読者公募の俺キャラに転生したんだけど設定盛り過ぎで主人公を食えるから作者が一発キャラにしたのは正解なんだなって現地で思うなどした

第1話 『アマチャンマン、三ヶ月目の決意』

――どうやら、俺はまた生まれてしまったらしい。

ぼんやりとした意識の中で、まず最初に思ったのがそれだった。息を吸い込むたび、体の奥がきゅっと縮こまるように痛む。赤子特有の肺が小さくきしむ感覚まで、妙に鮮明だった。


それでも、すぐに気づく。

「あ、これ設定まんまだわ」と。


視界の端をよぎるのは、黒ずんだ革鎧と刃こぼれした短剣。盗賊。原作通りなら、この三人に襲われた両親は既に――いや、考えるまでもない。俺は泣き声より先に、反射で身体を動かしてしまっていた。


赤子の筋力でも、方向さえ合っていれば喉を狙える。

喉を潰された盗賊が、意味の分からない悲鳴を上げ、倒れ込む。


……うん。

俺TUEEEEだわこれ。


生後三ヶ月で盗賊を倒す赤ん坊。自分で作った設定とはいえ、こうして体験すると背筋が寒くなる。いや、良心が痛むとかじゃなくて、この世界のバランスどうなってんだよっていう意味で。


残り二人は混乱していた。そりゃそうだ。赤子が襲撃してくるなんて想定してない。俺だって赤子で攻撃したくなかった。だが生存本能が勝った。というか、設定のチート性が勝った。


短剣が振り下ろされるより早く、俺はその腕を掴んだ。小さな掌にしてはあり得ない握力だった。骨が軋む感触とともに盗賊が悲鳴を上げる。


「ば、化け物……!」


失礼な。

いや赤子に言う言葉としては正しいのかもしれないけど。


そのまま腕をひねり、地面に叩きつける。もう一人は逃げ出したが、俺が原作で付けた異能甘露導力のせいで足がもつれ、情けない声を上げて転ぶ。


三人を制し終えたとき、ようやく自覚した。

あ、これ知性があったらこんなひどい目に遭わなかったやつだ。

たぶん盗賊たちもそう思っている。


やがて、森の奥から馬車の車輪が軋む音が近づいてきた。俺が原作で設定した“救助の貴族”だ。

数分後、俺は泣き叫ぶ赤子を装いながら、温かくも厳しい目をした老執事に抱き上げられていた。予定通り、貧乏貴族アマミヤ家の末子として引き取られるのだ。


―――


それから三ヶ月。

俺はアマミヤ家の屋敷で、原作設定に沿った――あるいはちょっと外れ始めた――日常を送っていた。


長兄は典型的な優男気取りで、俺に対してのみ態度が悪い。

次兄は武に秀でているが、俺を見るとすぐに舌打ちする。

末妹のリリィだけは天使みたいに優しいが、それ以外はまあ、設定通りの「いじめられる環境」だ。


原作の俺(=アマチャンマン)は、この環境で心を折らず、正義と努力と友情を胸に成長する“都合の良いライバルキャラ”に仕上がる予定だった。


――だったんだけど。


「キルト様、三ヶ月の赤子が……なぜ、その……宙に浮いて……?」


執事のルートンが深刻そうな顔をしている。俺はふわりと空中に浮かびながら首を傾げた。

いや、これは別に派手にやりたいわけじゃなくて、この世界の魔力操作が赤子でも簡単すぎるんだよ。原作で「生後半年で空中浮遊を習得!」みたいに書いたせいだ。三ヶ月でも出来ちゃうじゃん、これ。


さらに、俺は読み書きも出来る。

赤子の手の大きさでは字が歪むので練習していないだけだ。


結果――

設定が盛られ過ぎて、俺自身が原作より強いし、早いし、賢いし、どう考えても主人公より主人公している。


……そりゃ一発キャラにされるわな。

登場させたら主役喰っちゃうもんこれ。


原作『逆説ウルトラハイパーメガビットマン』の主人公たちは、悪逆非道なことをコミカルに軽くこなす“倫理スレスレの奴ら”だ。

俺、転生した瞬間から思ってたんだけどさ。


あいつら、矯正した方が良くない?


たとえば初期の話で、主人公たちは「領主の畑を燃やして害虫駆除したよ! やさしいね!」みたいな顔してた。

いや、害虫より先に農作物燃えてるんよ。


そんな世界を、俺はもう一度見直したい。

アマチャンマンとしてじゃなく、俺として。


原案設定は尊重しつつ、必要なところは遠慮なくぶっ壊す。

世界平和とか、正義とか、そういう青臭い理想は笑われても、それでも貫く価値があると知っている。


「……まずは主人公の更正からかな」


赤子の喉から漏れた呟きに、ルートンが「えっ?」と首を傾げた。

気にしないでほしい。聞かれたところで説明できるわけがない。


こうして、三ヶ月の俺は決意した。

原作を大幅に改編し、この世界の倫理観を立て直す。


――そのための最初の目標はただひとつ。

“主人公たちに、真っ当な教育をぶち込むこと”。


アマチャンマンとしての人生は、静かにだが力強く動き始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る