第2話 断罪イベント、開幕5秒で退場希望

「アメリア=フォン=クラッシュハート! 貴様の悪行、もはや見過ごすことはできない!」


——はい、来ました。断罪イベント、開幕です。


場所は王立アカデミーの大広間。

天井にはシャンデリア、床は赤い絨毯、周囲には貴族の生徒たちがずらり。

そして中央には、私と王子と、泣きじゃくる聖女ちゃん。


「アメリア様、どうして……どうして私にこんなひどいことを……!」


「はいはい、出た出た。泣き芸、100点」


「えっ?」


聖女ちゃんが涙を止めて、目をぱちくりさせる。

周囲の生徒たちもざわつき始める。


「アメリア様、今のは……?」


「いや、だってさ。これ、もう100回目なんだよ?

毎回同じ展開で、私があなたに紅茶ぶっかけて、王子が『なんてことを!』って怒って、私が断罪されて、国外追放されて、次の人生へGO!でしょ?」


「……え、ええと……」


「だから、今回は先に言っとくね。はい、私が悪役です。性格最悪です。性根も腐ってます。

でも、今回は断罪される前に自分で退場しますので、どうぞご心配なく!」


私はくるりとドレスの裾を翻し、壇上から降りた。

観客席の貴族たちがぽかんと口を開けて見送る中、私は堂々と出口へ向かう。


「アメリア、待ってくれ!」


王子の声が背後から飛んできた。

ああ、来た来た。毎回このタイミングで、王子が“正義の鉄槌”を下すんだよね。


「アメリア=フォン=クラッシュハート! 君との婚約は——」


「破棄される前に、こっちから破棄するわ!」


「えっ!?」


王子の口が“破棄”の「は」の形で止まった。

まるで、セリフを横取りされた舞台役者のように、彼はその場で固まっている。


「な、なんだって……?」


「だから、こっちから願い下げって言ってんの。あんたと婚約しても、どうせ断罪されるんでしょ?

だったら、最初からお断りしておいた方が、精神衛生上よろしいのよ!」


「そ、そんな……僕のセリフを……先に……」


王子はその場に崩れ落ちた。

あ、やばい。ちょっとやりすぎたかも。


「アメリア様……すごいです……!」


聖女ちゃんが、うるうるした目で私を見ている。

あれ?泣くタイミング間違ってない?


「まさか、あのテンプレを……自力で回避するなんて……!」


「いや、回避っていうか、もう飽きたのよ。

毎回同じ展開で、同じセリフで、同じ断罪。

こっちは人生100周目なんだから、そろそろ自由にさせてほしいの」


「……アメリア様、私、あなたについていきます!」


「えっ、なんで!?」


「だって、私も転生者なんですもの!」


「えええええええええええええええええええええええ!?」


---


その夜、私は日記にこう書いた。


---


**アメリアの転生日記(100回目)その2**


・断罪イベント、開幕5秒で自分から退場。

・王子、セリフを奪われてショック死寸前。

・聖女ちゃん、まさかの転生仲間。

・この世界、やっぱりバグってる。

・次はパン屋で働いてみようかな。パンは危険だけど。


---


「ふふふ……次は平民ライフ、満喫してやる!」


私は決意を新たに、明日からの新生活に胸を膨らませた。

だがこのとき、私はまだ知らなかった。

パン屋が、まさかの“聖剣の封印場所”だったなんて——。


---


次回!

**第3話「平民ライフ、開始5分で王子にバレる」**

アメリア、パン屋でバイト開始!

だがそこに現れたのは、まさかのあの人!?

次回もテンプレ破壊、止まりません!

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