割れたガラスの破片を繋いで

月森 琥珀

割れたガラスの破片を繋いで

パリーン

 小学生の頃、片付けようとして給食のお皿を割った。さっきまで保たれていた形はもうない。大きい破片同士をくっつけて形だけでも戻そうとする。しかし、粉々になり床の埃と同じになってしまったものまでは拾うことが出来ない。

 先生が来て「怪我をしていないか?」と聞かれる。

 私が食事をするために使われていた食器は今、尖った刃物のようなものに変わっていった……。

 


 そんなことがあったな。

 割れたコップの破片を拾った時にふと忘れていたことを思い出した。私の指には赤い鮮やかな液体がつたっている。いつのまにか切ってしまっていたみたいだ。

 ぺろっと液体を舐める。錆びた鉄の味。私は生きているんだと実感した。

 夕方。カーテンの隙間からオレンジ色の光がうっすらとさす。暖かい色だ。

 手の固まりかけている液体を見る。部屋の明かりをつけていないからだろうか。薄暗い中では鮮やかさが失われ、汚い色に変わっていた。

 それを見て、心臓がギュッと縮むような感覚がする。

 正確には破片が心臓に軽く刺さったような。そんな痛みだ。

 


 小学生の頃、私はいじめにあった。食器を落としたのも足を引っ掛けられてバランスを崩したからだった。今でもテレビでいじめに関するニュースを観ると『私はここまで酷いことはされていないのに……。なんで。』そう思ってしまう。

 私がされたのは悪口や仲間はずれとかがほとんど。最後の方まで私をいじめていたのは一部の女の子たちだけ。他の子達に足を引っ掛けられたり、私にだけプリントを配らないことをされたのは数回だけだった。そして、担任の先生だって助けてくれた。

 小学5年生の時の先生。鈴木先生という女性の先生。

 いじめた子達に注意をしてくれたし、個別に相談にも乗ってくれた。私の席を先生の目の前にして、守ってくれた。

 また、相談する時はいつも甘いお菓子をくれた。

 「こころのドアを優しく開けるための鍵。強く開けたら傷が付いちゃうからね…。」

 あの頃は自分が思っていた以上に辛かった。先生と話をするだけで涙が止まらなかった。辛い時は泣いた方がいい。でも、私は泣くと心が壊れるような音がする。パキパキ……。

 ヒビが入りかけているドアをそっと開ける。話すことによって心が温かくなる。その温かさで、ヒビを治していく。

 5年生の秋まではそうやって過ごしていた。


 そもそも私がいじめられたきっかけは些細なこと。『友達を取られたことによる嫉妬』、それだけで私の学校生活は嫌な思い出になった。

 

 私は4年生の時に転校してこの小学校に来た。1クラスしかない生徒数が少ない学校。4年1組には女の子の中でリーダー的な存在の子がいた。桜ちゃんという名前の女の子。

 頭が良くて、明るい性格で、優しい。転校初日、誰とも話せない私に最初に話しかけてくれた。たまたま好きな本が一緒で、読書が趣味も一緒。図書館に置いていない昔の名作の難しい本。読めたらかっこいいまで言われるようなちょっぴり大人向けの本。そういう本がお互い好きだった。

 それから2人だけで話す機会が増えた。桜ちゃんは年齢の割に大人じみている。私の憧れでもあった。

 

「ねえねえ、きょうちゃんにプレゼントがあるの!」

 夏休み中、桜ちゃんは家族とお出かけをしたらしく、お土産をくれた。

「え!嬉しい〜!」

「これ!割れやすいから家に帰ってから開けて!」

 桜ちゃんから貰ったものは箱に入っていて、少し重い。

「家に帰ったら見る!ありがとう!」


 家に帰って箱から机に出す。

 可愛い絵が描かれているガラスの板。窓に近づけると、太陽の光に反射してとても綺麗。

 手紙が入っている。これは『ステンドグラス』というものらしい。桜ちゃんが私のために作ってくれたのだった。

「嬉しい!!飾ろう!!」

 机の上に丁寧に置いた。


 

