聖女の肢体は冒涜に濡れて ~魔改造と触手による福音(エウアンゲリオン)~
深海馨
第1話:検体番号「聖女」
【シーン1:搬入と開梱】
地下三階、王都の光さえ届かぬ奈落の底。
錬金術師ゼノスの実験室は、常に腐った水と鉄錆、そしてホルマリンの刺激臭が混じり合った、肺腑を刺すような冷気に満たされていた。
ズズズ、ズズ……。
重厚な防音扉の向こうから、何かを引きずるような鈍重な音が響いてくる。
ゼノスは手元のフラスコから視線を外し、無感情な瞳を扉へと向けた。実験台の上では、培養液の中で蠢く肉塊――かつて野犬だったもの――が、ポコポコと気泡を上げている。
ドォンッ。
扉が開き、フードを目深に被った二人の男が、巨大な木箱を部屋の中央へと運び込んだ。
まるで巨人の棺桶だ。黒塗りの樫の木で作られた箱には、封印の魔法陣が刻まれた鉄鎖が何重にも巻き付けられている。
「……注文の品だ。検品を」
男の一人が、しゃがれた声で羊皮紙を突き出した。
ゼノスは白衣のポケットからペンを取り出し、木箱を一瞥する。
表面には『精密機器』と偽装されているが、その隙間からは、決して機械油ではない、甘く芳しい香油の匂いが微かに漏れ出していた。
「手間を取らせたな」
サラサラと記名し、羊皮紙を突き返す。男たちは実験室の異様な空気に呑まれたのか、あるいは棚に並ぶ無数の「元・人間」の瓶詰めに気づいたのか、青ざめた顔で早々に立ち去った。
ガチャン、ゴウン……。
再び防音扉が閉ざされ、静寂と換気扇の回るブゥゥゥンという低い駆動音だけが残る。
「さて」
ゼノスは愛用のバールを手に取り、木箱の前へと歩み寄った。
靴底がコンクリートの床を叩くコツ、コツという音が、処刑台へのカウントダウンのように響く。
目の前にあるのは、国一番の至宝にして、民衆が崇める「聖女」。
だが、今のゼノスにとってそれは、敬うべき対象ではない。これから始まる偉大なる実験の、単なる「最高級マテリアル(素材)」に過ぎなかった。
ジャラッ、ジャララ……。
冷たい鉄鎖を解き、床に落とす。
バールの先端を、蓋の隙間へと強引にねじ込んだ。
ギチチッ、メリメリメリ……!
硬質な木材が悲鳴を上げ、釘が引き抜かれる乾いた音が弾ける。
封印が破られると同時に、圧縮されていた空気がプシュゥゥと白く噴き出した。防腐結界の解除音だ。
立ち込める霧のような冷気。その奥から現れたのは、大量の緩衝材(綿)と、その白さに埋もれるようにして眠る、一人の女だった。
「……ほう」
ゼノスは無機質な感嘆を漏らした。
金糸のような長い髪が、乱雑に敷き詰められた綿の上に広がっている。
儀式用の純白のドレスは汚れ一つなく、その下にある肢体の豊満さを隠しきれていない。
閉ざされた瞼、長く伸びた睫毛。血の通った薔薇色の唇。
呼吸に合わせて、豊かな胸がスゥ、ハァ、スゥ、ハァと規則正しく上下し、そのたびにドレスの生地が擦れる衣擦れの音が、静寂な実験室にエロティックな余韻を残す。
美しい。
だが、それは美術品としての賛辞ではない。
ゼノスの視線は、彼女の肌のキメ細やかさ、筋肉の付き方、骨格のバランス、そして内包する魔力の波長を、まるで精肉店で肉を吟味するかのようにねっとりと舐め回していた。
ペタリ。
ゼノスは、ゴム手袋をはめた指先で、聖女の頬に触れた。
ひんやりとした死体のような冷たさではなく、内側から溢れ出る生命の温かさ。
指を滑らせ、喉元へ。トクン、トクン、トクン……。
脈打つ頸動脈の振動が、指先を通じてゼノスの脳髄へと伝わる。
「状態は極上(ミント)だ。これなら、多少『乱暴』に扱っても壊れないだろう」
彼は薄く笑った。その笑みは、新しい玩具を手に入れた子供の無邪気さと、獲物を前にした捕食者の嗜虐性が入り混じった、歪なものだった。
聖女はまだ、目覚めない。
自分が運び込まれた場所が、神の加護など届かぬ冒涜の聖地(ラボ)であることも知らず、無防備な寝顔を晒し続けていた。
【シーン2:覚醒と拒絶】
「……ん、ぅ……?」
白濁した意識の底から、最初に浮上したのは不快感だった。
鼻孔を突き刺す、ツンとした薬品の刺激臭。そして、肌に直接触れる冷ややかな外気。
ふわり、と長い睫毛が震え、聖女ルミナはゆっくりと瞼を持ち上げた。
(……ここは、どこ?)
