#7
ロージアンは、この世界で存在が確認されている四つの〝
その大きさは南北 二,九〇〇
四つの〝大きな陸地〟のうちで一番小さかった。
そこには〈北方〉と〈南方〉とにそれぞれ特徴的な文化圏が広がっており、間に横たわる〈高原〉と呼ばれる不毛地帯――そこは南北双方から辺境と位置付けられている――で隔てられている。
その〈南方〉の地――そこはノルスタリー王家によって統一された地――を南北に貫いて伸びる〈王の道〉を一路、
ナットこと、
♠ ♡ ♦ ♧
三週間と一日ばかり後――。
シャイトンバラから北へと延びる〈王の道〉に、北上する〈ウォレ・バンティエ〉とナットら一党の姿があった。
このとき〈ウォレ・バンティエ〉の外観は、
いかにも〝急場
戦機の肩の関節は重要だ。そこの防御を〝
改めて〈ウォレ・バンティエ〉の〝機付け〟技師となったバートにも、そんな状態は不面目だったらしい。シャイトンバラで戦機工房の一つに話をつけると、一週間ほど工房の片隅を借りて、さっそく本格的な改修作業に入った――。
先ず彼は自ら
同時に、他の装甲も全て取り外し、丁寧に清掃・修繕をしてから組み直した。
再び装甲を
またそれに先立ち、装甲片の全てを新たな色で塗装し直している。
そんなこんな――工房の使用料やら肩装甲・青の塗料の代金など――で出費は
それと一週間のシャイトンバラ滞在で
工房仕事の合間合間に〝サイコロ賭博〟に通い詰めると、あっという間に金貨四枚もの負けを重ね、裸に剥かれて三人に泣き付くことになった。……つまり
そんな男だったが、いまは〈ウォレ・バンティエ〉の機付け技師――
三人は頭を抱えてしまったが、デリクが〝三人の知らぬ場所で二度と賭け事はしない〟ことを誓わせ、負け金を払ってやることとなった。……デリクが怒り心頭だったのは言うまでもない。目下のところバートは忠実に誓いを守っている。
――というわけで、〈ウォレ・バンティエ〉はその装いを新たにしていたのだった。
♠ ♡ ♦ ♧
彼らは水場を求めて〈王の道〉から少し脇へと小路に入り、小川が落ちて小さな滝壺を作っている水辺に馬車と戦機を停めた。
「やあれやれ、やっとメシだメシ」
ロバから
「もう一週間はマトモなものを食べてないなぁ」
二日ほど前に、彼らは〈王の道〉から北部総督の居城〈ウェッバー城〉へと分かれる枝道に来たところで
〈ウェッバー城〉を訪問していれば、リーク卿の『紹介状』もあって、豪勢で温かい食事と柔らかい寝台を期待できたと、そうハリーは思っている。
だが三人は、実際には、
新たに一党に加わったバートが、それを止めたのだ。
バートが言うには、北部総督のウェッバー家は〈河間平野〉の
バートの言葉にデリクとナットは納得し、
そうして〈北部〉でも北辺部――〈高原〉との境界地方――に入って四日ほど。
そんな二人それぞれの耳が、滝壺の方でした大きな水音を捉えた。
反射的に目線を振った二人は、滝壺から少し下った流れの中を流れていく人の頭を見た。
「……あー、これは
バートの、感情を呑み込んだふうな間抜けな声を聴いたが、二人も、
しっかりとした
「……誰か……(ケハッ)……助っ……(コフッ)……けてっ…――」
どうしたものか、動くに動けなくなってしまった三人を余所に、ただ一人ナットが〈ウォレ・バンティエ〉の
そうして三人は、ことの成り行きを神妙な面持ちで見守りに入った。
これは断っておくべきことだが、三人は三人とも〝金槌〟……泳げないのである。
さて少女は、自分に向かって飛んできた枝木に悲鳴を上げたが、枝木が頭上を越えて少し先の流れの中に落ちると、それが浮き具になると理解し、必死に腕を伸ばしてしがみついた。
そんな少女にナットが追いつくのに一〇パッスス(≒15m)ほど下流へ流され、少女を岸へと引き上げるまでには、さらに一〇パッススほど流されたのだった。
♠ ♡ ♦ ♧
ナットに手を引かれて小川から岸に上がった少女は、ひとり離れてうずくまると、咳き込みながらもなんとか自分で水を吐き出した。背中に張り付いた長い髪は、北部人の中でも珍しい
やがて
それなりに整った顔立ちをしていた。
一四、五歳くらいだろうか。痩せていて、ナットの肩口くらいの背丈だったから
「……ありがとう」
少女は、ナット ⇒ バート ⇒ ハリー ⇒ デリクと順に目線をやって一行を観察をした。
「あの……」
再びナットへと視線を戻した少女の
「体が冷え切る前に火に当たったら。服は貸すから」
ナットが警戒心を解くように
「――いえ。心遣いはありがたいのですが、わたし、もういかないと」
……やはり〝訳あり〟らしい。
「あの、……本当に、感謝します」
言って
ナットも、他の三人も、それを咎めだてるような不粋はしない。こういう場合ただ黙って頷き、〝ここでは何もなかった〟ことにするのが
けれどこのとき、状況はこれで終わりとはならなかった。
ナットの視界の中で少女の動きが
その視線が、ナットを通り越して彼の後ろに立膝をついて鎮座している〈ウォレ・バンティエ〉に釘付けとなっている。
「……あの戦機は、あなた方の?」
そうして少女がそう訊いてきたときだった。
背後で梢が盛大に揺れたと思ったら、灌木の繁みを割るようにして、
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