 桜ちゃんはみんなの人気者。だから私が転校する前からずっと一緒にいる女の子達がいた。でも今、桜ちゃんとずっと一緒にいるのは私。

 彼女たちは私たちがある本について会話をしているところに入ってきたことがある。だけど、『多分この本のことを知らないだろうな…。』と私は思い、その子たちと話さずに、桜ちゃんと話を続けた。その頃の私は桜ちゃんと難しい話をすることを優越感に浸っていたのだろう。また、相手にわざわざ説明するのが面倒だったのかもしれない。どっちみち今思えば、私がその時にみんなが楽しめるような話に変えればよかった。

 

「ねえ、あの話、桜もつまらないと思うよ。」

 その数日後、その子達に呼ばれて言われた。

「あのなに?分厚い本を読んでいるアピール?」

「杏花ちゃんって流行りとか知らなさそうだよね。」

 他の2人も続けて言う。

 でも、その頃の私は私が好きで、自信があった。だから言い返した。

「あなたたちが面白いと思うものは私にとっては幼稚。だから私の好きなものの良さなどわかるわけないじゃん。」

「え、なに?さいてー。私たちが好きなものはみんなハマっていることだよ。もちろん桜も。あーあ、杏花ちゃん、クラスのみんなを敵にしちゃった。」

「やっぱり変わっているって思っていたんだよね。杏花ちゃんのこと。もう桜に関わらないで、私たちと一緒にいた方が桜も楽しいし。」

 そう言っていなくなった。

 あんなこと言われても桜ちゃんと勝手に仲良くすればいいと思っていた。でも、桜ちゃんと話そうとするとその子たちが何かと理由をつけて遠ざける。私はスマホを持っていなかったから知らなかったが、クラスLINEでは私の悪口が書かれていたらしい。それがきっかけで、クラスメイトの子とも話しづらくなってしまった。そのことに便乗した一部の生徒は私に嫌がらせを始める。ほとんどが無視とか悪口。

 「杏花ちゃんって酷いことを言うんだね……。」

 あまり関わりがなかった女の子からそう言われた時はとてもショックだった。私は私の知らないところで何を言われているのかがとても怖くなっていた。

 でも、桜ちゃんはみんながいない時に、いつも通り話しかけてくれた。


 

 そのまま5年生になり、鈴木先生に出会う。

 先生は物知りで、話を聞くのがとても楽しかった。

 ある時の道徳の授業で先生が言った言葉を今でも忘れない。それは魔法の玉を手にしたうさぎさんのお話だ。

『うさぎさんは怪しい魔術師からガラス玉を貰いました。悲しい気持ちを吸収することが出来る魔法の玉。うさぎさんは玉を覗きます。透き通っていてとても綺麗。でも悲しい気持ちを吸収すると玉はどんどん濁っていきます。だからこの玉を使ったら、大切に磨いて、ふわふわのタオルで1日包まなければなりません。そうすれば次の日から元通りになります。うさぎさんはそのことをちゃんと守っていました。

 でもある日うさぎさんは友達と喧嘩した次の日、お母さんに弟の世話をしなかったことで怒られてしまいました。うさぎさんは学校の宿題をやっていて、面倒を見ることが出来なかっただけ。それなのにお母さんはすごく怒りました。うさぎさんは悲しい気持ちになります。

 でも、昨日玉を使ったばかり…。今日は使えない日。それでも涙が止まりません。1回くらいと思い、タオルから玉を取り出しました。まだ少し濁っていたけれど、悲しい気持ちを少しでも減らしたくて、手に包んで気持ちを吸収してもらいます。嫌だったこと、悲しかったことを思い出して。

 急に玉からパキパキっと音が聞こえました。それでもうさぎさんはまだ悲しかったので、吸収してもらいます。すると、さっきよりももっと大きな音が聞こえました。怖くなり手を開けて玉を見てみると、真っ二つに割れています。

 うさぎさんは貼り付けて元通りにしようとしました。でも結局元通りにはなりませんでした。』


 先生はこの文を読んだ後みんなに言った。

「みなさんにもこのガラス玉はあるのです。それは心。このガラス玉は心を目に見えるようにした物だと思います。悲しいことがあると心がキューって痛くなるよね。それを放置しているといつかはこのガラス玉のように割れてしまいます。『一度壊れたガラスは元には戻らない』だからこそ、大切にしなくてはなりません。このうさぎさんは自分で磨いていますが、みなさんはつらくなったら、私とか保護者の方などの大人に頼ってください。」

