私はただの聖女なのに、若き王子様に生涯をかけて愛されることになりました
月宮 翠
聖女の祝福と、若き王子の誓い
第一章:光に選ばれし者
ザイデル王国は、かつてないほどの豊穣と平和に包まれていた。その恩恵は、国中に広がる穏やかな光の源、すなわち「聖女」の存在によるものだった。
名をアリアという聖女は、白金の髪と透き通った青い瞳を持ち、その微笑みは冬の雪をも溶かすと謳われていた。彼女は神殿の奥深くで、民のために祈りを捧げ、その強大な治癒の力と結界術で王国を守護していた。
そのアリアを、誰よりも深く見つめ、そして守ろうと心に誓っている人物がいた。
ザイデル王国第一王子、レオンハルトである。
レオンハルトは、鍛え上げられた体に、太陽のような金色の髪と、すべてを見通すかのような鋭い翠の瞳を持っていた。彼は民から「武の王子」として慕われていたが、その心は一人の女性、聖女アリアへの熱烈な愛に満たされていた。
しかし、聖女は王国の宝であり、国の安定そのもの。神殿の厳しい戒律と、聖女を神聖視する民の眼差しが、二人の間に見えない壁を築いていた。
第二章:禁じられた夜の対話
ある夜、アリアはいつものように王国の結界を張り終え、静かに自室に戻った。と、窓の外から小石が軽く当たる音がした。
窓を開けると、月光を浴びたレオンハルトの姿があった。彼は王族の身分を隠すためのシンプルな黒装束に身を包んでいたが、その存在感は隠しようもない。
「レオンハルト様!駄目です、誰かに見られたら…」
アリアは焦って囁いた。彼女の緊張した表情に、レオンハルトは静かに微笑む。
「心配ない。城の警備は私が指揮している。…アリア、少しだけでいい。お前の声が聞きたかった」
彼は、壁を伝ってベランダに軽々と飛び乗ると、アリアの前にひざまずいた。
「聖女としてではなく、一人の女性としてのお前に会いたかった」
彼の熱を帯びた視線に、アリアは顔を赤らめる。レオンハルトは、アリアの手を取り、そっと手の甲に唇を寄せた。
「アリア。お前は、民の光だ。それは私も理解している。だが、同時に私の生きる理由でもある」
彼は真剣な眼差しで続けた。
「お前が祈りで心を砕くのを知っている。その重荷を、いつか半分、いや、すべて私に背負わせてほしい。私は王として、そしてお前の夫として、お前の笑顔だけを世界の中心に置くと誓う」
レオンハルトの言葉は、建前や義務感とはかけ離れた、純粋で激しい愛を伝えていた。アリアの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。聖女としてではなく、愛する人の隣で生きたい。その願望が、彼女の心を震わせた。
「レオンハルト様…私、は…」
第三章:王子の決意と祝福の光
その願いは、すぐに試されることになった。
数日後、隣国との国境近くで、強力な魔物の群れが出現した。通常の騎士団では対処できず、聖女の結界を破られれば、王国は危機に瀕する。
レオンハルトは、自ら騎士団を率いて最前線に出ることを決意した。出陣前夜、彼は神殿を訪れた。
「アリア。私は必ず、国と、そしてお前を守り抜く。戻ったら、私はこの愛を押し通す」
彼は、周りの視線も気にせず、アリアを抱きしめた。強く、離さないと誓うように。
「私が勝利するのは、王子の義務ではない。お前を、私の隣に迎えるためだ」
アリアは、彼の背中にそっと手を回し、涙をこらえた。
「どうか、ご無事で。レオンハルト様…私の、愛しい人」
アリアは、その夜、一睡もせずに祈り続けた。彼女の祈りの力は、レオンハルトの剣に「祝福の光」という形で力を与え、騎士たちを癒やし続けた。
そして、激戦の末、レオンハルトは魔物の群れを完全に討伐し、王国の危機を救った。
エピローグ:新たな誓い
帰還したレオンハルトは、血と泥にまみれながらも、まっすぐに神殿へと向かった。
アリアは、扉を開けて待っていた。彼女はレオンハルトを見ると、聖女としての威厳を忘れ、彼の胸に飛び込んだ。
「おかえりなさいませ…!」
レオンハルトは、アリアを抱きしめ返し、その神聖な白金の髪に顔を埋めた。
「ただいま、アリア。もう、二度とお前を一人にはしない」
後日、レオンハルトは王の前で宣言した。
「父上。私は、聖女アリアを王妃として迎えたい。彼女の力は国を守る。しかし、私の愛は、彼女を孤独から守る。民よ、聖女は神に仕える者であると同時に、愛を必要とする一人の女性である。私は彼女のすべてを愛し、生涯をかけて溺愛することを誓う!」
民衆は、最初は驚いたものの、王子の真摯な愛と、戦いの中で示された聖女の献身的な祈りの力を見て、彼らを祝福した。
アリアは、祭壇の前でレオンハルトの手を握り、聖女としてではなく、ただ一人の女性として微笑んだ。彼女の青い瞳は、永遠の愛を誓う若き王子への感謝と、未来への希望の光で満ちていた。
終
私はただの聖女なのに、若き王子様に生涯をかけて愛されることになりました 月宮 翠 @Moon_Sui3
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