第6話 初めてのレベル上げ

 ユウはフウアと共に初心の森を進んでいた。外観自体は、前にいた駆け出しの森とさほど変わらない。どこまでも木と植物が生えている。緑がいっぱいで土は柔らかい。

 そんな森をユウはきょろきょろとし、若干怯えながら歩いていた。怖いのだ。いくらレベルが低かろうと、モンスターという時点でユウは怖かった。


 その様子を隣で見ていたフウアは、安心するように言う。


「大丈夫。ここはレベルも低いし、何かあったら私が何とかするから」


 頼もしい言葉だなと思いつつも、ユウはこうも思う。なるべく、何かなんてないでほしいなと。命が危ぶまれる事態なんて特にごめんだ。だって、怖いから。

 ユウはそう思いながらも、フウアと共に森の中を歩いていく。


「そういえば、ここらへんってどんなモンスターが出るんですか?」

「そうね……。色々でるけど、一番は蹴兎キック・ラビットかしら」


 ラビットと聞いて、ユウは兎を思い出す。もっとも、モンスターな時点であの兎とは全く違うのだろうが。


「どんな見た目かというと……、あっ、いた」

「えっ」


 フウアが指さした方向をユウは慌てて見る。茂みに隠れた奥に確かにいた。身体は薄いピンク色。今まで出会ったモンスターの中では圧倒的に小さく、愛くるしい見た目をしている。が、ユウはすぐに悟る。このモンスターが愛くるしい生物ではないことに。なぜなら、物凄い目つき、まるで獲物を見るような目でユウとフウアを見ていたからだ。


「あのモンスター、絶対にこっちを襲ってきますよね……」

「ほぼ確実にね。でも、大丈夫。あの蹴兎キック・ラビットはレベル1だから。ユウでもすぐに倒せるわ」

「そっ、そうですか……」

「じゃあ、さっそくやってみて。大丈夫、ヤバそうだったら私がサポートするから」

「わっ、わっ、わかりました……」


 ユウは震える声でそう言う。とうとう来ちゃったよとユウは内心そう思う。モンスターなんて戦いたくない。怖い、怖すぎる。でも、戦って経験値を積まないとどうにもならない。

 やるしかないのだ。ユウは自分にそうに言い聞かせ、剣を構える。そして、蹴兎キック・ラビットの方へと歩み出た。


 蹴兎キック・ラビットがユウへと視線を移す。その目は前に出て来た獲物を今にも狩ろうかとしていた。

 怖い、怖すぎる。レベル1だなんて行ってたけどやっぱり怖い。ユウは視線を向けられた瞬間、手の震えが止まらなくなる。


 頑張ってとフウアの声援が聞こえる。そうだ、何とかしなくちゃ。ユウはそう思い、どうしようか考えようとする。


 が、モンスターはそんな時間はくれない。


 刹那、ユウの顔面を狙い、蹴兎キック・ラビットが飛び出してきた。ユウは慌てて避けるも、勢いで尻もちをついてしまった。

 そんな隙を狙い、キック・ラビットは再び蹴ってくる。


「ひぃぃぃぃぃ」


 情けない声が出た。避けること自体には成功したが、ユウは怖くて仕方がなかった。やっぱり、無理だ、無理。怖い。的確に顔面狙ってくる。殺意高すぎる。怖い。

 そんなユウを励ますように、後ろからフウアの声が聞こえてくる。


「大丈夫! 当たってもそんなに痛くないから! それに、キック・ラビットの耐久はほぼ0に近い。速さに数値を振っているからその分耐久が脆いの。だから焦らずに剣で斬ればすぐに倒せるよ!」


