あなたは、僕を休ませない

ミラカル

始まりとはじまりの二重螺旋

この瞬間、鉛玉が男の肺を貫く。

 降る雨が倒れた、男を無情に襲う。

 閉じない瞼。無防備な瞳孔にポツポツと水が滴り落ちる。

 周りの兵士は、鉛玉に背を向け塹壕に飛び込む。

 死ぬものもいた。けれど、生きてるものに死者を弔う余裕などありはしない。

「撤退。撤退‼︎」

 ある男が、そう叫んでいた。

 塹壕の上は、鉛玉が飛び交い。中は、水が溜まり決して、休める場所では、なかった。

 あるものは、足が青白く腫れるものがいた。

 あるものは、水膨れになるものがいた。

「魔人は、まだか‼︎早く戦闘投入しろ。魔法師部隊は、準備できてる。ここが、プラナー戦線を突破する好機だ。」

 プラナー戦線。この戦争が始まって以来、膠着状態が続いた最前線かつ最重要の戦線。ここが、突破できれば。帝国は、敵国であるペイシラ公国の首都を直接攻めることができ、他の戦線において、敵軍を後ろから奇襲することができるようになる。

 この時は、二つの戦線で世界で初めて魔人の初めての実践投入が行われた。。

 国家破壊用戦略人型人造魔物最終兵器。通称「魔人」。

 人の体に魔物の核を移植することによって、対象者に絶大な力を与える。魔人の核に、適応できるのは、一部の者。適応できなければ、体が魔物の魔力に耐えれず爆発する。現段階で、魔人の保持を主張している国の魔人の総数は、13体程度である。

