12星座 株式会社コエビカンパニー商品開発部の12の物語

B52

第1話~牡羊座:株式会社コエビカンパニー商品開発部の挑戦~

~牡羊座:株式会社コエビカンパニー商品開発部の挑戦~


外に散る桜を眺めながら、田中光利(42歳)は試作品のポテトチップスを齧りながら頭を抱えていた。休み前に部下の榊原が残していった試作レシピを自分で作ってみたのだが、どうにも納得がいかない。


確かに自分が試作したサクラエビ味に比べれば、それは圧倒的に斬新だった。


「カボスミカン味…

うちがやる意味あるのか?」


そもそもカボスもミカンも似たようなものではないか・・・いや、そんなことより、

「俺も榊原も結局、置きに行ってる。」


「部長の案は結局昔の焼き直しじゃないですか。ちょっとアイデア探しに出てきます。」そう言って榊原は出ていった。


新商品アイデアの第一回評価会まで残り2週間。

田中光利は桜を眺めながら悩んでいた。


全従業員からアイデアを募集。と言ってみたものの、あがってきたアイデアはタバスコチリドッグや、ミルクセーキ味といったものばかりで結局、商品開発部で考えるしかなくなっていた。アイデア募集の収集と集計作業の分だけ遅れただけだった。


田中光利は部屋の隅にある段ボール箱を漁る。競合研究の目的で買い集めた中から、ワサビステーキ味の柿の種を探しているのだ。段ボールを掘り返しながら、それはすでに食べて尽くしてしまったことを思い出して、薄くなってきた頭と、突き出てきたお腹をさすりながら桜を眺めた。


「桜餅味…はどうだろう。それも、餅の方じゃなく…葉っぱの方だったら。」


田中光利は自分の言葉にハッとした。

電流がはしった。


そこから先は衝動に身を任せるだけだった。

田中光利は走った。近所の和菓子屋「たぬきあん」に走った。

「桜餅、あるだけ。」

店員が桜餅を丁寧に箱に詰めている。「全部ばらすから袋に放り込んでくれればいい。」眺めながらそう言いそうになるのを必死でこらえた。食品製造者への敬意。わずかに残ったその理性のおかげで、領収書を切る程度の冷静さが戻っていた。


桜餅の袋をぶら下げて歩く彼の脳裏には次々とアイデアが浮かんでいた。

「桜餅の葉を、海苔塩の海苔だと思って使ってやれば…」

「味は?塩味?少し甘みも欲しい。いっそ餡を…」

「フレーバーが弱ければ…香料メーカーと相談?既製品であるか?」

「梅昆布茶は?あれは…サクラじゃなくて梅か…しかし、Bパターンにできるか?」

「梅とさくらで春味フレーバーというコンセプトは?」

「日本よりも海外向けの方があたる可能性は?」

少しづつ歩調が速くなる。


食品乾燥機の前でイラつきながら田中光利は腕組みをして、指先でリズムを刻んでいた。その間にも彼の中をアイデアが駆け巡っていた。

「乾燥したこしあんとの配合比を変えて、桜葉と塩の配合バランスを調整。塩なし、餡なしも比較に必要だな。」

「今は大雑把に配合比の差を大きくして、そこから寄せていけばいい。落ち着け、俺。」

そう呟きながら、途中のコンビニで買った梅昆布茶を振りかけたポテトチップスをつまむ。

「これもいけるな。だが、桜餅と一緒に出すと競合してインパクトが弱まる…いったん封印。」

「サクラエビ味と梅コブ味は封印封印。固定概念をぶっ壊せ。」

自分の未練を断ち散るためにそう呟いて頭を振って、それでも未練がましく、サクラエビ味と梅昆布味のアイデアをクリアファイルに収めた。


そして、ポテトチップス~桜餅味~の試作第一号はこの世に誕生した。



【牡羊座のテーマは始動です】

新しい物事を始めるとき、既存の何かを捨てるか打ち砕くかの痛みを伴います。

そのためには、確固たる意志と信念が必要になります。


しかし、意志と信念だけでは何も生みだされません。


ゼロからイチを生み出す力。ではなく。ゼロに見える地面からイチを掘り返す力。それこそが牡羊座のテーマです。しかしそこには、かつての積み上げが絶対に必要です。走り出すにはまず、足腰がなければ始まりません。


過去の蓄積で圧縮された情動が吹き出す。牡羊座はそんなサインです。


【牡羊座(白羊宮)】

元素:火 支配星:火星 様相:活動宮(始動)

極性:男性


強い自我・エゴイズム・高いプライドを象徴します。


衝動的な行動をとる、非常に激情型のサインです。

しかし、非常に激しいがゆえに極端な喜びや悲しみといった感情になりやすく、長く維持できない、中庸が苦手だという側面を持ちます。


【ギリシャ神話での牡羊座】

ギリシャ神話では、ボイオティアの王アタマスの息子プリクソスと双子の妹ヘレが、継母イノの陰謀によって処刑されようとしたまさにその時に二人を助けるためにゼウスが遣わし、二人を救い出して逃げた金色の羊だとされています。


【牡羊座のサインが意味すること】

牡羊座のサインは最初のサインです。そのため、始動で火のサインになります。


むしろ、始動で火のサインだからこそ、最初のサインになったのです。星占いで山羊座といえば、太陽が山羊座の方向にある時期に生まれた方。つまり3月21日~4月19日生まれ、春分の日から1ヶ月ほどの間に生まれた方。ということになります。


太陽が牡羊座の方向にある時期は春先です。24節気では春分と清明と呼ばれる時期になります。直前の魚座の最後の時期は啓蟄と呼ばれます。ちょうど、生きとし生けるものが眠りから覚め、再び活動を始める季節です。


新しい物事を始めるとき、既存の何かを捨てるか打ち砕くかの痛みを伴います。そのためには、確固たる意志と信念が必要になります。生命の誕生というのはその最たるものではないでしょうか。


爆発的な火のエネルギーと始動するサインの助けを受けて、惑星は新たな創造を私たちに促します。


一方で確固たる意志と信念を持つということは逆に、思い込みが激しく、周囲が見えづらいということでもあります。


何かを始め為にはそれだけのエネルギーが必要です。しかしそれは、衝動的で自己中心的なものになりがちです。エネルギーが大きすぎ、衝動的すぎるがゆえに、長く続かないのです。


支配星である火星に非常に強く力を与えることになります。自分自身で何かを始めること。開拓者精神を促し、それを強く肯定するのです。強い自己肯定が生じ、エネルギーに満ち溢ていますが時として、エゴイズムを生み出します。

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