 その言葉にユウは少しだけ落ち着きを取り戻した。よろよろと立ち、剣を構える。相変わらず腕は震えているが、何とか蹴兎キック・ラビットの方を見ることが出来た。

 視線を向けて来たユウの事を、蹴兎キック・ラビットは再び睨みつける。その視線を受け、ユウはさらに震えだした。


 怖い、やっぱり怖い。


 今すぐにでも逃げ出したい。フウアと交代したい。そっちの方が、危険はないかもしれない。でも、それだと駄目だ。それだと、何もできなくなる。ユウはそう思い、震えながらもなんとか蹴兎キック・ラビットの方へ駆け出す。


 蹴兎キック・ラビットはすぐに飛び出した。もう一度、ユウの顔面を狙ってくる。が、それは読んでいた。


 顔面に来るギリギリで避ける。今度は、尻もちをつかないで出来た。ユウはその事に、内心ガッツポーズをしつつ、蹴兎キック・ラビットの方を再び見据える。


 蹴兎キック・ラビットは次の攻撃の準備をしていた。その様子を見つつ、ユウは考える。ステータスが見えるだろうフウアが言うなら、耐久が0に近いというのは本当だろう。が、逆に速さに偏っているのも本当。

 蹴りを入れてきたら、ユウは避けることしか現状できない。こういうときに遠距離攻撃が出来るのがあったらいいが、出来そうな魔法は使えない。


 どうしようかと考えていると、ユウはふと思いついた。


 これい行けるか?とユウは考える。速さで劣っている現状、これはありかもしれない。どうするかユウは考え、とりあえずやってみようという結論に至った。


 蹴兎キック・ラビットは刹那、今までと同じように蹴りだしてくる。


 ユウはそれに避けるのではなく、地面を蹴った。その瞬間、蹴兎キック・ラビットに土が襲い掛かる。普通の人間なら対して問題ないだろうが、小柄な蹴兎キック・ラビットにとってはかなり多い。


 蹴兎キック・ラビットは後退し、視界を塞ぐ土を何とかしようとした。その瞬間、ユウは地面を駆ける。

 蹴兎キック・ラビットは耳もデカい。だから、耳にも土が入っていた。視覚と聴覚が正常に機能できていない以上、どうしようも出来ない。


 その隙を狙い、ユウは蹴兎キック・ラビットへと剣を振り下ろす。蹴兎キック・ラビットの身体は聞いていた通りに柔らかく、一瞬で真っ二つにすることが出来た。


 血を流し、倒れている身体を見て、ユウはぼそりと呟く。


「しっ……、しんだぁ?」


 そう呆然と見ていると、戦いが終わったと確認したフウアが駆け寄って来た。


「うん、良かったね! 初勝利だよ!」

「倒せたんですか……? 俺?」

「倒せたよ! 大丈夫。それより、ステータス見てみて」


 フウアの言葉にいきなりと思いつつ、ステータスを見る。そこにあったのはユウを驚かせる物だった。


*****


・ユウ・ハヤマ

レベル:2

クラス:魔法剣士


基礎ステータス

HP:20 耐久:11 力:3 速さ:7 魔力:?

クラスステータス

剣術:4 火魔法:0 水魔法:0 土魔法:0 風魔法:0 光魔法:0 闇魔法:30


*****


「あっ、上がってる……」


 その数値を見た瞬間、ユウは久々にめいいっぱい声を上げ、ガッツポーズをした。やった、上がった。上がったんだ、レベルが。1つだけ、いや違う。1つも上がったんだ。ユウはそれが嬉しくてたまらない。


「どっ、どうしたの……?」


 フウアは困惑したようにユウを見ている。確かに、1つだけだし大げさな反応に見えるかもしれない。ほかの冒険者が見たら何も思わないかもしれない。

 カンストはおろか、レベル10にもまだまだな状況だ。それはユウも分かっている。それでも嬉しかった。1つでしかないが、1つだけでも進むことが出来た。なにより、自分の頑張りが認められたことが嬉しかった


「嬉しいんです。レベルを上げられて」


 だから、ユウは満面の笑みでそう言った。その笑みにフウアも釣られて、笑う。これが、初めてのレベル上げだった。

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