第2話 推しのすぐそば
「___って、うえぇええ!?何これ何これ!?」
一瞬にして、私のまとっていたはずの制服は消え、暖かな光の粒子に包まれたかと思えば、とても可愛らしい色とりどりの花々で色どられたドレスのようなものに変わっていた。
「可愛い!?でもどうやって着替えたの!?わぁ〜でも可愛い!あれっ、でもカードは?持ってたはずだったのに、消えちゃったの?!」
「……前見て!危ない!」
自分の衣装に気を取られていたけれど、セイラちゃんの警告をまとった声に、体は従う。
前を向くと、先ほどまで私と同じように呆気に取られていたはずの黒いそれは、再び私に危害を加えようと、蠢き、雄叫びのようなものをあげる。
ぶわりと再び、腕のようなものを振りかざす。
あ、やばい、怖い。
そう思った私が咄嗟に取った行動は、いたって単純なものだった。
「ごめんねセイラちゃん!」
私は急いで、その黒いそれに背を向け、セイラちゃんを抱えて、走って逃げる。
幸運なことに、その黒いそれは、わたしたちにしか興味がないようで、他の民家に目を向けることなく、ただひたすらに私たちだけを追いかけ回した。
とは言っても、さすがに人を抱えて走る経験なんてないから、結構走りずらいし、だからといって、急いで走らなきゃ、追いつかれてしまうし。
私に抱えられたセイラちゃんは、そうやって逃げ惑う私にこう叫んだ。
「なんで逃げるわけ!?せっかくブランドに選ばれたのなら戦いなさい!」
「ブランドに選ばれるってどういうことなの!?」
「あぁもう!ヒーローになったってこと!このあんぽんたん!」
「あんぽん…!?セイラちゃんって意外と口悪かったりするの!?」
「そんなことは後で!!」
私に抱えられたまま、セイラちゃんは大きなため息をこぼした。
戦えって言われても、どうやって戦えばいいかわからないし、セイラちゃんみたいなヒーローみたいに必殺技とかもどうやればいいかわからないし。
私にできることはただセイラちゃんを抱えて逃げることだけだった。
私が、セイラちゃんのいう通り、ヒーローになったおかげか、いつもよりもとても早く走れているけれど、私が黒いそれと距離を空けようと頑張っても、距離を開けた分だけ、それはまた私たちに近づいて、と、イタチごっこを繰り返し続けていただけだった。
「……あれ、これって一体…?」
私が抱えていたセイラちゃんが、何か独り言を漏らす。
とは言っても私にその返事をする余裕があるわけもなく、ヒーローであるセイラちゃんに助けを求めた。
「ど、どうしたらいいのかなぁコレ〜!?」
「えぇ!?どうしたらって……!」
私がセイラちゃんの方を見ると、セイラちゃんは、私が先ほどまで守られていたあの柔らかな光のようなものに包まれていた。
「えっ、何この光!?セイラちゃん何かした!?」
「知らないよこんなの!!……って、前!私見てないで前見なさい!」
「えっ、なんて?なんて言ったの!?」
「前!!!前見なさいって!!!」
前、と言葉が聞き取れて、いざ前を振り返ると、そこにはブロック塀の壁が立ちそびえていた。
「「ぎゃっ!?」」
二人して正面からその壁にぶつかり、顔がヒリヒリと痛む。
先ほどまで私が抱えていたはずのセイラちゃんは、もう既に立ち上がっている。
さすがヒーローというべきだろうか。
「…あれ、セイラちゃん、いつの間に傷が…」
私の目の前に立つセイラちゃんは、出会ってすぐの、あのボロボロの状態から随分と回復していた。
とは言ってもまだ傷は残ってはいるけれど、たったこの間だけでそんなにも治るとは到底思えない。
「私だってわからない!でも今はそんなことに構ってられないんだから!ほら!さっさと立つ!」
「は、はい!」
ただセイラちゃんに促されるまま、命じられるがままに私は立ち上がった。
私が立ってすぐ、袋小路のようになったこの場所に追い込むようにして、あの怪物のような黒いそれは、私たちを追いかけてきた。
「あわばばば!!どうしようセイラちゃん〜!?」
「なんか技の一つや二つ…って、ヒーローなりたて勢はそこで邪魔にならないように黙って見てて!」
セイラちゃんは私を押しのけるようにして、袋小路の端の方へと私を移動させた。
「あんた程度ならこれで十分!SPLASH STAR!」
セイラちゃんは、そう唱えながら両手を相手に振りかぶるようにしてかざした。
すると、どこからともなく激しい星のような光が、激しい風を纏って相手を叩くように、押さえつけるように吹き荒れる。
