どうやら十年後に転生されて死ぬらしいです
仲仁へび(旧:離久)
どうやら十年後に転生されて死ぬらしいです
どうやら十年後に転生されて死ぬらしいです。
未来視の能力を得た私チェスティスは、自分の部屋で呆然とするしかない。
私は裕福な家の娘だ。
両親からはそれなりに甘やかされて育ってきた私は、とりあえず食べるものや寝る場所に困った事はない。
少しばかりやんちゃ、いや男勝り、ではなく、活発な少女になったが、礼儀作法はしっかりと身に着けている貴族令嬢である。
そこらへんをうろついている野良モンスターを素手で殴り倒してりなど、してはいない。
そんな私は、たった今特殊な能力を授かった。
この世界の人間にとって、それはよくある事で、神様が独自の基準で人間に特殊能力を与えてくれるのだ。
大抵は善い行いをした人が得るのだが、たまになんでプレゼントされたのか分からない人もいる。
神様だって生きているのだから、気まぐれでそんな事もするだろう。
というのが、一般の感想だが、本当のところは不明である。
私的には、将来性を見込んで成長のためにプレゼントしてくれている説を推したい。
それはともかく、私は十年後に死ぬらしい。
異世界の人間に転生されて。
異世界とは、今私がいるところとは別の世界だ。
こことは別の、飛行機や高層ビルが存在し、科学技術が発展している世界。
そこに住むとある女性リンナが、私の体に転生してくる予定である。
リンナの住む世界には、こちらの世界の出来事をつづった創作物が存在している。
それは乙女ゲーム、というものらしい。
それで、その創作物「乙女ゲーム」を遊んでいたリンナは、ひょんな事で事故にあって死ぬらしい。
次に目覚めた時は転生していて、新しい人生を歩む事になるのだが、
ーーその転生先が私なのが大問題なのであった。
転生が発覚した瞬間、つまり今から十年後に前世の記憶がよみがえった途端に、私の精神は死ぬことになるらしい。
いい感じに人格が統合されたりすることはなく、また別の場所に魂が飛ばされたりするようなこともなく、精神の上書きによって心がお亡くなりになるのだ。
もちろんそんな将来はご免である。
だから、私は十年後に死なない方法を探す事にしたのだった。
最初に相談したのは幼馴染の男の子ディパート。
未来視で得た乙女ゲームの知識ではーー攻略対象と呼ばる存在だ。
乙女ゲームの中では。両親が事故で死んた影響で荒んでしまった人間として登場する。
でも、目の前の幼馴染の男の子はまだ元気はつらつといった感じで、「今日は何してあそぼっか」とニコニコしている。
疑う事を知らないという、私とは別の意味で将来が心配な彼に、とりあえず事情を説明。
なに。それなりの付き合いのある男の子だから、少し疑われるかもしれないが、最終的にはーー。
「そんなの信じられないよ!」
話が違うよ!