視界がぼやけている。
いつもの天蓋付きのベッドではない。シルクのシーツの感触もない。
背中に当たるのはゴワゴワとした綿の感触と、硬い木の板。
彼女は身じろぎをし、上体を起こそうとした。その瞬間、身体を覆っていた綿が滑り落ち、地下室の冷気が露わになった肌を撫で回す。
「ひっ!?」
ルミナは短く悲鳴を上げ、咄嗟に自身の身体を抱きしめた。
ない。
毎晩、侍女たちが着せてくれる最高級のネグリジェも、身を清めるための聖印のペンダントも。
生まれたままの姿。一糸まとわぬ全裸で、見知らぬ場所に寝かされている。
羞恥で顔が一気に朱に染まった。
「お目覚めかな。予定より十七分早い。代謝機能が優秀な証拠だ」
淡々とした、男の声。
ルミナは弾かれたように顔を上げた。
薄暗い部屋の隅、魔導ランプの青白い光に照らされて、白衣を着た男が立っていた。手にはバインダーを持ち、まるで家畜の成育状況でも記録するかのようにペンを走らせている。
「なっ、貴様……何者ですか!?」
ルミナは木箱の縁を掴んで立ち上がろうとしたが、まだ麻痺が残っているのか、足がもつれてその場にへたり込んだ。
屈辱的だ。国一番の美貌と謳われ、誰もが跪くはずの自分が、こんな薄汚い男の前で無様な姿を晒しているなど。
「無礼者! 目を逸らしなさい! 私が誰だか分かっていて、このような暴挙に出たのですか!?」
彼女は気丈に声を張り上げた。
その声はよく通るソプラノで、教会の大聖堂で鍛え上げられた威厳に満ちている。
通常であれば、この声を聞いた平民は恐れおののき、許しを乞うて平伏するはずだ。
だが、男――ゼノスは、眉一つ動かさない。
むしろ、興味深そうに目を細め、彼女の喉元を凝視しただけだった。
「声帯の張り、肺活量ともに良好。これなら『叫び声』もいい音色を奏でそうだ」
「……は?」
「検体番号704、『聖女ルミナ』。王都教会より廃棄処分(・・・・・)として受領した。今日からここが、君の新しい家であり、墓場だ」
廃棄処分。
その単語の意味を理解するのに、数秒の時間を要した。
ルミナの黄金色の瞳が見開かれ、次いで激しい怒りの炎が宿る。
「ふ、ふざけないで! 誰が廃棄ですって!? 私は神に選ばれた聖女! この国の象徴そのものですよ!」
彼女は木箱の中で胸を張り、豊かな双丘を震わせながら叫んだ。
その姿は確かに神々しく、そして滑稽だった。
ライオンの檻に入れられた仔猫が、自分は百獣の王だと喚いているようなものだ。
「すぐにここから出しなさい! そして服を用意するのです! 今なら、不敬罪だけで許してあげます。さもなくば……」
ルミナは右手を掲げ、魔力の光を指先に灯そうとした。
「聖なる雷が、あなたを灰にしますよ!」
バチッ、と小さな火花が散る。
しかし、それだけだ。
本来なら岩をも砕く聖雷が発動するはずが、指先で静電気が弾けただけに終わった。
「な……?」
「無駄だ。この部屋には『魔素阻害(アンチ・マナ)』の結界を張ってある」
ゼノスはペンをポケットにしまい、コツ、コツと靴音を鳴らして木箱へと歩み寄った。
その瞳には、恐怖も、敬意も、そして性欲さえもない。
あるのは、未開拓の鉱脈を見つけた炭鉱夫のような、冷たく貪欲な探究心だけ。
「それに、勘違いしているようだが」
彼は木箱の縁に手をかけ、聖女の顔を至近距離で覗き込んだ。
薬品と鉄の臭いが、ルミナの鼻腔を犯す。
「君はもう人間ではない。私の『所有物(モノ)』だ。モノが持ち主に命令する機能など、付けていないはずだが?」
ゾクリ。
ルミナの背筋を、氷柱を突き刺されたような悪寒が駆け抜けた。
本能が警鐘を鳴らしている。
目の前の男は、話が通じる相手ではない。
神も、法も、権威も通用しない、狂気の理(ことわり)で生きる怪物だ、と。
「……っ」
言葉に詰まり、後ずさるルミナ。
