元第五王子は歌をつむぐ

桜彩 るり音 (元、桜庭ミオ)

第一話 満月

 白銀色の髪と水色の瞳を持つ少年――ルノは鉄の鍵を回し、窓をわずかに開けた。月の光が強くなる。

 鉄格子の向こうから、ひんやりとした夜風が塔の中に入り込み、冬の匂いが広がった。

 どれくらいの時を塔で過ごしているのか覚えてないが、いつからかルノは革靴を履かなくなった。絨毯が敷かれているのもあるけれど、籠の鳥の自分が歩ける範囲なんて限られているのだし、窮屈きゅうくつな革靴を履きたいとは思わなかった。


 ルノは満月に語りかけるように歌い始める。それは、かつて踊り子だった母が教えてくれた歌。

 その歌は、月に向かって愛しい人の幸せを願う、物語の主人公の祈りが込められたものだった。



 ルノの母は大陸の出身だった。彼女が旅団と共にこの島に来た時に、ダーラ王国の王――ルノの父に、見初められたと聞いている。

 后妃こうひの館でルノを産み育てた母は、赤銅しゃくどうの髪と漆黒の瞳を持つ女性だった。褐色の肌に、しなやかな肢体。その容姿にルノは似ていない。

 この島の王族は太陽神の末裔と言われている。王の血を引く者は、金色の髪と瞳を持って生まれるのだ。


 ルノは今、十二歳で、五番目の王子なのだが、異国の踊り子の息子だということで、他の王子や王女から避けられていた。

 城に居場所がないルノはよく一人で城を抜け出した。護衛を置いて。

 だけど護衛はルノの母に報告しなかった。

 ルノの婚約者もそうだが、ルノのことが好きで関わってくれているわけではない。ルノが王の血を引いているから関わりがあるだけで、ルノに興味がないことを彼は知っていた。


 城のそばには町があり、たくさんの人であふれていた。平民に会うとルノの髪と瞳の色のせいか、泣きながら拝む人がいて面倒だった。


 町を避けるように進むと森があり、その奥に高い塔がそびえている。

『お前が悪いことをしたら、あの塔に連れて行かれるんだぞ』

 他の王子達は、ルノを見ながらわらった。

 森の中にある塔は、罪を犯した王族や貴族が幽閉されるための場所だった。

 今は誰もいないはずだが、夜な夜な泣いているような声が聞こえるという噂があり、人々に恐れられている。

 恐ろしいと感じたルノは塔には近づかず、森にある湖に向かった。

 森には狼がいるが、太陽神の末裔である王族には近づかないと教えられている。だから怖くなかった。

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