 帝国は、3体の魔人の保持を主張し、他国への威圧の抑止力にしている。

「魔人番号2到着完了しました。これより、実戦に投入します。」

「許可する」

 空から、一つの鉄の塊が戦場のど真ん中に落下する。

 敵軍は、銃口を構えて。警戒を強める。

「くそっ。雑な扱いをしやがっって。」 

 鉄の塊を中からこじ開けるようにして緑と黒髪が混ざったような16代くらいの男が出てくる。

 敵軍は、引き金に手をかける。

「銃を下せ。カスども。目障りだ。」

 途端に、周りを囲んでいた。15人ほどの兵士の首が宙を舞った。

 男は、魔人だ。明らかに、人とは違った見た目をしていた。髪の一部から葉っぱが生えていて。脇腹は、木そのものだった。右腕と右足も木だった。

 まさに、魔物。

 右腕は、剣のような形状になっており、先端に血がついていた。

「あれが、敵か。これより、No.2殲滅開始する。」

「許可する。その場に味方は、いない。半魔物化になることも、許可する。」

 男いや魔人は、殺した兵士の胸元に腕を突き刺し。赤い球を取り出す。

 そして、喰らう。

「まずいな」

 魔人の周囲から、無数に先端の尖った木が生えてくる。木は、自由自在に動く。

 敵軍が、魔人に向けて突撃をしてきたのに、合わせて。木が動きだす。

 木が兵士を貫く。一瞬で、どれほどの人が死んだだろうか。考えているものは、いないであろう。

 敵軍は、ただ魔人を殺すために兵士を突撃させる。すぐ敵軍は、魔人であることを認識したんだろう。対策として、魔法師部隊を投入した。

「死んでる。死んでる。早くうちの魔法師部隊には、障壁を張ってほしいが。今は、目の前の、ゴミを掃除しなきゃ。」

 兵士は、突撃をやめない。銃を撃ちながら向かってくるが、死んでいく。

 途端。空に、閃光が走る。

 そして、火の玉が降り注ぎ、魔人の周囲に落下して。木を焼く。

「あっちが、先に整ったか。」

 魔人は、動き出し。戦場を駆け巡りながら、地面に新たに木を生やす。そして、敵の塹壕を発見すると、木の矢を作り、空から降らし敵を殺す。

「魔法師は、どこだ?」

 魔人は、目を瞑り。無系統魔法の探知を発動して。気配を辿る。目を大きく開く。

「みっけ‼︎南か。」

 場所を移動しようとした。その瞬間に、魔人の腕が宙を舞う。

「は?俺の皮膚に貫通した」

 背後からの赤い閃光が耳元でをかする。男が姿を現して、複数の魔法陣を発生させながら魔人に近距離で、炎の玉をぶつける。

「魔人くんだね。君を殺すよ。」

「お前は、もしかして、魔物の力が使えないんだろ。同類の匂いがする」

「バレるの早すぎ。けど君との、会話は終わりだよ。」

 魔人は、既に飛んだ腕も焼けた皮膚も再生していた。辺りに、木を発生させて。男に向けて攻撃する。そして、木の武器も生成して。連携して男を攻撃する。

 男は、右手にもっていた赤色の剣で攻撃を捌く。そして、反撃を加える。

「おい、カス。早くくだばれ。」

「お口が悪いね。女の子にモテないよ。」

 男の魔力を込めた拳が、魔人の脇腹に直撃する。


 やっば、こいつ。戦闘慣れしてる。俺の攻撃を余裕で避けてきやがる。しかも、口調がムカっく。戦いは、早めに決着をつける。

「半魔人化」

 空気が重くなる。魔力が溢れてるからだろう。体から、木が生えてくる。角も生えて。一回り体が大きくなり、木が体に巻き付く。

「初めて、生で魔人化みたよ。」

 距離を取り、男は、遠距離から火球を無数に飛ばして。デコイを作り、背後から首に目掛けて剣を振る。

 しかし、魔人の皮膚は、剣を通さなかった。飛んできた、火球も。傷をつけるに至らなかった。

「硬った。強化されすぎ。」

 男は、自身に身体強化の魔法をかける。

 その時、天に障壁が張られる。

「やっとか。お前、もう逃げばないから。」

 男に向けて、魔人が殴りかかる。その拳は、魔力が溢れるほど、魔力が込められていた。その拳は、男の剣に命中して、風圧で男が吹き飛ぶ。

 吹き飛んだ矢先に、魔人は、地形を操り地面に無数の木を生やし。そして、自分自身の周りに、木の球を発生させる。木の球は、槍の形状に変化して。男の行先を塞ぐ。

 男は、魔法陣を辺り一面に生み出す。

「消し飛べ‼︎」

 魔法陣から、爆発性の火球が宙に放たれて爆発する。追撃に、剣から炎の斬撃を飛ばす。

「効かねぇーよ。カスが。」

 正面から受け切り、木の槍を男に向けて発射する。

 男から血が吹き出る。木の槍が腹部を貫通した。

 男は、血を吐き出し膝をつく。

「痛ぃなー。勘弁してよ。ここで、死ぬはずじゃなかったのに。まぁー、死ぬんだったら道連れだよカス。スキル解放」

 男のスキルは、魔法陣を幾千にも重ねることができるというものだった。魔法陣を重ねれば重ねるほど、魔法の威力は、累乗される。

「スキル持ちかよ。羨ましいなー‼︎」

 魔人は、男の向けて拳を構える。拳から、緑色の魔力が溢れ魔人は、拳を、さらに強く握る。

 瞬間、爆風が吹く。

「あっちの、戦線のNo.3は、お前らを跡形もなくしたみたいだぜ。」

「そうか」

 男に、周りを気にする余裕がなかった。既に、幾千にも重ねられた魔法陣が準備されている。

 次の瞬間には、拳と魔法がぶつかった。

 魔法陣から出た一筋の炎の矢が魔人を吹き飛ばした。今まで、傷すらつけれなかった皮膚を灰に変えた。

 けれど、攻撃を受けたのは魔人だけでは、なかった。男も魔人の拳を受けてしまっていた。上半身は、吹き飛び。誰かを判断することは、不可能になっていた。

 

 魔人は、体を起こそうとするが、体のあらゆるところが灰に変わっていく。核があらわになっているが、再生する体力すら残っていなかった。敵軍がこの場に来るのは、時間の問題だった。

 声にならない声で、魔人は、話した。

「死にたくねー。死にたくねーよ。死ねるかよ。魔人化解放」

 魔人の体から、緑色の魔力が溢れる。大量に木が生えて体を結合しはじめる。目は、緑色に変わり。顔も体を魔物いや怪物に近付いていく。四足歩行に変わり、体長は、20メートルはありそうだ。

 けど、今までの魔人と一番違うのは、自己制御が効いていないところである。

 怪物は、口から緑色のブレスを吐き。天を割った。そのまま、ブレスは駆けつけてきた敵兵を蹂躙していった。

 それから、数時間後のことだろうか。怪物は、魔人の姿に戻っていて。傷口も、治っていた。

 戦線にも、勝利した。けれど、戦場は数時間前とは大きく変わっていた。

 

 

 その頃の、司令部は二つの意見に割れていた。

「指揮官。我々、帝国軍は二つの戦線で勝利を掴みました。今、敵国に攻め入るチャンスです。」

「果たして、これは勝利というのかね?荒れ果てた大地。人間が踏み入れるような場所ではない。今、行軍しても成果は得られないだろう」

 指揮官は、強く反対した。

「私は、魔人の運用に批判的と言っていただろ。あんな化け物は、世に解き放ってはいけない。」

 もう一体の魔人は、モンス戦線において2万を超える死者と5万を超える負傷者を生み出した。僅か、12歳という年齢で。

 そこに、軍服を着た若い男が部屋に入ってくる。右手には、手紙を持っていた。

「伝令です。公国が降伏しました。領地の半分を受け渡すとのことです。」

「では、公国が鉱山を捨てたのか‼︎」

 男は、「そのようです。」と言って一礼をして部屋を退出した。

 この戦争の発端は、帝国の貪欲さによるものだった。公国の持つ鉱山は、希少金属のステルデイが多く産出される。帝国は、それを欲した。

 ステルデイ。それは、魔力含有量が多く鋼の数倍硬いとされていて。魔人製造に、利用される。

「鉱山が手に入れられたのなら、これ以上戦争をする必要はないな。降伏を受け入れると公国に伝えろ」

 

 それから、数ヶ月後のある日の晩。軍に、関わる人間が集められていた。兵士も指揮官も役所関わらず集まっている。

 一人の指揮官が中央のステージの上に立ち、ワインの入ったグラスを掲げる。

「ここに、戦争終結を表明する。乾杯‼︎」

 あちこちで、「乾杯」と大声を出している。その場には、豪華な飯が用意されていて戦争の疲れを癒し始めた。

 

 今ここにいる、ものは知らない。この戦いが後の世界に大きな影響を与えることを。そして、これは本当の戦争の終了ではない。竹の節目に過ぎない。

 

 

 

 

一人の少年が帝国のある崖の頂上に座っていた。

「あと、一体。僕の復讐劇の始まりまでもう少し。」

 少年の意味深な「クスクス」という笑い声が無人の空に響いた。

 

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