私はまともに目も開けられなくて、せっかく立ち上がったというのにその勢いに負けて再び座り込んでしまった。
ぶわりと、セイラちゃんの放った技と土煙で敵の姿が完全に覆われる。
それから、少しずつ視界が晴れて、先程まで敵が立っていた位置には塵の一つすら残っていなかった。
「すごい……」
私は、しゃがみ込んだままそう呟くしかできなかった。
これが、ヒーロー。
体を張って、未知の存在と戦う、選ばれた存在。
ぼーっとセイラちゃんの後ろ姿を見つめ続けていると、セイラちゃんはやや気まずそうに私の方を振り返った。
「あー、えっと、さっきはごめんなさいね、あんな姿見せちゃって。」
「え!あぁいやいやいや!そこのとこはほんと大丈夫!!平気なので!!!」
咄嗟に平気だと私は返したが、一体、セイラちゃんにとってどの姿が“あんな姿”だったのかは、私はわからなかった。
「じゃ、じゃあ私はここで…」
とりあえず、私はこの場から立ち去ろうと思い、静かに立ち上がってから忍足でゆっくりとセイラちゃんの横を通ろうとした。
けれど、それは叶わず、セイラちゃんは私の肩に手を置き、笑顔で私にこう話した。
「ちょっと待ちな。普通の一般人とかならここで帰らせてたけど……あんたは別。選ばれちゃったもんね?期待の新人ちゃん?」
「え、えぇ〜?」
ゆっくりと手の置かれた方を振り返ると、そこにはセイラちゃんの顔がすぐそばにあったものだから、私の視界は過剰なほどの推しで満ち溢れる。
「せ、せせせセイラちゃん!?ち、近いかも〜!?」
これは流石に推しの過剰摂取だ。
推しからの過剰なスキンシップは、オタクの死因トップ3に入ってしまうのに。
そうやって、私があわあわとセイラちゃんを前にして戸惑っていると、どこからかヒールの小高い、カランとした音が耳に届いた。
その音のした方を、セイラちゃんとほぼ同時に振り返ってみると、そこには赤い髪を高く一つに結い上げた、気高きヒーローが美しく佇んでいた。
「ごめんセイラ!遅れちゃって!」
「あぁいいんですよ!それより…」
セイラちゃんが私の方へと目を向ける。
その目線を追いかけて、その赤い髪のヒーローは私と目を合わせた。
「あなた…」
ゆっくりと、その唇を振るわせ始めた彼女に目を奪われる。
ただ、綺麗だなぁと思っていたのだけれど、その後ろから、見覚えのある爽やかな男が風のように走ってきた。
「カレンさん!急に止まらないでくださいよ!って……ん?あっ、さっきの無謀JK!」
「無謀JK!?失礼ですね!」
オレンジ色の髪、そしてその口ぶりから、私は彼が先ほど出会ったヒーローであることを確信した。
それにしても、出会ってすぐに無謀JKだなんて。
正直、否定しきれない部分はあるけれど、失礼であることは変わりない。
そんな様子の私たちを微笑ましそうに見つめながら、赤髪の美しい人は再び語り始めた。
「まぁまぁ。まずは自己紹介から。私は
「一瀬颯っす。さっきぶりっすね。」
「んで、私が
「もちろん!皆様存じ上げております!」
まるで、目の前でファンミーティングが行われているようなほどに贅沢な光景を味わっている。
いつも画面越しにみていたあのヒーローたちが、こんなにも近距離で、言葉が一方通行じゃないことに私は大歓喜していた。
「ところで……セイラ、この子は一体?」
「あっ、私夢咲こはるです!」
そういえば、私だけ自己紹介してなかったなと、私はふと気付いて、急いで名前を口にした。
カレンさんは、そんな様子の私に再び目を向けて、パチリとウインクをしてくれた。
それはまるで、カレンさんの周りにだけ美しい花が咲くようで、私は完全に目を奪われてしまっていた。
カレンさんが「可愛い子ねぇ」と独り言をこぼす中、セイラちゃんは、少し目を伏せながら、こう語り始めた。
「あー…あのあと、私吹き飛ばされて。それで、ここの近くまで飛ばされたんです。そしたらそこに、偶然この子が居合わせちゃって。最悪なことにレイダーまで追いかけてきてしまって。」
セイラちゃんは、まるで先ほどの光景を思い出すようにしながら、苦々しい表情でカレンさんにそう語った。
その報告じみた発言を黙って聞いていたオレンジ色の髪のヒーロー、颯さんがセイラちゃんに尋ねる。
「ところでセイラさん、
「大丈夫。もうすでに倒したよ。……ですが……その際に、この子がブランドに選ばれたんです。」
“ブランド”?
