初投稿です

茜よぞら

第1話「穏やかな夢」

「穏やかな夢」


静かだった。

それはとても優しかった。曖昧で、存在しないかのように霞んでいた。


夢の記憶が蘇る。

妙なほど生々しく鮮やかで、まるですぐ先程までそこに居たかのようだ。


時計ではまだ少ししか眠っていないのに、とても長い時間を夢で過ごしたような気がする。

心地よくて、少し眠くて、もう一度、と情景を反芻するうちに、再び夢へ誘われ……


また、あの場所に座っていた。


雨の降る庭の縁側で、紫陽花から滴り落ちる露を眺めながら、これに触れたら冷たいだろうか、などと取り留めのないことを考える。


優しい雨は音を立てずに、しん……と降り続けている。


激動の現実から目を背け、逃避した先がここなら、こんなに美しいのも納得できる……戻りたくないと。


この雨とともに、地面に吸い込まれて消えてしまおうか。


降りしきる雨をじっと見つめると、

どうか、これからこの場所には、なにも存在しなくなりますようにと祈った。


終焉を迎えるこの世界が、だんだんと霞み遠のいていくのを、ぼんやりと感じた。

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