「なんだと! 信じてくれないというのなら魔物をけしかけてやる!」
「信じます! 信じるからあれはもうやめて!」
色々あったが、なんやかんやあって、協力をとりつける事に成功した。
次に相談したのは婚約者の男の子エルネル。
ゲームでは、濡れ衣を着せられる事が多い悲運体質の攻略対象として描かれる。
それはある意味嘘であり、恨みをかったとある家に呪いをかけられているというのが、ストーリーの終盤に判明する人物だ。
「なんですか。話をしにきた? うるさい人は嫌いだといったでしょう。俺たちの仲は両親によって決められただけの関係なんですから、こないでください」
ちょっと性格が悪いけど、悲運体質を解決できるかも、と言ったら数秒沈黙してから協力してくれるようになった。
決して「私の話を聞いてくれないと一生お前の将来設計につきあってやらないからな! 婚約解消にも同意してやらないからな」という脅しが聞いたわけではない。
最後に相談したのは、旅人のフルーテお兄さん(200歳)だ。
この人は、古代から生き続けている不思議な種族。
エルフという存在だ。
普段は普通の人間に姿を偽っているけれど、本当の姿は耳がとがっていて、公表している年齢より見た目年齢が若い(10代後半から20代前半くらい?)。
そんなお兄さんは、不老不死という能力を神様から授かっているため、困っている。
いつまでも若いままでいられるのは嬉しいらしいが、死ねないのは苦痛だとか。
「世界が破滅したりしても一人で生き残るのは拷問だよね」というゲームの言葉には、確かに私も恐怖してしまう。
そんなフルーテお兄さんとはまだ会っていないし、居場所がわからないしで接触に困ったけど、どうにかして顔を合わせる事に成功。
「エルフのお兄さんがいたら私の家によってって言って! ぜひ来てくれ!」なんてエルフに興味のある女の子を演じて噂を立てる事で、何とか解決した。
それで出会ったフルーテお兄さんに、不老不死の能力をなくす方法を知っている、と言って協力を取り付けたのだ。
「死ねないのは嫌ですよね! 自分の心が狂っていても体だけが生き続けるのは嫌ですよね! マグマの中に放り込まれても生き続けるのも地獄じゃないですか!」
と、敬語を心がけながら、丁寧な共感の姿勢を貫いたら「声音が本気すぎて怖いよ、本当に普通のお嬢さんかい?」と、ちょっと引かれてしまったが。
なんかちょっと親近感を覚えるから想定よりやりすぎてしまったようだ。
そんな攻略対象ズには、もちろんゲームのシナリオのことも未来視の力とともに伝えた。
転生した女性がやらかす騒動の範囲がいろいろ大きいので、彼らに何とかしてほしかったのだ。
異世界転生じゃんラッキーが、この世界での第一声である女性リンナは、とにかくやらかしまくる。
自分は乙女ゲームの主人公だから愛されて当然、成功して当然、何をやっても許してもらえるという思考で問題を起こしていく。
それ以外でも、お前本当に私の前世なのかと疑わずにはいられない暴挙を繰り返すのだ。
ストーリーの舞台である魔法学校に在籍しているのに、勉強はしないし、人に意地悪するし、校則は破る、罪は犯す。
それだけなら、思春期の人間が痛いことをやっているですませる事ができただろうけど、彼女は中途半端に攻略対象の問題に首を突っ込んでしまう。
禄に努力も練習もしていない魔法を使って問題を解決しようとして失敗し、禄に調べもしてない土地で人の足を引っ張る。
起こる事件のすべてに軽はずみに首を突っ込んで、被害をまき散らしたりもするのだ。
未来視で、私の顔をした他人がそんな騒動を起こすと知った時の絶望と頭痛の深さは、計り知れない。
だから、何とかしなければならないのだ。
自分のためにも、周りのためにも。
とはいっても、どうすれば解決するのか分からない。
前世の記憶を思い出さないようにする方法なんて分からないし、リンナが暴走しない方法はもっと分からない。
はっきりいって解決方法なんてないのではないかと思ってしまった。
でも、あったらしい。
思ったものではなかったが。
とりあえず目の前のことをコツコツやっていったのが功をなしたのだった。
事故に合わなかった幼馴染の両親が、ホムンクルスという人工的な新しい種族について研究していて、
悲運体質解消の方法が分かった婚約者が神様の目に留まり、見えないものを掴む能力に目覚め、
不老不死の能力の喪失にめどのついた旅人のお兄さんが、あらゆる衝撃から魂を保護、欠損した部分を再生させる秘儀を見つけ出してくれたのだ。
実は、前世の記憶がよみがえる瞬間に、魂の状態が不安定になり、魂がいくつかに分かれてしまうらしい。
放っておくとその魂は、一つにまとまっていくようで、私ーーチェスティスはリンナの持つ前世の記憶や魂に上書きされるらしい。
その時に魂を保護し、能力で魂の一部を抜き取って、別の器ーーホムンクルスに入れようというわけだ。
そして時が流れて、未来視の能力を得てから十年が経過した。
ついにその時がやってくる。
それは、熱を出してぶっ倒れた翌日のことだ。
私は、両親に無理を言ったり、嘘をついたり、またはこっそり侵入させたりして、自分の部屋でスタンバっていた攻略対象ズな三人の協力者に合図をする。
前世の記憶がもうすぐよみがえると。
そこで猛烈な頭痛に襲われた私は、確かに魂に衝撃が走った。
しかし、何かに魂が包み込まれる間隔があり、意識が寸断。
次に目覚めた時は、元の自分に似た顔のホムンクルスになっていた。
転生されて死ぬ未来は回避できたのだ!