そういえば、さっきからセイラちゃんはその言葉を言っていたような気がする。
ブランドって、もっとこう、お店のイメージだとかそういうものじゃないの?
状況についていけていない私を置いていったまま、それでも、ヒーロー3人の会話は進んでいく。
きょとんとした私の表情をみていたのか、カレンさんは私にいきなり抱きついて、それはもう私を撫でて頬擦りをしてを繰り返していた。
「だからこの衣装ってわけね。にしても本当に可愛い子ね〜!衣装もとっても似合ってて可愛いし!」
「あばばばばば!!!!」
カレンさんに撫でくりまわされ、あまりにも急な供給に困惑しつつある私をみて、颯さんはカレンさんを止めようとした。
「カレンさん!とりあえず可愛がる癖やめましょう!そのJKちゃんテンパってるじゃないっすか!?」
「あら、ごめんなさい。嫌だったかしら?」
「いいえ!ご褒美です!!」
「それはそれで返答としていいんすか…?」
ヒーローとそのヒーローたちのオタクである私のやりとりを見て、颯さんは困惑していたが、ある程度すると、カレンさんは私を解放し、ヒーローとしての風格を再び見せ始めた。
「とりあえず、変身は解きましょう。もう戦闘は終わったんだし。それに、こはるはまだ世間に知られていないヒーローなんだから、一般人の混乱を招きかねないわ。」
そのカレンさんの言葉を合図に、3人とも、私が変身した時のような光の粒子を纏ったかと思えば、それはすぐに消え、華やかなヒーロー衣装から、日常に紛れていそうな、普段着を身に纏った姿へと戻る。
彼らの手には、私が先ほど同じように手にしていたあのキラキラとしたカードが大切そうに持たれていた。
……ところで、きっと私も同じように変身を解いた方がいいのだろうけれど…
目の前の3人は、特に何か呪文のようなものを唱えることもなかったし、かといって普通の衣服のように脱ぎ着しているわけでもなかった。
「…どうやって変身って解けるんですか?」
純粋な疑問をこぼせば、カレンさんはその名の通り可憐な表情を崩し、笑みをこぼした。
セイラちゃんはキョトンとし、颯さんは頭にはてなマークを浮かべているように見える。
「そうよねぇ!そりゃあわからないことだらけよね、大丈夫よ〜!ほらほらリラックス〜!」
再び、カレンさんは私の頭や背中を撫で始めた。
その様子を見慣れているのか、他の二人はただ見つめているだけで、特に何も反応することもなかった。
カレンさんは、また気を取り直して、私に優しく語りかけた。
「ブランドカードはあなたの想いに反応するの。だから、まずは落ち着いて、深呼吸!それから、変身解除!みたいなことを思い浮かべてたら自然と解けるわ!」
「深呼吸…ですか?」
正直、ブランドカード、というものがわからなかったけれど、言われるがまま、私はゆっくりと深呼吸をする。
先ほどの混乱もあり、私は想像以上に落ち着けていなかったようだ。
それから、変身解除、だっけ。
ぶわりと、また温かな何かに包まれる感覚。
そして、気がつけば手にはあのキラキラとしたカードを握りしめていた。
「……あれ、服が…!!服が戻ってる!!」
目を開けば、変身前のあの傷ついた制服姿に戻っていた。
正直、このボロボロの制服に戻るくらいなら、あのヒーロー衣装の方が良かったのかもなぁと思っていたけれど、いつもの自分がちゃんと、ここにあるという事実は、どこか安心さえ覚えた。
「とりあえず、この後って用事とかあったりするの?」
カレンさんは、私にそう問いかけてきた。
「用事ですか?特にありませんが…」
私の今日の予定は、本当ならセイラちゃんのグッズを手に入れるだけだったから、本当にやることがなくなっていた。
それにしても、ただの一般人であるはずの私の予定を聞くだなんて。一体どうしてだろう?
