Episode=10 襲来:Invasion-02

腕に装着した盾と左手の銃を構え、ゆっくりと施設へ侵入していく狩人。どうやらこの施設は何かの物販店のようなものらしく、人一人分程度の幅で並べられた棚の影響もあり、かなり視界が狭められる。


(…気配は感じる。だがどこに隠れている…?)


警戒しながら奥へ向かって歩いている最中、不意に聞こえてきた金属音。それは何かピンのようなものが外れる際に響く、硬質な音にも似ていて。

音を耳にした狩人が、聞こえてきた方へ銃を構えようとした、その直前。足元に音を立てながら転がってきたのは、少し縦に長く設計された円柱の物体―――いわゆる、閃光手榴弾だった。


「!これは…!」


視認した直後に咄嗟に盾を構え視界を塞いだため、爆発による閃光で目を潰されることこそなかったものの、なんと爆発と同時に周囲へ拡散した煙が、視界を大幅に狭めたのだ。

白い煙が施設の中へ充満し、ただでさえ暗い中でより視界が悪くなる。状況の悪さに狩人の警戒心はよりいっそう強まるが、警戒する中でふと背後に気配を感じる。

そう、この好機を逃すまいとイリナが能力を行使して瞬間移動し、今まさに狩人の背中へ向けて、手にしたダガーナイフを振るおうとしていたのだ。


「奇襲か!」


しかし振り返って確かめる暇もないと判断した狩人は、奇襲してきた相手の攻撃を弾くように、左手に装備した盾を振るう。

そうなればイリナが振り下ろしたダガーナイフは硬質な音を立てて弾かれ、一瞬の内に生じた火花が周囲を照らすと共に、辺りの煙も衝突による風圧で吹き飛ばされた。


(防がれた…!)


弾かれたことで崩れたバランスを整えつつ、イリナは防がれた事実に焦りながらも、膝を曲げて着地する。そうして起き上がったイリナの顔を見て、狩人の目はより鋭いものへと変化していた。


「貴様…その顔、覚えている。あの時の怪物か。まさかしぶとく生きていたとはな」

「同じ人間相手に怪物呼び、ですか…」

「ならば人だとでも!笑わせるな!能力者は皆、人の皮を被った怪物だ!のうのうとここで生きている怪物共と、何一つ変わらない…!」


吐き捨てるように吐かれた台詞にイリナが返すも、それが帰って狩人の逆鱗に触れてしまったらしい。先程までの冷徹な様子は何処吹く風か、どこまでも怒りを滲ませながら、狩人は銃口をイリナへと向けてくる。


(狂気さえ感じるほどの憎悪…事情を話したところで、説得は無駄)


今にも攻撃してきそうな狩人を見据えながら、イリナが鞄から取り出したのは、上部にスイッチがあり、フックが取り付けられたカプセル―――シリウスがエレクリウムを装備する時に使用しているのと同じ、工房武器を格納したカプセルだった。


(お借りします、センヤさん)


護身用にと渡してくれたセンヤへの感謝を込め、イリナがカプセルのスイッチを押し込めば、破裂したカプセルから無数の破片が放たれ、イリナの右手に集まり形を成していく。

やがて形成されたそれは、持ち手の先にイリナの腕とほとんど変わらない長さを誇る、半円型の円柱に、青白く光る一本の線が走る杖状の武器。その見た目は、正しくスタンロッドと呼ぶに相応しいものだった。


「スタンロッドだと…?そんなもので、私が倒せるか!」


そう言って引き金を弾く狩人だったが、弾丸はその銃口からは放たれず、代わりに銃の下部に取り付けられた別の銃口から放たれたのは、銃弾のそれよりも遥かに大きな、球体の形をした黒い物体。

とてもじゃないが攻撃とも呼べないそれに対し、イリナが疑問を覚えた直後、微かに鼻をくすぐったのは―――弾丸のそれよりもより濃密な、火薬の香り。


(!グレネード…!)