私はほっと胸をなでおろす。
私の未来は変わったが、リンナは未来視通りのままだった。
私の体を使って第二の人生を生きる彼女は、攻略対象にアピールしつつも、他人に迷惑をかけてばかりだった。
絶えず問題を起こし続けるため、あちこち大変な思いだ。
両親だってあまりの変わりように仰天していた。
「魔物を殴り倒していたあのチェスティスがすすんでお化粧をしようという時は、世界がひっくり返るような思いだったぞ」
「傷だらけでいじめっ子を退治していたチェスティスが、かすり傷で大騒ぎする日が来るなんて、思わず夢かと思ってしまったわ」
と、このように。
両親にはしばらく心配をかけてしまった。
あまり不思議な事に耐性のない彼らにどう説明しようか悩むあまり、余計な心配をかけてしまったようだ。
そんなこんながありつつも、リンナの暴走は続く。
だから、そうそうに見切りをつけて、けりをつけることにした。
その時には、両親にも事情を話していたため、彼らは泣く泣く娘の入れ替わりを理解し、その後のリンナの顛末にも了承してくれた。
「まったくどうしてみんな私のことを邪険にするのよ。せっかく乙女ゲームの世界に転生したっていうのに」
攻略対象たちの問題が解決していることにも気づかず、それを確かめようとすることもなく行動するリンナ。
私は、そんな彼女を手紙でとある場所へ呼び出した。
ゲームのバッドエンドで悪役令嬢が命を落とす場所に。
ちなみに私が未来を変えた事でほかの人も少し変わっている。
ゲームで登場していた悪役令嬢の行動も何かしらの影響を受けたのか、本来よりも目立たなくなっていた。
悪役になるはずの少女は、普通の貴族令嬢として生活しているままだ。
不幸になる人間が減ったのは喜ばしい事だ。
弱い者いじめは好きじゃないから、原作のままだったらリンナとは別に対処しなければならないところだった。
話を戻して。
私の手紙に呼び出され、邪悪な心の持ち主が訪れると、悪霊に殺されるという呪いの森に訪れたリンナ。
私は、そんな彼女の前に顔を見せる。
ホムンクルスの体といっても、基本的なパーツは元の私とほぼ同じだからな。
彼女は狼狽し、「どうして私が!」と叫ぶ。
私は正直に「未来を見た」からと伝えた。
神様が力を与えてくれたため、訪れるかもしれない未来に向けて対処したのだと。
「そんなのおかしい! これは私のための世界なのに」
「この世界はお前のものじゃない。一人のわがままで振り回していいものじゃないんだ。私だってお前とは違う別人なんだから、死にたくはないし、振り回されたくない」
転生してきただけなら、単なる事故だろうから、リンナをこんなところに呼び出すような事はしなかった。
しかし彼女は自分の欲望のために迷惑をふりまいた。
だから、私は動くしかなかった。
彼女の末路は、彼女自身の行いが自分にかえってきただけのこと。
自業自得だ。
「ふざけないで、私はこんなところでお前なんかにやられたりしないわ。私はこの世界の主人公なんだから!」
そこでその場に現れたディパートとエルネルとフルーテ。
大した交流もないのにどうしてそんな勘違いができるのか、リンナは勝ち誇った顔をする。
味方になってくれると思っているのだろう。
「あなたたち、私を心配して探しにきてくれたのね! この人が私を殺そうとしてくるの! 助けて!」
しかし、三人は冷たい視線を向けるだけだ。
「味方になるとでも思ったの?知り合いでもない人のために」
「乙女ゲームだか何だか知らないが、誰がお前なんかをかばうもんか」
「その体で悪事を働かないでほしいな。知り合いのかわいいお嬢さんの体だからね」
現実を思い知ったリンナは、髪を振り乱して激高し、私につかみかかってきた。
しかし、どこからともかく悪霊が集まってきて、彼女にとりつき、苦しめはじめる。
