電車の呼び声
二ノ前はじめ@ninomaehajime
第1話
電車が嫌いだった。
私が暮らしている町は片田舎で、
忌々しい真夏の太陽を避け、バスの停留所でベンチに座っていると、市営バスがやってきた。四角いフロントガラス越しにまだ若い運転手がハンドルを握っていて、私の顔を見ると露骨に嫌な顔をした。手を上げて挨拶したのに、降りる乗客がいなかったのか排気ガスを撒き散らして目の前を通り過ぎてしまった。
そのバスの後ろ姿を見送りながら、この町の
ともあれ、店に商品がある以上は外との交流があるのだろう。私が知る限り、人々が自主的に町の外へ出ることはない。彼らも本能的に危険を感じているのだろうか。ならば品物がどこからやってきて、誰が運んでいるのだろう。あまり想像したくなかった。
日が暮れてきて、私は重い腰を上げた。パーカーのマフに両手を突っ込み、iPodを操作して音楽を流す。イヤホンから
漫然と音楽を聴いていたためか、赤く
町の中心から離れた自宅のあいだには、長い鉄道の線路が横たわっていた。帰宅するためには踏切を渡らなければならず、いつも
薄い靴底から振動が伝わってくる。視野の端で、迫り来る先頭車両の
大雑把に切り揃えた前髪が強風になぶられる。俯いた私の前で大きな圧迫感が生じた。その圧力に耐えながら、一心に願った。とっとと行っちまえ。
電車が通過するまでの時間が長く感じた。忌まわしい存在感が面前から消えると、
大きく息を吐いて、
形容するのなら、肥大化した赤子だろうか。楕円形の頭部が異様に大きく、小さな陥没が至るところで陰を濃くしている。反比例して胴体と四肢は短く縮んでおり、とても巨大な頭を支えられるとは思えない。
山に沈みゆく夕日を背にしているためか、濃い
心の中で言い聞かせた。落ち着け、少し
赤い裂け目が小さく開閉し、何事かを呟いているのがわかる。私は睫毛を伏せた。イヤホンから流れてくる歌声に集中する。いくら平静を
一分にも満たない距離の踏切が、長く感じた。一歩一歩が重く、頭の芯が痺れる感覚があった。緊張のせいか、曲が歪んでいる。ラジオの周波数を合わせる途中の音声に似ていた。中東の言語を拾って、日本語と重なって混じり合う。
「をあぇいぃ」
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