倍倍バイト

　高校生である僕の生活圏内には、スーパーが4つある。どれも僕が生まれる前からあるので、軽く15年は近場で客を取り合っている訳だ。当然、差別化が図られる。

　家から徒歩10秒で入店できる24時間スーパー(以後庭と呼ぶ)は、いわゆる安かろう悪かろう系。深夜はサッカーコート程の店でワンオペ営業をキメる肝っ玉を持ち、たこ焼き6個を100円で売ることから中学生の溜まり場に認定されている。

　車で2分の駅近スーパー(友達がバイトの面接で落ちたため、以後三宅くんチと呼ぶ)は、お肉とお惣菜が評判のちょい高店舗。必ず流行りの曲が流れているので、三宅くんチがビルボードを操っているとの噂も存在する。(先日はm-floが流れていた。再ブレイクの兆し。)

　車で3分のスーパーはこれといった特徴がなく、休憩スペースに溜まるTikToker気取りの高校生からジュース代をむしりとることによって財を成している。(リスペクト込みで、以後青春と呼ぶ。)

　基本的には庭:三宅くんチ:青春を6:3.5:0.5で回しているのだが、ここにかつて割って入っていたスーパーがあった。いつからか足が遠のいていたこのスーパーこそ、僕のバイト、もといお手伝いの職場である。

　10年ほど前になるのだろうか。そのスーパーには、メダルゲームがあった。当時娯楽がEテレと砂場しかなかった僕にとって、じゃんけんの皮を被ったギャンブルは強烈なものだった。初陣の戦績は、投資5枚の回収3枚。差枚-2枚でフィニッシュ。ビギナーズラック0の結果に、逆に燃えた。それ以来そのスーパーへの憧れが強くなり、ことあるごとにメダルゲームを望んだ。が。我々は当時から巨大な庭を所有していた。たこ焼き6個を100円で提供するあの庭。十中八九庭にて買い物を終える親が憎く、代替案として購入されたポテトチップスは塩味が体感3割薄くなっていた。

　このメダルゲームへの欲求は、小学校という新たな刺激の登場と3DSの獲得によって2ヶ月と持たず消え失せ、初戦の-2枚がそのまま生涯収支となった。その後中1になるまで僕の人生にメダルゲームは登場しなくなり、そのスーパーに行くこともなくなった。三宅くんチにガチャガチャが導入された時も似たような流れを辿ったが、非日常を絵に描いたような存在だったメダルゲームは、自分の中で確実に憧れの的であった。

　そんな「メダルゲームのところ」に再び意識が向いたのは、ほんの2ヶ月前、10月のことだった。どうやら「メダルゲームのところ」からメダルゲームがなくなったらしい。はぁ？ならもう「のところ」じゃない。主語が消えてるじゃないの。と、心の中のマツコ・デラックスが叫ぶ。困ったものだ。いよいよ行く意味がなくなった。既に隣町の巨大ゲーセンに行く術を手にしていた僕にとっては行くわけがない「ゲーセン」だったが、初めてメダルゲームをプレイした思い入れのある場所。言葉にできない寂しさが胸に広がった。

　しかし、もう一つ情報があった。「のところ」に、ペットボトルスタンドが導入されたらしい。なによそのスタンド。心のマツコも興味津々。どうやら、ペットボトルを1本0.2円で買い取ってくれるとのこと。なんと恐ろしいスタンドなんだろう。「のところ」からのサプライズが舞い降りた。僕は中2からポイ活に目覚め、ポイ活キャラで一中学世を風靡した過去を持つ。興奮しないわけがない。　

　この日から、「メダルゲームのところ」は「ポイ活のところ」に改名され、週一で自転車でペットボトルを納品しに行く生活が始まった。庭にも、三宅くんチにも、青春にも、ペットボトルスタンドの設置はない。つまり、ペットボトルスタンドはポイ活のところの専売特許。何度も望んだあの場所に、ロードバイクで7分半。理由違えど週一で来られていることに感謝するが、一つゾッとすることがある。あの時、メダルは100円10枚貸しだった。1枚あたり10円。あの頃やりたかったMAXレート一発勝負には50枚が必要だった。50枚、というと500円分。ペットボトル1本0.2円。500を0.2で割ると…2500。1出勤あたり多くて20本売れるから、最小でも2500÷20で125回。週一と考えると、大体2年半かかる。…がんばろう。