個人情報を全部落とした話

深水えいな

第1話 すべてを失った女

 2025年11月上旬、私はすべてを失った。


 運転免許書、保険証、クレジットカード、マイナンバーカード、すべて入った財布を落としたのです。


 気が付いたのは、私の住むA市の隣にあるB市にあるイオンでした。


 ちなみになぜ隣の市にわざわざ買い物に行くかというと、単純な話、そこのイオンが巨大で駐車場も広く、子供を遊ばせる場所もあるからです。


 そんなわけで隣の市のイオンに子供と一緒に来たごく普通の主婦の私。


 おっ、この服安いじゃ~ん。


 ちょっと季節外れだけど、来年になれば着れるかも。


 さっそく買い物かごにいれて……っと。


 ですがレジに向かった私は、そこであることに気が付きました。


 ――財布がないっ!


 鞄の中にも、上着のポケットの中にもどこを探しても財布がないのです。


 しかし私はイオンに着いたばかりで他に買い物もしておらず、一度も財布を鞄から出していません。


 なのでその時は、単に家に財布を忘れてきたのだと思っていました。


 いやいや、家に財布を置いて来ちゃうなんてうっかりしてるわー。


 何やってるんだろ私。てへっ!


 とりあえず買おうとしていた服をキャンセルしてもらい、私は家に帰りました。


 そうして家に帰り、とりあえず心当たりのある場所を探してみる私。


 もしかして、コートのポケットの中に入ってる?


 ……ない。


 あ、こっちのバッグかな?


 ……ない。


 もしかして、机の上?


 ……ない。


 ですが、家の中をいくら探しても財布は出てきません。


 どの鞄にもコートにも入ってないしリビングにも寝室にも物置にもどこにもありません。


 え? 何で?


 どこにも財布がないんだけど!?


 出てこーーい、私の財布ちゃん!!


 だけどいくら探しても出てきません。


 どうしよう……。


 いや、落ち着け。落ち着け私。


 考えるんだ……。


 そうだ。最後に財布を出したのはいつだったっけ?


 私は、名探偵よろしくその日一日の行動を振り返ってみることにしました。


 まず午前中、子供が幼稚園に行った後、私はまず百均に行き、次にスーパーに行って買い物をしました。


 その時には財布はあった……気がします。


 そして午後からは、園から帰って来た子供と一緒にイオンに行き、財布がないと気づくまでは財布の出し入れはしていません。


 となると怪しいのは百均とスーパーです。


 ハッ……!


 そこで私はひらめきました。

 

 もしかしてスーパーで会計する際、レジか袋詰め台の上あたりに置いてきたのかもしれない!


 私はスーパーではいつも無人レジを使っているので、袋詰めとスキャンと会計を自分一人でしています。


 袋詰めに夢中になって財布を置いてきてしまうことは十分あり得る……。


 そこで、私の中の名探偵が結論を出しました。


 財布は、スーパーにあるに違いないっ!


 さっそく私は子供を連れてスーパーに行くと、そこで店員さんに聞いてみました。


「あの、落とし物で財布は届いていませんか?」


 私の予想では、そこで「ああ、届いてますよ~」と店員さんが奥から財布を出してきて、それでこの件は一件落着となると思っていました。


 私は過去に何度か落とし物をしたことがあるのですが、たいていはそうやって奥から店員さんが出してきてくれてことは終わったからです。


 ですが予想に反して、奥のサービスカウンターに確認しに行った店員さんは笑顔で「いいえ、届いてませんね」と言い放ったのです。


 私は目の前が真っ暗になりました。


 スーパーから帰る道すがら、私は目を皿のようにして道を探しましが、もちろんどこにも財布は落ちていません。


 百均にも念のため寄ってみたのですが、そこにも財布はありません。


 なぜ? いったい財布はどこへ!?


 私の財布はどこにいっちゃったの~!?


 こうして捜査はまた振り出しに戻ったのでした。



 家に帰ると、私はパソコンで「財布 落としたら」と検索してみました。


 そこに書かれていたのは、財布を落とした時、戻って来る確率は六割ほどであるということでした。


 うそっ。そんなに戻って来る確率って低いの……?


 私は血の気が全身からさっと引くのを感じました。


 それでも恐る恐るページをスクロールし読み進めると、悪用される可能性があるのでクレジットカードは直ちに利用停止したほうがいいということが書かれていました。


 確かに、見知らぬ誰かにカードを使われて大金を請求されたりなんかしたら大変だわ!


 とりあえず私はクレジットカードの利用を止め、次の日に警察に遺失届を出しに行くことにしました。

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