「よかった。ちょっとついてきてもらえない?私たちのヒーロー事務所まで。」
「えぇ!?」
自分で驚いたものの、少しずつ納得の方向に私は向かっていった。
そういえば私、変身してたな。
………ヒーロー、なってたな…?
「あっ、セイラさん。怪我大丈夫っすか?」
ふと、私は、颯さんの声に意識を持って行かれた。
推しの名前が出て反応しない人はいないだろう。私もそのひとりだし。
「別に、そこまでじゃ…」
セイラちゃんは、最初に飛ばされてきた時と比べれば、怪我もだいぶ浅くなっていた。
……出会った時、あんなに傷だらけだったのに。
こんな短時間で治っちゃうものなのかな?
「俺背負いますよ!」
「あー…じゃあ、おねが___」
「了解っす!」
颯さんは、まるで私の飼っている大型犬みたいに見える。
あるはずのない尻尾をブンブンを振っているように、彼はただ誰かの役に立てることが心底嬉しいらしい。
セイラちゃんは、その彼の圧倒的ヒーロー性に振り回されているようにも見えるけれど。
「それと、カレンさん!今日のこと、ラブラさんに伝えといたほうがいいっすか?」
颯さんは、セイラちゃんを背負ったまま、カレンさんにそう尋ねた。
「そうね、じゃあ早速…」
「俺行ってくるっす!」
「あらら……スマホで連絡すればいいだけなのに…」
カレンさんは彼の背中を見つめながら、念の為、と呟き、スマホのメッセージアプリをその綺麗な指で踊るようにして文字を打ち始めた。
それにしても颯さんは、彼の話に出てきた、“ラブラさん”について、私が尋ねる隙もないほど、彼はセイラちゃんを背負ったまま、一瞬にして街を駆けていった。
変身を解いたというのに、彼はすぐに豆粒のように小さく、見えなくなっていった。
ヒーローに変身する前から足が速かったんだなぁと私が一人で感心していると、私と共に残されたカレンさんが、汚れ、傷ついた私のスカートに目を向けた。
「あら?あなた、そのスカート…」
「あぁ、これはちょっと前に、色々あって…えへへ、ちょっと恥ずかしいですね。」
正直、年頃の乙女がしていい格好ではないだろう。
これではまるで、痴女みたいだ。
「……じゃあ、こうしましょう!」
カレンさんは、手に持っていたスマホを閉じ、身に纏っていた上着を、私の腰に巻きつけた。
「えっ、そんな!汚れちゃいますよ!!」
「いいからいいから!さっ、行きましょう!あなたに会わせたい人がいるの!」
彼女は私の手をさりげなく繋いで、そして前へを踏み出して行く。
これがヒーロー。
たとえ変身していなくても、彼らはきっと、心の底からヒーローなんだろうなぁと、私はただ目の前の憧れを追いかけ続けた。
街を、ビル街を抜けて、私はカレンさんにただ着いて行く。
景色は住宅街とは打って変わり、華やかなショッピング街や大企業のビルなどへと変貌していく。
本当に、こんなところにヒーロー事務所なんてあるの?