彼女は最後まで、「どうして」と言い続けながら、苦悶の表情で命を落とした。
自分の死に顔を見るのはなかなか精神に悪い光景だった。
再び魂を入れ替える事ができたら良かったのだが、それはできなかった。
魂を長く肉体の外に出しておくことはできないし、転生発覚時のような特別なタイミングでなければ一つの肉体の中に二つの魂が存在することなんてできないからだ。
そこらへんはフルーテお兄さんが秘儀を見つけたついでに知った事だ。
リンナが破滅したその後は平穏だ。
両親はホムンクルスになってしまった私を変わらず愛してくれたし、幼馴染や婚約者、お兄さんも以前と同じように付き合ってくれる。
自分の目的のために巻き込んだ者たちだが、彼らは私を対等な存在として見てくれているのでありがたかった。
「自分のためだなんていってたけど、それだけじゃないって知ってるから。どれだけ幼馴染として一緒にいたと思ってるの」
「まあ、お前のおかげで頭の痛い問題が消えたのは事実だから、恩返しするのは人として当然のこと。もう返してくれたって? いや、俺の感じた恩の重さは俺が決める」
「お嬢さんのおかげで世界が滅びた後も生き続けなくて済むようになったからね。それに、君はなかなか個性的で楽しいし。しばらく一緒にいたいなって」
しかしやはり、時々不思議に思ってしまう。
未来視で未来を変えるくらいなら、最初から転生なんて現象起きなければよかったのに、どうしてこんなことが起こってしまったのだろうかと。
世界の仕組みや運命とやらに意思があるなら、問いただしたいところである。
???
友達といえる存在がみんないなくなってしまった。
事故で心を病んでしまった幼馴染が正気を失った。
悲運な人生にもてあそばれた婚約者は、運の悪さで破滅した。
たまに顔を合わせる旅人の優しいお兄さんは、不老不死の秘密を知られたものによってさらわれ、消息不明だ。
皆を助けたい。
独りぼっちはいやだ。
孤独に生き続けるのは嫌だ。
家族はいない。
私が落ち込んでいるのを見て、サプライズの贈り物を買おうとしたら、強盗に殺されてしまった。
この状況を何とかする力がほしい。
でも、力そのものを直接くださいだなんて贅沢は言わない。
手段さえ教えてくれれば努力をきちんとするから。
誰でもいいから手を差し伸べてほしい。
私は必至に神様に向かって祈った。
すると神様は私を憐れんでくれたのだろう。
特別な力を授けてくれた。
それは「みんなを助けるために必要な力が手に入る場所にいける」というものだった。
私は力に導かれるままに、その場所に向かった。
悪霊の森で命を落とした私は、転生して別の世界に生まれ変わったのを悟る。
その世界は、元の世界の出来事が創作物になっていた世界だった。
三人の知り合いが幸せになれる可能性ーーハッピーエンドの存在を知った私は、これでみんなを助ける事ができると喜んだ。
けれど、胸を躍らせる思いでいられたのは、転倒事故で頭を強く打つまでだった。
前世の記憶がばらばらに消えていくのを感じた私は、同じ世界からとり憑いてきた怨霊の魂と、自分の魂がまざるのを感じる。
私はそれをどうすることもできなくて、心の中で悲しむ事しかできなかった。
それから少し後。
ほんの少しだけ正気に戻った誰かと、運の悪さで破滅を待つだけになった誰かと、闇組織の拠点のどこかにさらわれた誰かが同じことを願った。
とある一人の少女と、また会いたいと。
その願いを聞き届けた神様は、別の世界でばらばらになった記憶や魂の一部を元の世界へと返したのだった。
どうやら十年後に転生されて死ぬらしいです 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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