 先生は私のことをチラッと見て言った気がした。



 11月。急に決まったことだったらしい。「桜さんが今週の土曜日に転校することになりました。」と鈴木先生が朝のホームルームで言った。今日が水曜日だから一緒にいられるのはあと3日。

 今でも教室では話すことはほとんどないけれど、時々お互いの家の近くの公園で遊ぶ。公園では、その時ハマっている本を家から持ってきて、交換して次に会ったときに感想を伝え合っていた。

 桜ちゃんに「きょうちゃんは本の魅力を伝えるのがとても上手だよね。選ぶ言葉がその本にぴったり。」と言われたことがある。今になってそれは桜ちゃんが心から言ってくれたのだと思える。


 クラスみんなでお別れ会をやろうということになり、先生も賛成していたので、金曜日の6時間目に決まった。お別れ会ではビンゴ大会をやることになり、景品として、みんなで好きなお菓子を買ってくることになった。

 帰り道、いつもの公園の近くで桜ちゃんに会った。

「きょうちゃん!!一緒にお菓子買いに行かない?」

「え!他の子達は?」

「大丈夫。きょうちゃんと2人で行きたくて!いい?」

「もちろん!!行こ!!」

 とても嬉しかった。久しぶりに2人で話せる。

 歩きながら電話番号の書いた紙を貰った。

「これ、私の電話番号!きょうちゃんがスマホ買ってもらったら電話しようよ!」

「うん!中学生になったら買ってもらえるかも!」

「ほんと!!そしたらまた沢山話せるね!」

 転校先のこととか、色々話したらあっという間にお菓子屋さんに着く。

 そこは学校とは少し離れた場所にあったから誰にも会わないと思っていたのに…。

 あの女の子たちがいた。

「なんで……。」

 逃げようとしたが、すぐに気づかれる。

「あれ?桜、なんで杏花ちゃんといるの?今日習い事って言ってなかったっけ?」

 桜ちゃんは嘘をついてまで私と一緒に行ってくれたらしい。それなら、私も桜ちゃんを守らないと。

「桜ちゃんは、たまたま会ったの。それで目の前にお菓子屋さんがあるから一緒に行かない?ってなって……。」

「へー。桜も断ればいいのに。杏花ちゃんって、つまらないでしょ?」

「そんなことないよ、楽しいよ。」

「桜、この前言ってなかったっけ?杏花ちゃんの本の趣味が古臭いとか最近流行っている本とかの方が面白いのにって。」

 え、桜ちゃんがそんなことを言うわけがない。あんなに楽しそうに話を聞いてくれたのに。

「桜ちゃん……?」

 声が震える。ポケットに入れた紙をギュッと握り締めて、続けた。

「え、嘘だよね。あの子たちの言っていたこと……。」

 桜ちゃんは気まずそうな顔をして黙っている。

 目を合わせることが出来なかった。心臓の鼓動が耳に響く。眩暈がして、近くにある壁に軽く寄りかかる。

 店内の明るい音楽がとてもうるさく感じる。お菓子の甘い匂いも太い文字で色画用紙に描かれたポップも、今の私には刺激が強い。頭が痛い。気持ちが悪い。

 私と桜ちゃんが黙っているのを見た彼女たちは

「そういうことなので。桜、時間空いているなら私たちとお菓子買おう!」

 と桜ちゃんを引っ張って店の奥に走った。

 桜ちゃんは最後まで何も言わなかった。

 『ねえ、なんで2人で話している時に正直に言ってくれなかったの?』心がパキパキと音を立てる。割れそうだ。


 体が固まって、しばらくその場に立ち尽くした。ふと、駄菓子コーナーにある飴を手に取った。いつも公園で一緒に食べていたやつだ。2つ買ってレジに向かう。店員さんの明るい笑顔、子供たちの笑い声が耳に響く。お店を出て飴を取り出し、口に入れた。ガリっと噛む。歯にくっついた。それでも構わずにガリガリと噛み続ける。欠片を飲み込むと、口の中には甘ったるい味が残った。

 家に帰ると、荒れて乾燥した指が切れていた。電話番号が書かれた紙で切ったのだろう。

 机を見る。そこには、桜ちゃんから貰ったステンドグラスが夕焼けの光を反射してキラキラしている。

 私はそれを持った。そして、力いっぱい机に叩きつけた。ガシャン……。割れた、小さいものから大きい欠片まで散らばる。あの綺麗だったものはただのゴミになった。私はそれをプラスチックの箱に入れる。ガラスの破片で切り、手から血が出ていた。でも、何も痛みを感じなかった。