その恐怖に歪んだ表情を見て、ゼノスはようやく満足げに口角を吊り上げた。
「いい表情だ。プライドが高い素材ほど、壊れた時の断面が美しい」
【シーン3:実験室の提示】
「離して! 私に触らないで!」
ルミナは叫び、木箱の隅へと体を縮めた。
だが、ゼノスは彼女の抵抗など意に介さず、その華奢な顎を強引に掴み上げると、無理やり部屋の奥へと視線を向けさせた。
「よく見ろ。これがお前の『先輩』たちだ」
ゼノスが指を鳴らすと、部屋の壁際に並んでいた魔導ランプが一斉に輝きを増した。
薄暗闇に沈んでいた実験室の全貌が、青白い光の下で露わになる。
その光景を目にした瞬間、ルミナの喉から悲鳴すら凍りついた。
「ひ……あ……」
壁一面を埋め尽くす、巨大な棚。
そこには、無数のガラス瓶が整然と並べられていた。
黄色く濁ったホルマリン溶液の中に浮いているのは、動物の標本ではない。
人間の……それも、原型を留めぬほどに歪められた「肉のパーツ」だった。
眼球だけで構成された生き物。
女性の子宮だけが独立して脈打っている臓器。
口と肛門が直接繋げられた、冒涜的な消化器官。
それらは皆、瓶の中でピクピクと痙攣し、あるいはガラス面を内側からペタペタと叩き、生への執着を見せていた。
「美しいだろう? これらは『不適合者』のなれの果てだ。肉体の改造に精神が耐えきれず、パーツ単位でしか生きられなかった失敗作たちさ」
ゼノスは愛おしそうに、眼球の標本が入った瓶を指先で弾いた。
中の眼球がギョロリと動き、ルミナを見つめる。
「う、嘘よ……こんな、こんなことが……神が許すはずがない……ッ!」
「神? ここにいるのは私(造り手)と、お前(素材)だけだ」
ゼノスは顎から手を離すと、一歩横へずれた。
彼の背後に隠れていた黒板が、ルミナの視界に入り込む。
そこに張り出されていたのは、一枚の巨大な羊皮紙。
描かれているのは、ルミナ自身の――聖女の裸体の解剖図だった。
そこには、赤いインクで禍々しい指示が書き殴られている。
『子宮摘出および、魔獣培養槽(マザー・ウーブ)への置換』
『脊髄への触手神経(テンタクル・ナーブ)の直結』
『痛覚回路の遮断と、快楽変換ルーンの強制刻印』
『排泄機能の外部管理化』
『自我レベルのダウングレード(家畜化)』
文字を読むたびに、ルミナの顔色から血の気が引いていく。
それは殺害予告などではない。
人間としての尊厳を、形を、魂を、徹底的に解体し、汚らわしい肉人形へと作り変えるための「設計図」だった。
「な……なに、これ……」
「お前の改造計画書(レシピ)だ。聖女の肉体は魔力耐性が高い。普通の人間なら廃人になるような出力で快楽を流し込んでも、お前なら壊れずに『感じ続けられる』はずだ」
ゼノスは実験台の脇にあるワゴンから、金属製のトレイを手に取った。
ジャラッ。
トレイの上には、鋭利なメス、太い注射器、そして先端がドリル状になった拡張器具が、冷たい輝きを放っている。
「嫌……嫌ぁぁぁッ!!」
ルミナは木箱から転がり出るようにして逃げ出した。
裸足のまま、冷たいコンクリートの床を這い、出口の扉へと向かう。
なりふり構わぬ逃走。聖女としての威厳など、もう欠片も残っていない。
ここから逃げなければ。
殺されるのではない。もっと恐ろしい、「人間でなくなってしまう」地獄が待っているのだから。
「助けて! 誰か! 嫌っ、私は聖女なのよ! こんなの嫌ぁぁッ!」
扉に取り付き、爪が剥がれるほど叩く。だが、重厚な鉄扉はびくともしない。
背後から、コツ、コツ、コツと、あえてゆっくりとした足音が近づいてくる。
「逃げる必要はない。すぐに『楽』にしてやる」
「こないで! こないでえぇぇぇッ!!」
ゼノスはポケットから小さなリモコンを取り出し、無慈悲にボタンを押した。
「――拘束(ロック)開始」
ガシャンッ!!
