第2話 🕰️ 時を食む実
時は流れ、永正二年(1505年)。
残馬平四郎から数えて八代目の子孫、名を**
ある日、平太は領地内の古い祠の裏で、奇妙な木を見つけた。その木には、二種類の異様な実が実っていた。
一つは、「未来の実」。青緑色に輝き、表面には星屑のような模様が浮いている。
もう一つは、「過去の実」。血のように赤く、触れると冷たい熱を帯びている。
父祖の代から伝わる巻物には、こう記されていた。
未来を食む者は、人の理を超えた力、すなわち*「
過去を食む者は、世の理に反する存在、すなわち「
平太は、武士としての鍛錬を信じる質であったが、この戦乱の世で生き残るには、人の力を超えた何かが要ると悟っていた。
彼は意を決し、**「未来の実」**を一つ口にした。
⚡️ ゴオォォ……
実が喉を通ると同時に、脳内に炎が走った。世界の色が変わり、風の流れ、水の動き、そして人々の心の機微までが、**「術」**として理解できるようになった。彼は、風を呼び、火を起こし、遠くの物音を聞き分ける力を得た。
そして、次に、**「過去の実」**を一つ口にした。
🌑 ヒュウウウ……
今度は、体中が凍り付くような感覚に襲われた。目の前の空間が歪み、あたりに立ち込めた霧の中から、異形の存在が姿を現した。それは、山伏のような姿をした、背の高い**「天狗」**の影だった。
「小童よ。何ゆえ、禁忌の道を歩むか」
天狗は低い声で問うた。平太は恐れず、答えた。
「乱世を生き、武士の道を貫くため!」
天狗は深く頷いた。
「過去の実を食した代償は、そなたを望む場所へ送ること。しかし、戻る術はない。そなたの望む**『過去』**はどこか」
平太が選んだのは、父祖の代から語り継がれてきた、武蔵国で最も重要な戦の一つ。
「享徳三年(1478年)。武蔵国、**
光に包まれ、平太の姿は現代の地から消え去った。
平太が目を開けると、そこは土煙と鬨の声に満ちた戦場だった。
文明十年(1478年)。武蔵国で、山内上杉氏に仕える名将、**
境根原の戦いである。
平太は、自らの甲冑が周囲の武士のものと様式が異なることに気づき、咄嗟に近くの木陰に身を隠した。
状況を把握せねばならない。この戦いは、**太田道灌・
平太の脳裏に、未来の実が与えた**「術」**の知識が蘇った。
1. 道灌との邂逅
平太は、戦場の喧騒の中で、ひときわ目立つ指揮官を見つけた。それが、戦国史上稀代の知将、太田道灌である。
平太は、自らの素性を偽り、遠祖の残馬平四郎と同じように、**「乱世を嫌い、正義に味方する武士」**として道灌の陣営に乗り込んだ。
「太田殿! 私は遠方より参じた浪人、残馬平太と申す。古河方の横暴を打ち砕くため、微力ながらお力添えを願いたい!」
道灌は、平太の異様に精悍な顔立ちと、落ち着いた物腰に興味を持った。
「浪人、残馬と申すか。そなた、武具は古風だが、その眼には尋常ならぬ光がある。何の技を持つ」
平太は、未来の実の力、**「風の術」**を使った。彼は、誰もいない地面に向かって手を翳すと、瞬く間に小さな旋風を起こし、目の前の旗を勢いよく揺らした。
「これは、風の術。戦場の風向きを読み、敵の動きを阻むことができます」
道灌は深く感銘を受けた。
「面白き力よ。よし、残馬平太。我らの軍に加われ。そなたには、千葉自胤公の陣の傍で、搦め手(側面)からの敵の奇襲を防ぐ役目を任せる」
2. 千葉自胤への仕官
平太は、道灌の指示通り、自胤の陣へと向かった。
自胤は、孝胤によって追われた悲劇の当主であり、その軍は士気が高い一方で、兵力は孝胤に劣っていた。
平太は、自胤に対し、戦の趨勢を握る策を献策した。
「自胤様。孝胤勢は、側面からの道灌公の突撃を警戒するあまり、自軍の左翼が手薄になっています。そこを、私が**『隠形の術』**をもって単騎で突破し、指揮系統を混乱させましょう」
平太は、未来の実の力の一つ、「影の術」を使った。周囲の光を屈折させ、自分の姿を一瞬だけ透明にする術だ。
「よ、よし……残馬。そなたにこの軍の命運を託す!」自胤は涙ながらに命じた。
3. 千葉孝胤との激突
平太は、夜陰に乗じて単身、孝胤軍の左翼へ潜入した。
陣中に辿り着くと、彼は影の術を使い、警戒の緩んだ武士たちを無力化し、そのまま孝胤の本陣へと向かった。
しかし、武士たちの間に潜んでいた、過去の実を食した代償である**「妖」、すなわち「天狗の
「未来の術を使う者め。過去の力に抗うか!」
天狗の眷属が、恐ろしい形相で平太に襲いかかる!
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