「ホラーが好きだー!!」と、海に向かって叫びたい。
そんな青春のほろ苦さを読後に感じました。
親すら異形、ひたすら異形のものに囲まれる。
大切なものまで、あちら側に奪われる。
そんなぎりぎりの恐怖の中で暮らす主人公の日常が、宇多田ヒカルの「歌」、いつの時代も変わらないであろう「弁当」などをはじめ、あくまでも「正常」で、象徴的な「もの」たちとともに進む。
異形の中に「正常」があるから、主人公の怖さ、甘くほろ苦い青春が際立つ。美しく引き立つ、と感じました。
映画のようなラストシーン。ホラーと青春の素晴らしさ、さわやかさ、懐かしさを、存分に堪能させていただきました。ありがたい時間でした。
この世界はもう、「手遅れ」なのかもしれない。冒頭から数行を読み進める中で、そんな事実が垣間見えるようになりました。
主人公の此木夕子は、世界が「異形の何か」にとって代わられようとしていることを察知する。
合衆国の大統領は顔に穴の空いた何かになっている。そして両親ですらも怪物めいた何かへと。
あちこちで「よくわからない何か」が普通の人と入れ替わり、当たり前のように日々を過ごすようになっている。
でも、夕子以外の誰もその事実には気づいていない。それでも着々と「侵略」は進んでいって、どんどん「人間」が「何か」と挿げ替えられていく。
そんな絶望感の中で、夕子はただ「宇多田ヒカル」の曲をipodで聴いて過ごす。全編から漂う平成のノスタルジー。
クトゥルフの眷属のような異形たちのはびこる世界で、平成で流行した宇多田ヒカルや椎名林檎などの歌姫の存在に触れていく。
やがて夕子が知り合うようになる桜井栞。彼女は普通の人間で、夕子とも「友達」として接してくれるようになる。
大切なものが出来始めた夕子。彼女が獲得した平穏はこの先も維持することが出来るのか。そしてこの世界はどうなってしまうのか。
雰囲気抜群で、続きがとても気になる作品です。