天井のハッチが開き、無機質な機械アームと、黒光りする太い触手が、獲物を狙う蛇のようにルミナの頭上へと降り注いだ。
【シーン4:拘束の儀式】
「いやっ! 離して! 離しなさ……あぐっ!?」
ルミナの悲鳴は、腹部に巻き付いた粘つく感触によって押し潰された。
天井の闇から伸びた黒い触手が、彼女の腰を鞭のように打ち据え、そのまま蛇が獲物を絞め殺すかのように強く巻き付いたのだ。
ミチチッ、ミチ……。
柔らかな脇腹に、無骨な触手が食い込む。
抵抗しようと爪を立てるが、ヌルヌルとした粘液に滑り、触手の表面を空しく引っ掻くだけだった。
「捕獲完了(キャッチ)。暴れると骨が折れるぞ」
ゼノスの冷静な警告と同時に、ルミナの身体は軽々と宙に吊り上げられた。
足が床から離れ、バタバタと空を蹴る。
だが、その抵抗も長くは続かない。
さらに二本、三本と新たな触手が現れ、彼女の両足首と太ももを別々に絡め取ると、強引に左右へと開脚させた。
「ひ……や、やめて……そんな恥ずかしい恰好……ッ!」
空中でのM字開脚。
最も無防備で恥ずかしい部位を、ゼノスの目の前に晒される。
ルミナは顔を覆いたかったが、すぐに両手首も細い触手に捕らえられ、頭上へと吊り上げられた。
ガシャン、ウィィィィン……。
実験室の中央に鎮座していた、鋼鉄製の処置台――通称「調教台」が、モーター音を唸らせて変形を開始する。
背もたれが倒れ、手足を固定するためのアームが展開し、まるで蜘蛛が獲物を待ち受けるような形状へと変わっていく。
ドサッ!
ルミナは乱暴にその冷たい金属板の上へと投げ出された。
背中に走る衝撃に呻く間もなく、システムが作動する。
「No.1から4、固定(フィックス)」
カシャンッ!
処置台から伸びた金属製のカフスが、ルミナの両手首と両足首を同時に噛み砕くような勢いで閉じた。
内側には分厚い革が貼られているが、その締め付けは容赦がない。
「ぐぅっ……痛い、痛いぃッ!」
ギリリリリ……。
歯車が噛み合う音が響き、四肢が限界まで引っ張られる。
美しい大の字。いや、股関節が外れそうなほど大きく開かれたその姿は、解剖を待つ蛙そのものだった。
白い肌がピンと張り詰め、関節がきしむ。
「くっ、うぅ……動け、ない……」
ルミナは必死に身をよじった。
だが、カフスはびくともしない。ガチャガチャと鎖が鳴るだけで、手首の皮膚が擦れて赤く腫れ上がるだけだ。
シュゥゥゥ……。
さらに、首元にも首輪状の拘束具が嵌められ、頭部が枕に固定される。
これでもう、視線を逸らすことすら許されない。
天井の無機質なライトと、それを見下ろすゼノスの顔だけが、視界の全てとなった。
「素晴らしい適合率だ。その細い肢体のどこに、これほど暴れる力が残っていたのか」
ゼノスは拘束されたルミナの周囲をゆっくりと歩きながら、各部の締め付け具合を確認していく。
指先で、うっ血し始めたルミナの手首をなぞり、張り詰めた太ももの内側をペチリと叩く。
「ひうっ!?」
「筋肉の緊張状態も申し分ない。恐怖でこわばった肉ほど、メスを入れた時の反応が良いからな」
彼は満足げに頷くと、ワゴンの上にある「ある物」に手を伸ばした。
ビーカーに入った、蛍光ピンク色に発光するドロドロとした液体。
そして、その液体を吸い上げた巨大なスポイト。
「さあ、検品の前準備だ。『包装』を解かなければな」
「ほ、包装……?」
ルミナは既に全裸だ。これ以上、何を脱がすというのか。
だが、ゼノスの視線は彼女の肌そのものに向けられていた。
正確には、肌を守る「理性」と「皮膚のバリア機能」を。
「肌の感度を極限まで高め、衣服のような『羞恥心』さえも溶かし尽くす。特別なスライムだよ」
ゼノスはスポイトをルミナの胸元へと向けた。
ポタリ。
熱く、同時に冷たい、矛盾した温度を持つ粘液の一滴が、ルミナの白い乳房の上に落ちた。
