第9話 観測暴走(かんそくぼうそう)

翌週。

街は明らかに“壊れかけ”ていた。


・SNSでの誹謗中傷が過去最大

・駅での口論が連続

・家庭内不和の急増

・無気力層の拡大

・対立するデモ隊の異常な増加


人々がそれぞれ違う“層”を観測し始め、

意識が揃わなくなっていた。


世界が二つに割れつつある。


響きの会のメンバーが集まり、

状況を伝え合うが、

全員の顔が青ざめていた。


佐穂が震える声で言った。


「昨日、会社で……

 急に怒鳴り合いが始まって……

 まるで全員、我慢の糸が切れたみたいで……」


蒼真は拳を握った。


「SNSも地獄ですよ。

 何書いても攻撃される。

 “平和”とか言うと逆に叩かれる。」


老人の藤宮は静かに言った。


「層のズレが、加速しておる。

 このままでは、

 戦争はなくとも、

 意識がバラバラになってしまう。」


れんは泣きだしそうになっていた。


「ねぇ……おじさん。

 どうすればいいの?

 みんな……ばらばらになっちゃうよ……」


和光は深く深呼吸した。


「方法はある。

 “最終共鳴”だ。」


全員が息を呑んだ。


「平和の層と、分断の層。

 そのふたつを……

 俺たちが、響きでつなぐ。」


佐穂が眉を寄せた。


「……そんなこと、可能なんですか?」


「可能だ。

 この前、宇宙層で……教わった。」


藤宮は目を細めた。


「つまり……

 身を削る覚悟がいるということか。」


和光は黙って頷いた。


れんが手を強く握りしめた。


「いやだ。

 おじさん、しなないで……

 そんなの、いやだ……!」


和光はしゃがんでれんの手を包んだ。


「死なないよ。

 必ず帰ってくる。」


嘘ではない。

ただ――確約できることではなかった。


世界を救うために必要な代償。

それは、和光自身の“生命力”だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る