放たれたそれの正体に気づき、イリナが後方へ跳躍して咄嗟に後退した直後、グレネードによる爆発が施設を飲み込んだ。


――――――――――


爆風と煙が発生し、辺りの霧を吹き飛ばす。そんな煙の上がった施設の中から、煙を突き破るようにイリナが姿を現し、大通りへと後退していく。

そのまま着地して前方を向いた直後、更に煙を突き破って飛び出してきたのは、盾の下部にある刃を構え、今にも横薙ぎに振るおうとしていた狩人だった。

イリナはそれを見てスタンロッドを構えると、振るわれた盾の刃に対し、強く振り下ろしてその勢いを殺すと、そのまま力を込めて刃を弾き飛ばす。

弾かれたことでバランスの崩れた狩人だったが、すぐに体勢を整えると、地面に足をつけるまでの隙を潰すように、左手に持っていた銃をイリナに向け、連続して引き金を弾き弾丸を放つ。

イリナはこれに対してもスタンロッドを構えると、そのまま振るい自分に当たる位置へ飛んできた弾丸のみを打ち落としていく。そして最後の弾丸を打ち落とそうというその瞬間、左手で太腿を叩くと能力を発動。

姿が消えたことに一瞬驚く狩人だったが、それを先程の奇襲の正体だと見抜くやいなや、盾を装備した腕を曲げて加速を乗せ、その場で回転して周囲を薙ぎ払う。

振るわれた瞬間には背後に瞬間移動していたイリナだったが、見抜かれたと気づいた時にはもう遅く。薙ぎ払われた盾の刃はイリナの横腹に命中し、ジャケットの一部が斬り裂かれるとともに、彼女の横腹にはっきりとした切り傷を付け、そのまま勢いのままに彼女を吹き飛ばし、ビルの壁まで吹き飛ばし叩きつけた。

そのままアスファルトにも叩きつけられ、口元から赤黒い血をこぼすイリナだったが、幸いにも傷は浅く、まだ戦えるとばかりに立ち上がる。


(ここで倒れれば…次に彼女が向かうのは、シリウスさんの所のはず。だから、負けられない…!)


そんなイリナが見せた鋭い視線を感じて、狩人も以前の彼とは明確に違うと確信したらしい。イリナのことを睨みつけると、腕の縦を回転させて上部が手の位置に来るようにし、それをイリナに向けると吐き捨てるように叫ぶ。


「…その犯行的な目。以前の貴様はもういないということか。惨めに怯えていればいいものを!」


そう言って構えた直後、盾の両側についたパーツがスライド、そして回転を始め、やがてその形状がボウガンにも似た形になったかと思えば、盾の上部のパーツが移動し、隠されていた砲身が露わになる。

イリナが驚く間もなく、露わになった砲身から放たれたのは、盾の見た目からは想像もつかないような、黄金色の光線。咄嗟に回避したイリナが元々居た場所のアスファルトが、光線の熱によって赤く溶けていることからも、その熱量が伺える。

長引かせるのはかえって危険だと察知したイリナは、続けざまに放たれた光線を回避すると、手にしていたスタンロッドの上部を掴み、中ほどにある分割線から上部を回転させる。

すると半円型だったスタンロッドの持ち手から先が、自動で折りたたまれて円柱になるように合体したかと思えば、持ち手から先の部分が勝手に外れ、太いワイヤーにも似た伸縮性のある素材で繋げられた状態になった。

イリナはそこから変形したスタンロッドを振るい、持ち手から先を遠心力を乗せて回転させると、無防備になっていた狩人の左腕目掛け、持ち手から先を飛ばす。

ワイヤーで繋がれたまま飛翔したそれが、狩人の左腕に二重三重に巻き付くと、イリナはそこから力を込めて引っ張ると同時にスタンロッドから手を離し、腰を落として左手で太腿を叩き、能力を発動して姿を消す。

そうして引っ張られたことで狩人がバランスを崩したかと思えば、彼女の懐まで瞬間移動したイリナが、渾身の膝蹴りをその胸の中央目掛けて叩き込んだ。

流石の狩人もこの奇襲にはたまらず吹き飛ばされ、ワイヤーが絡まったスタンロッドが腕から解けながら、アスファルトの上に何度も叩きつけられ転がっていく。

様子を見ながらもスタンロッドを回収したイリナだったが、これで終わりとは思わず身構える。が、ここに来て狩人から受けた脇腹の切り傷が激痛を訴え、思わず片膝をつくほどに崩れてしまう。

どうにか立ち上がった狩人はそれを見てイリナに近づこうとするが、不意に彼女の視線が上を向いたかと思えば、何かを見つめるような仕草を取っていた。

イリナがそれに疑問を抱くよりも早く、狩人は何かを確信すると跳躍。そのまま近くのビルの窓際を伝い、まるで壁を昇るように屋上へと向かっていった。


(どういうこと…?いや、まさかシリウスさんに気づいた!?情報も口にしてないのに、どうして…!)


