らないって言ってたけど」

「セックスしてる時にしてたその行為、俺から覚えたんだろ。俺が進也によくしてたから」

「は?」


 聞き間違いと思った。何て言った? 進也にしてた?

 目を開き驚いた顔を見せて固まる奈美を見ながら、ミナトはタバコを咥え煙をゆっくりと吐いた。


「誤解してるようだけど、同じって言ったのはさ、お互い進也のセフレ同士だったてことがだよ。俺は彼女のセフレじゃなくて進也のセフレ。花嫁とは会ったことないさ、だから今日見に来た」

「それ本気で言ってるの?」

「ああ、本当。進也もさっきのあんたと同じように俺の下で啼いてたよ。あんたみたいな金切り声じゃなくてさ、もっと性欲を駆き立たせて疼かせるような声だったけど」

「何それ……」


 ミナトの告白に奈美は困惑の表情を浮かべた。

 進也が男とセックスしてた? それも女性側として、しかもその相手がさっきセックスしたミナト?

 頭の中で自分を含めた四人の人間関係を浮かべ、奈美は結びつけた。

 事態を理解していくにつれ、奈美は鼻で笑いを漏らした。


「……笑える。進也、二股どころか三股してたんだ。しかもその内の一人は男で、あなたっていう」

「ああ、お互い相手から進也の欠片を。名残を感じられたな」

「本当、笑っちゃう」


 奈美はクスクスと呆れた乾いた笑い声を出した。

 どいつもこいつも歪んだ欲望を持っていることが可笑しかった。

 かすかに聞こえていた雨音は、得体のしれない生き物の嘲笑のような声となって奈美には聞こえていた。

(終)

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雨と私と男たち 頭飴 @atama_ame

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