勇者は刀を振るう
花京院典明(はなけいいつかさどるべい)♀
第1話
「此処は?」
確か縁側で温かいお茶と菓子で戦後のひと時を過ごしていたはずだが……何故か見知らぬ部屋の床に私は座っていた。
周りには刀ではない得物を携えた者達が居て、頭に意匠の入った金属の冠をつけている者がこちらを見て誰よりも喜んでいる。
おそらく格好からして、この場で一番権力がある者だろう。
私が座っている床には見たこともない、紋様が描かれていた。私が知る限りでは、こういう絵柄は存在していない。外の国ではあるかもしれないが、生憎と私の国は閉ざされた国だからその他の知識が流通していない。
『そなたが勇者か?』
「?」
何を言ってるのだろうか? 言葉が分からない。ただ敵意はなさそうだし、そういう動きも見せていない。
『私はテクマヤコン。この国の王だ』
「はぁ、どうも」
依然として言葉は分からなかったが、自己紹介をされたのは動作で判断できた。
『そなたには勇者として魔物を、魔王を倒してもらいたい』
『その為の資金と仲間を与える』
『無論、勇者としての働きを終えた後は元の世界に帰そう』
そこから矢継ぎ早に言葉は続いたが、やはり何も分からない。
兎に角、私が現れたことに対して歓喜しているという事実だけは理解できた。首を傾げるばかりの私に色々と物を渡される。
剣、盾、鎧、あとは本……か。全て何らかの異術が籠められたものだろう。そういう力を感じる。
こんな物騒なものを手渡してくるとなると、おそらく彼らが望んでいるのはこれらを使って強大な何者かと戦ってほしいということだろう。
そういうことであれば私の返答は決まっていた。
「これは必要ない。私は私の剣術があり、私が最も信頼している
私が腰に差してある鞘に入った刀を見せると、彼らは驚いた表情をした後、笑いながら拍手をした。
どうやら納得してもらえたようだ。言葉は通じずとも、目と目で語り合うことはできる。人の目は心の窓だからな。
そう思っていたら、あれよあれよと外へ放り出されてしまった。小判(?)らしきものが入ったズダ袋を渡されて。
抗議する前に鉄の扉が閉められた。どうするべきか、この扉を切り裂くべきだろうか。
「よく分からないが、取り敢えず彼らは困っている。なら、私はこの剣で出来ることをするだけだな」
扉を切り裂いて抗議するのはやめた。そういうことは、彼らが困っている元凶を切り伏せてからやればいい。そうすれば向こうも私に何故こんな真似をしたのかを教えてくれるはずだ。
教えてくれない場合はまたその時考えればいい。
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