狩人がシリウスに気づく可能性としてイリナが考えていたのは、あくまで戦闘後に生じる偶然の発見だ。にも関わらず、狩人の挙動は気配だけで察知したとしか思えないほどに、確信を抱いた上での移動であり、まるでように向かっていた。

疑問は尽きないが、ともかくシリウスの存在に気づかれたとするなら非常に危険だ。今の彼は意識がなく、仮に目を覚ましたとしても万全とはとても言いきれない状況。

そんな中で胸部に蹴りを叩き込まれただけで、ほとんどダメージを負っていない狩人との勝負など、結果はもう見えているも同然ではないか。

激痛に耐えながら立ち上がったイリナは、すぐさまシリウスの元へ向かうべく、彼を置いてきた屋上のイメージを固めると、スタンロッドを腰のベルトに引っ掛け、両手を叩いて能力を発動。

そうして彼の姿が歪んだかと思えば、次の瞬間にはそこから姿を消しており、大通りには元の静寂が訪れていた。


――――――――――


ただ1人、意識を失ったシリウスだけが横たわるビルの屋上。そこへビルの窓際を伝って到達した狩人は、着地すると同時にシリウスの方を見る。


「…やはり、ここにも怪物がいたか」


無言で彼の姿を見つめていた狩人だったが、まるでそう呟くと、シリウスに向かって歩いていく。

しかし彼女が歩いていた方向の先、シリウスとの間の空間に急な歪みが発生したかと思えば、次の瞬間には、そこにノイズに包まれたイリナが姿を現していた。


「やらせない!」

「この期に及んで…怪物が怪物に情を見せるなど!」


イリナが叫ぶと共に振るったスタンロッドを、狩人は吐き捨てるような言葉と共にはじき飛ばす。咄嗟の奇襲で対策を取ってさえいなかったイリナは、弾かれたことでバランスを崩し、空中に浮いた形になる。

そしてそれを狩人は見逃さない。イリナの腹部目掛けて鋭いストレートを叩き込むと、彼が思わず血反吐を吐いたのを気にもとめず、そのまま回し蹴りで吹き飛ばし、屋上の手すりへ叩きつけた。


「貴様を始末するのは容易い。せいぜいそこで見て絶望していろ」


咳き込むイリナへ向けて狩人はそう言うと、シリウスに近づいて盾の刃を構え、シリウスに向けて振り下ろす。凄惨な光景になることを直感し、イリナが目をつぶったことなど知らず、その刃は無慈悲にシリウスへ届く…はずだった。

しかし心臓に目掛けて振り下ろされた刃は、遮るようにねじ込まれた右手に塞がれ受け止められる。見てみれば、気絶していたシリウスが腕を動かし、刃を止めていたではないか。

瞳を開いたイリナと、刃を振り下ろした狩人が驚愕したのもつかの間、刃を掴んだことで手のひらから滲む血さえ気にも止めず、シリウスは狩人が振り下ろした盾を押し返し、立ち上がっていく。

更に異常が生じたのはシリウスの足元だ。普段行使する能力によるそれのように、足元から無数のプラズマが生じ、時折雷にも似た電撃が周囲に飛び散っていくが、その色は普段とは違い、目を凝らさなければならないほど暗く、しかし確かに周囲を照らす黒色だった。

危険な状況を直感し、振り下ろしていた盾を引き離して後方へ下がる狩人だったが、シリウスに発生した異常はそれだけで収まらない。

突如としてシリウスの足の周りに無数の黒い破片が現れたかと思えば、出現したそれがシリウスの身体を、まるで装甲のように覆い尽くしていく。

破片は足元から腰、腹部、胸、そして両腕へかけて発生していき、最後にそれまでよりも大きな破片が顔を覆い尽くせば、既にそこに居たのはシリウスの面影さえない別の何かだった。

獣のそれにも似た両脚。鋭い爪を生やし、それを静かに開閉している両腕。頭を覆った装甲の形は、狼の面影を強く感じさせる。

人に酷似した姿こそしているが、それはどう見ても―――


「パラ、ノイア…!?」


変化したシリウスの姿を見つめ、イリナは驚きとともに言葉を零した。

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