〜死んだ愛猫♀が女子高校生に転生して俺の元に帰って来た件について〜

鮫島 鱗

プロローグ

第0話 にゃ(転生)

「にゃぁ……?(ここは……どこ……?)」


アタシが最後に覚えている記憶は大好きな人の腕の中で、そっと目を閉じた瞬間——。


だけど目を開けると、そこには一面の花畑が広がっていた。

淡い光に満ちた、夢のように綺麗な世界。


「にゃ……にゃあ……(なんで……?)」


困惑して尻尾を丸めているとアタシの目の前に白い髪の老人が現れた。

彼が着ているローブは風に揺れ、どこか神々しい。


「……ワシは神じゃ。お前を転生させてやろう」

「にゃぁっ!?(ほ、本当ですか!?)」


驚きのあまり毛が逆立つ。

そして胸の奥がじんわり熱くなった。


(——また、会えるの……?あの人に……?)


そう思った瞬間、老人は優しく微笑んだ。

神様は長い白髪を撫でながら、静かに私へ問いかけてきた。


「さて……どんな姿で、どの世界に転生したい?」


その言葉に、胸の奥底が強く疼く。

私は迷わず顔を上げ——


「にゃ……(あの人のそばに……)」


言葉にならない声が漏れる。

けれど神様には、ちゃんと伝わっているようだった。


「ワシには分かる。お前が最後まで想っていたあの人間の少年のことじゃな?」


アタシは大きく頷く。


「にゃ!にゃあ!(はい!一緒にいたいんです!)」

「では尋ねよう。どんな姿で、生まれ変わりたい?」


——その答えはとっくに決まっていた。


「にゃ……(あの人と同い年で人間の女の子)」


言葉にならない想いを必死に伝える。


「分かった、ではお前の願いを叶えてやろう……ただしひとつだけ条件がある」


神様の声が静かに響く。


「にゃ?(じょうけん……?)」


先ほどまで穏やかだった老人の表情が、急に険しくなった。


「よいか?条件は、お前が想うその少年が成人するまでに必ず結ばれることじゃ。もしそれが叶わねば……お前の魂は再び此方へと戻り二度と転生はできん」


胸がきゅっと痛む、でも迷いはなかった。

アタシはぐっと肉球を握りしめて頷いた。


「にゃ!(必ず……陽向くんをアタシのものにする。だってアタシ、十七年間ずっとあの人のことだけ想って生きてきたんだから!)」


その決意に、神様は嬉しそうに微笑んだ。


「よい覚悟じゃ。ならば行くがいい。少年のもとへ——お前の新しい肉体と共に」


次の瞬間、眩い光が視界を包み込み世界がゆっくりと溶けていく。


「にゃ……(待っててね、陽向くん……)」


一筋の願いを胸に抱いて、アタシは再び彼の世界へと落ちていった。

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