 


 次の日も、金曜日も学校には行かなかった。もう桜ちゃんには会いたくない、早くいなくなってくれと思った。

 思い返すと、私が話す時、桜ちゃんは聞いているだけが多かった気がする。

 私が時々、映画化した流行りの本の話をする時は桜ちゃんも楽しそうに一緒に話をしてくれた。また、私は昔の作家の小説が、桜ちゃんは最近の小説が好き。たまたま1冊だけ好きな本が同じだっただけで、読む本の内容が似ているだけで。本当は違っていたのかもしれない……。

 桜ちゃんと仲良くしなければ、いじめられずに済んだのに。あんな思いをしないで済んだのに。

 割れたステンドグラスを入れた箱を見る。

 「早く捨てなよ…。」と私は呟いた。



 それから、私は学校に行かなくなった。小学校なんて行かなくても卒業は出来るし、受験をする予定はないから、家に篭って本を読み続ける。本を読んでいるときだけ、頭の中はその小説の世界にいることが出来た。そのこと以外何も考えずに済む。

 休んでから、鈴木先生が何回かプリントを渡しに家に来た。来るときに先生はいつも私の様子を心配してくれる。

 今日、渡されたプリントの中には桜ちゃんからの手紙が入っている。渡して欲しいと頼まれたと言っていた。

 先生は私たちが喧嘩したことを知っているのだろうか。

 貰った可愛い便箋の手紙をガラスの破片が入った箱に入れる。

 先生とは会うたびに少し話をした。でも、前と違って私はほとんど黙っている。先生は一生懸命、私と話をしようとしているのがわかった。

「杏花さん、もうすぐ学校でお餅つきがあるの。出来立てのお餅を食べられるし、良ければそのときだけでも来てみるのはどう?」

「大丈夫です。お餅、そんなに好きじゃない。」

「あ、冬休み明けに学校でビブリオバトルがあるの。図書委員会主催の。杏花さん本好きだから、やってみない?」

「私が読む本なんてつまらないですよ。みんなが読むような本でもないし……。人に紹介するために読んでいるわけでもないですから。」

「はい。これプリントね。」

 押し付けるように渡されたプリントにはビブリオバトルの詳細が書かれている。

「今急に決めなくても良いし、やってみたいなと思ったらいつでも連絡してくださいね。」

「だから、やらないですって。」

「杏花さん。私、読んだことない本の発表が好きなんですよ。この本はどんな内容なのかな〜って思えますし。

 ビブリオバトルはね、その本で評価が付くのではないのです。発表者が5分間でどれだけその本の魅力を語れるか、聞く人を引き込ませることが出来るかが大切だと思います。」

「でも、やっぱりいくら発表者が頑張っても、本の内容が難しかったりしたら選ばれないですよ。だって、所詮、学校のイベントでしょ……。」

「もちろん優勝したら嬉しいですが、順位が全てじゃないと思います。誰かの発表で1人でも読んでみたいと思えた人がいればそれで良いのです。」

もしビブリオバトルに出ることにするなら、選んでいる本がある。桜ちゃんと話すきっかけになった本。誰か1人……。桜ちゃん以外に読みたいと思ってくれる人は思いつかなかった。



 先生には申し訳ないけど、ビブリオバトルは参加しなかった。貰ったプリントによると結果は今日、学校のホームページに貼り出されるそう。調べると、もう順位が出ている。

 画面をクリックした。

 3位までの学年と本の題名が書かれている。

 2位と3位は探偵系と恋愛系、みんながよく読んでいるシリーズ本の1つだ。

 1位は…………

 知っている本だ。私と桜ちゃんの思い出の本。

 6年生の子が発表者だ。

 なんで、これが選ばれたのだろう。票を入れたのは先生方か?そうじゃないと、おかしい。みんなが読まなさそうな本なのに……。

 画面をスクロールすると、1位〜3位の子の発表文の題名が書かれていた。

 