今まで、ヒーローのファンではあったものの、暗黙の了解でヒーローの事務所の情報は公開されたとしても、深く詮索すべからず、というものがあったもので、私はヒーロー事務所のことについてはからっきしだった。
「さぁここよ。ずいぶん歩かせてしまったわね。」
「え?ここ、なんですか?」
カレンさんがそう語り、立ち止まったのは、他の大企業に劣ることのないほどの、美しいビルの前だった。
「芸能事務所も兼ねてるからねー。それに、綺麗なほうがテンション上がるじゃん?」
確かに、それもそうだと思うけれど、あまりにも私みたいなただのJKが入っていいような容貌ではないと思ってしまう。
「こはる?どうしたの?」
「ヘぇっ!?」
急に、いつもは画面の向こうから聞こえてきたはずの声で名前を呼ばれると、どうしていいかわからなくなってしまう。
私は、先ほどとは違った緊張で、足がすくんで、立ち止まってしまっていたようだった。
「緊張するかもだけど、大丈夫だから、ね?さぁいきましょ〜!」
「ほ、ほんとに入っちゃっていいんですかぁ〜!?」
半ばズルズルと引きずられていくように、私はカレンさんと事務所である綺麗なビルへと足を踏み入れた。
内装は、外観と同じ、いやそれ以上に綺麗に整頓されつつも開放感を感じれて、建物内とは思えないほどに緑と光で満ちていた。
でも、その内装をじっくりと見る間もなく、そのままエレベーター内へと連れて行かれて、カレンさんは流れるように、35という数字のボタンを押した。
きっとそれは、このビルが35階建てであることを表しているんだろう。
だからあんなにも大きかったんだなぁ……
「どう?結構綺麗でしょ!?私このビル好きなのよねぇ。綺麗だし、過ごしやすいし!……ほんと前の会社と比べもんにならないし…」
「え?どうしたんですか、カレンさん?表情暗いですよ?」
カレンさんが途中で顔を下に背けるように、何かをぶつぶつと呟いていたため、私は彼女がなんて言ったのかは完全には聞き取れなかった。
「ところで、今はどこに向かってるんですか?」
「今?あぁ、今はね、このヒーロー事務所の代表取締役にあたる人のもとに向かってるの。」
「ヒェッ!!わ、わわ、私なんかがそんなお偉いさんにお会いしちゃっていいんですか!?」
「そんなに怖がらなくていいよ〜!あの人、新人は絶対に自分の目で見て判断する主義だからね。まぁたぶん、気軽にお話ししておしまいだと思うよ?」
彼女は、そうやって平然と話していた。
私の中での代表取締役って、その会社とかの社長っていうか、いかにもおじさんで怖そうで権力の塊っていうか…!!
個性と人望に溢れるヒーローたちを統括する人なんだから、それはきっと立派で恐ろしさもあるお方なんだろうなぁと私が妄想を膨らませていると、エレベーターは短くベルの音を鳴らし、扉を開いた。
エレベーターから、カレンさんの促すままに出ると、そこはビルの一階とは打って変わって、重厚感に溢れつつも、どこか宇宙を思い浮かべさせるような空間だった。
私の前を歩き始めるカレンさんについていきながら、私はこのフロアの内装をきょろきょろと迷うようにしながら眺め始めた。
上を見上げると、そこにはシャンデリアではなく、まるで惑星のような丸い球体状の照明が、私たちを照らしていた。
「わぁ……なんだか、すっごく綺麗ですね。まるでビルの中じゃないみたいです。」
「私もこのフロア好きよ。このフロアね、プラネタリウムもみれちゃうのよ?」
「え?そうなんですか?」
「えぇ!つい先日、ちょうどみんなで見たところでね。今からこはるが会う人が、とっても宇宙に詳しいの!」
カレンさんは、嬉々としてその話を続けていた。
どうやら、カレンさんはその代表取締役の人が大好きみたいで、私は緊張感がややほぐれてきた。
一体どんな人なんだろう、という期待感も芽生え、脳内の代表取締役の人への人物像が、ただの怖い人からかなりぶれ始めた。
目の前を歩いていたカレンさんが、歩みを止めて、私は不思議に思いながらも、ここが目的地なんだと理解した。
「ここよ、この扉の先で待ってるはずよ。」
カレンさんはそう言い、宇宙観もありつつ、重厚感のある扉を三度ほど叩く。
「カレンです。入るわね〜」
彼女は、丁寧さもありつつ、軽い口ぶりでその扉を開く。
私はそのあとをついていくしかできなかったけれど、その先に待つ人に無礼がないよう振る舞おうと決心して、足を踏み出した。
その一歩と同時に、声が響く。
「カレン、ご苦労だったね。そして君が、期待の新人さんかな?」
カレンさんに隠れて、その声の主の姿は捉えられなかった。
女性とも男性とも言えない、中性的な響きの声。
私はひょこりと彼女の影から姿を出すと、その声の主は、私の方を見つめていた。
私は、その声の主を見て、その姿に、その色に、息を呑んでしまった。
宝石のような、虹色を帯びた黒の髪色に瞳。
そして、このとても大きなビルの代表取締役とは思えないほどの、私よりやや小柄で幼い姿に。
「僕はラブラ。ごきげんよう。そして……」
到底現実的とは言い難い風貌のその人物は、社長室の、いかにも社長の権威を示すような木製の机に腰掛ける。柔らかそうな椅子に腰掛けないのはあえてなのだろうか。
その人物は、私に照準を合わせるように目を向けて、続けてこう言い放った。
「____ようこそ、政府公認のヒーロー事務所へ。」
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