誰より君に逢いたくて

第0話・エピローグ

慣れた手付きで、いつもの様に右手に持っている機械を下から上へスクロールしながら、時折、左手で端のハートマークを押していく。


今日の晩御飯、茜色の夕暮れ、ペットの姿、知らない観光地の滝の写真…


無感動に、目に写るモノに、とりあえず形だけの印を付けることが毎日のルーティーンに組み込まれ、もう罪悪感も無くなってしまってから、どれくらい経っただろうか。


そんな時に。


どこにでもある、とある海の、寄せては返す渚の動画を見つけて、何故だか分からないけれど、思わずタップしてしまった。


ザザーッと、波の音に紛れて、日食なつこの『三面鏡』が流れてくる。


【同じ日々の反芻と呼ぶけど、同じ日など1日もない】


特に絶景、という訳でもなく、空が青い訳でも-むしろ曇天と言って良い程で-、海自体が透明度をウリにしてるような動画でもなかった。


更に説明文どころか、場所すら設定して無かった。


「何で、こんな動画を撮ったんだろう…」


左下のアルファベットをタップする。


動画はこの1つだけで、右にスワイプしても、何処かの商店街や、木々の隙間から見える青い空、名もない公園のベンチの画像しかなかった。


左上のアルファベットの羅列を読んでみる。


「gekkou…」


基本的に向こうからのフォローがないと、フォローバックをしない人間なのだけど、思わず青いボタンを押している俺がいた。

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