 1位

 『自分に合った輝きがある。』

 2位

 『不可解な難事件!?僕ら第一中の名探偵にお任せあれぇぇ!』

 3位

 『私、変わります!悲劇のヒロインから素敵なお姫様に!』


 1位の子はたった一言。もっと何か題名が凄いのかと思った。正直、私的に惹かれるのは2位や3位のような題名。だからこそ、1位の子はたった5分の発表でみんなを惹きつけた。

 画面を閉じた。黒い画面が私を映し出す。目から涙が溢れ落ちた。



 桜ちゃんのことや、ビブリオバトル、久しぶりに思い出した。棚の中に入れているプラスチックの箱を取り出す。

 あのときのガラスの破片は光に当たり、鋭く光る。まるで凶器みたいな輝き方。苺の絵が描かれた便箋はそのままだった。手紙を開く。あの事の謝罪だった。「本当は一緒に話をするのが楽しかった。」と最後に書かれてある。確かに私も楽しかった。最後は嫌な別れ方をしたけれど、それ以外、桜ちゃんと遊んだことは大切な思い出だった。

 私はガラスの破片を2つ手に取り、近くにあった接着剤でくっつける。ギュッと押さえながら固まるのを待って、見てみる。

「……隙間がある。」

 破片はぴったりとパズルのようにくっつかない。光も入らないくらいの小さい隙間がある。描かれていた絵は繋がった。でも、元通りにはならない。割れたところが白く濁っている。上に掲げてみる。破片を合わせても前みたいな輝きはもう無い。

 破片を置き、手紙をもう1回読んだ。そして、びりびりに破ってゴミ箱に捨てた。

 

 机に箱を持っていき、パソコンを開く。

『ガラス破片 工作 家』と打ち込み調べると、『モザイクランプ』という文字が目に飛び込む。

 材料は小さい瓶と、ガラスの破片、接着剤、タイル目地材……。100均になら売っているだろう。私はゴミ捨てをついでに買いに行くことにした。

 家に帰り、さっそく作る。プラスチックの箱を開けて破片を取りだした。

 そして、手順通りに作っていく。手先は器用な方なので、思ったよりも上手く作れるのかもしれない。

 ガラスの破片は尖ったものや小さい物を色々組み合わせる。接着剤で瓶に貼るだけだから、そこまで大きいやつでなければほとんど貼れる。ダイヤの形をした大きめな破片を見つけた。これを真ん中に貼ることにする。

 次は水にタイル目地材を溶かし、その液を破片を貼った瓶に纏わせる。手がベタベタしたが、破片が浮かないように手で押さえながら液を塗る。瓶に紙粘土を貼り付けているかのような見た目で、本当にランプになるか不安になってきた。破片に付いた液を拭き取る。そして最後に乾かして完成した。瓶の中にキャンドル型の小さいライトを入れて、点ける。

 桜ちゃんからもらったステンドグラスが透明な部分が多かったからか、光に当たると明るい。尖った破片も今は何かのデザインに見えてくる。

 カーテンを引いて、机の上に丁寧に置いた。薄暗い部屋の中でパッと輝く。『ステンドグラス』とは違った光が辺りを包み込んだ。


 

 本を持ってきて、机の上に置いた。そしてSNSを開く。私は去年、高校生になってからネットでおすすめの小説紹介をしている。あらすじとネタバレにならない程度の読んだ感想を投稿する。最初はフォロワーが1桁だったが、今では100人以上にフォローしてもらっている。

ハッシュタグを付けて、文章を考える。

『みなさん、こんにちは。きょうです。今日は少し長くなるかもしれませんが、読んでくださると嬉しいです。


今日紹介する本は私の中で大切な思い出がある本です。小学校の頃に仲良かった子も好きだった本。


あらすじは……』


投稿を終えて、フォロワーさんに返信をする。大体がいつもの方。

『初めて見ました。読んでみます。』

『きょうさんが紹介する本はいつも面白そう〜!』

『最近急に冷えてきたので、暖かくしてお過ごしくださいね。その本、気になっていたんですよ!』


1人だけ、知らない人がいた。新規の方だろうか。

 

『私もその本大好きです。』


桜の花がアイコンになっている。まさかと思い、軽く震えた手でプロフィールを開く。何も投稿されていない。そっと画面を戻した。


モザイクランプが私の手を照らす。返信をクリックして、書き始めた。

 


 


 

 


 

 

 

 

 

 

 





 

 

 

 

 


 

 

 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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