【シーン5:粘液の洗礼】
「あ……っ!?」
ポタリ、と胸に落ちた一滴。
その感触は、ルミナの想像を絶するものだった。
単に濡れただけではない。まるで熱した油を垂らされたような灼熱感と、氷を押し当てられたような冷気が同時に襲いかかり、神経を直接ヤスリで削られるような鋭い刺激が走ったのだ。
「ひ、ああっ! 痛い、熱いっ、なに、これ……!?」
ルミナが悲鳴を上げ、拘束された身体をエビのように跳ねさせる。
たった一滴でこの反応だ。
ゼノスは無感動に観察しながら、スポイトの中身を一気に押し出した。
ドロォォォ……ッ。
大量の蛍光ピンクの粘液が、ルミナの豊かな双丘の谷間に降り注ぎ、雪崩のように腹部、そして太ももへと流れ落ちていく。
「や、やめてぇぇぇッ!! 溶ける、私が、溶けちゃうぅぅッ!」
ルミナは錯乱したように首を振った。
その感覚は正しかった。
ジュワワワワ……。
粘液が肌に触れた瞬間、微かな発泡音と共に、彼女の全身を薄く覆っていた「何か」が蒸発していく。
それは、聖女だけが纏うことを許された、高位の神聖魔法による常時結界――『聖なる加護(ヴェール)』だった。汚れや病、そして悪意ある接触から身を守る不可視の鎧が、科学の汚泥によって無残に剥がされていく。
「やはりな。聖女の肌には強力な防御術式が焼き付いている。まずはその『包装』を溶かさないと、メスも通らない」
ゼノスはワゴンの上から、刷毛のような形状をした触手を手に取った。
そして、肌の上で泡立つスライムを、ペンキを塗るように全身へ塗り広げ始める。
ヌチュ……、ネチョ……。
異様な水音が実験室に響く。
首筋から鎖骨へ、腋の下へ、そして敏感な脇腹へ。
触手が這うたびに、ルミナの白い肌はテラテラと淫靡な光沢を帯び、呼吸が荒くなっていく。
「はっ、くっ……! ん、ううぅ……!」
加護を剥がされた肌は、生まれたての赤子のように無防備だった。
いや、それ以上だ。スライムに含まれた『神経過敏薬』が毛穴から浸透し、皮膚感覚を異常なまでに増幅させている。
空気が触れるだけで電流が走るような痺れ。
自分の汗が流れる感触すら、巨大な虫が這うような不快感となって脳を揺さぶる。
「あ、あ……感覚が、おかしい……肌が、ビリビリして……」
「いい反応だ。これで君は、ただの空気の流れすらも快楽として感知する『受容体』になった」
ゼノスは冷徹に告げると、塗り終わった触手を、ルミナの最も秘められた場所――固く閉じられた秘裂のあたりへと滑らせた。
「ひぃッ!?」
「そこもだ。内側までしっかりと『下処理』をしておかないとな」
ヌプッ。
抵抗できないルミナの股間に、たっぷりとスライムを含んだ触手が押し当てられる。
秘所を守るための羞恥心も、聖女としての矜持も、このドロドロとした粘液の前では無力だった。
太ももの内側をヌルヌルと撫で回され、粘液の糸が銀の橋を架ける。
「いや、見ないで……そんな、ヌルヌルしたの、塗らないでぇ……ッ!」
「泣くな。これはまだ、ただの『消毒』だぞ?」
ゼノスは嘲るように笑い、テラテラと光るルミナの全身を見下ろした。
加護を失い、感度を強制的に引き上げられ、スライムまみれで拘束台に張り付けられた聖女。
その姿はもはや、神に仕える者ではない。
今まさに調理されんとする、極上の肉料理そのものだった。
【シーン6:検品(触診)開始】
「さて、データ通りの『肉質』かどうか、直接確かめさせてもらおうか」
ゼノスはゴム手袋をはめた指を、パチンと鳴らした。
その乾いた音が、スライムで過敏になったルミナの耳には、まるで鞭の音のように鋭く響いた。
「ひっ……こ、来ないで……触らないで……ッ!」
ルミナは拘束台の上で必死に身をよじった。だが、四肢を固定された状態では、スライムに濡れた身体が台の上で虚しく滑るだけだ。
ゼノスがゆっくりと手を伸ばす。
その指先が、ルミナの太ももの内側――最も柔らかく、敏感な皮膚に触れた。
「あひっ!?」
声にならない悲鳴が漏れた。
ただ触れられただけだ。それなのに、神経が焼き切れるような強烈な電流が背筋を駆け上がった。
ビクンッ! と反射的に筋肉が跳ね、拘束具がガチャガチャと音を立てる。
「ふむ。筋肉の収縮反応、良すぎるな。これでは手術中に暴れて器具を壊しかねない」
ゼノスはルミナの反応を気にする様子もなく、事務的に呟いた。
彼の指は、愛撫とは程遠い、肉の弾力を確かめるための無遠慮な動きで、ルミナの肢体を蹂躙していく。
ムギュッ、と豊満な乳房を鷲掴みにし、指を食い込ませる。
「脂肪の付き具合は標準以上。培養槽(ウーブ)としてのクッション性は十分だ」
「や、やめ……そんな風に、掴まないでぇ……ッ!」
ペチリ、と尻の肉を叩き、波打つ様子を観察する。
「臀部の弾力も申し分ない。これなら太い触手を挿入しても裂けることはないだろう」
「ひぐっ、うぅ……私は、家畜じゃ、ない……っ」
ルミナは唇を噛み締め、屈辱に耐えた。
聖女として崇められてきた自分が、市場に並ぶ肉塊のように値踏みされている。その事実が、肉体的な苦痛以上に彼女の精神を削り取っていく。
だが、地獄はまだ入り口に過ぎなかった。
「では、最も重要な『接続口(ポート)』の確認だ」
ゼノスはワゴンの上から、銀色に輝く金属製の器具――先端が鳥の嘴(くちばし)のように尖った、婦人科用のクスコ(膣鏡)を手に取った。
実験室の冷気で冷やされた金属が、ギラリと鈍い光を放つ。
「な、何を……それ、まさか……」
「動くなよ。傷が付くと、素材の価値が下がる」
ゼノスはルミナのM字に開かれた股間へと歩み寄った。
スライムで濡れそぼり、恥ずかしい音を立てて痙攣している秘所。
そこに、冷たい金属の先端が、躊躇なく押し当てられた。
「いやぁぁぁッ!? 冷たいっ、硬いぃッ!」
ヌチュリ……。
粘液の音と共に、異物が未通の肉体をこじ開けようとする。
ルミナは目を剥き、首を激しく左右に振った。
「駄目、そこは駄目ぇッ! 私は聖女なのよ! 純潔を神に捧げたの! こんな、こんな道具で汚されるなんて、絶対に……ッ!」
「純潔? ああ、生物学的な処女膜のことか。そんなものは手術の邪魔なだけだ」
ブチッ。
小さな、しかし決定的な破裂音が、ルミナの体内で響いた。
鋭い痛みが走り、それがスライムの効果で脳髄を揺さぶるほどの衝撃へと変換される。
「あ――――――」
ルミナの声が途絶えた。
目から、ツーッと一筋の涙がこぼれ落ち、こめかみを伝って冷たい実験台へと落ちる。
守り抜いてきた矜持が、あっけなく物理的に破壊された瞬間だった。
ゼノスはクスコを操作し、内壁の状態を確認すると、満足げに頷いて器具を引き抜いた。
トロリ、と金属の先端から、スライムと混じり合った鮮血が糸を引く。
「素晴らしい。粘膜の湿潤度、伸縮性、ともに最高ランクだ。これなら、予定通り『あれ』を埋め込める」
彼は血に濡れた手袋を脱ぎ捨て、まだショックで呆然としているルミナの顔を覗き込んだ。
その瞳には、これから始まる冒涜的な創造への期待が渦巻いていた。
「検品は終了だ。合格だよ、聖女ルミナ。君は最高の『苗床』になれる」
ゼノスは壁のレバーに手をかけた。
ゴゴゴゴゴ……と低い地響きが鳴り、実験室の奥の壁が開いていく。
そこには、巨大なガラス管の中で脈動する、無数の黒い触手と、異形の臓器が浮かんでいた。
「さあ、福音(オペレーション)を始めようか。まずは君の子宮を、この素晴らしい『神の臓器』と入れ替えるところからだ」
絶望に染まる聖女の瞳に、蠢く触手の影が映り込んだ。
(第1話 完 / 第2話へ続く)
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