ピュア・リリー 〜恥ずかしがりな、可愛い女子高生のお話〜

卯崎瑛珠@角川ビーンズ『見た目幼女』発売

純粋な、百合



 これは私が、高校生の時のお話。どうも、元剣道部です。

 アル中DV親父から逃れるため道場通いをしていた私は、割と強くなってしまったようです。

 中学三年生の時、某大会の個人戦で準優勝したこともあって、どうせならと高校でも続けておりました。


 高校二年になり、後輩たちが入ってきた時に

「えーじゅ先輩ですよね! 決勝戦、見てました!」

 とか言われまして、照れくさかったですね。

 でも花の乙女――自称――なので、クサイ部活はしたくない、と、入ってすぐ辞めてしまう子たちも多かった。かくいう私も、電車に乗らない距離の学校で良かったと思っていました。チャリ通最高。でも、なんで防具ってあんな臭いん?(某ホ○ルの墓風)


 そんな私が三年になった年。一年として入って、二ヶ月で辞めちゃった後輩・Bちゃんという子がいました。

 珍しく、すごくすごくピュアな感じ。目が合うと恥ずかしそうに逸らされるし、廊下とかで会って手を振ってみると、真っ赤になっちゃう。可愛いなー、私にはないやつだー、と思っていました。

 入部した時には「私、○●中学でした! 先輩の試合も、見てたんです!」と言われて。Bちゃんの学校は何年も上位に食い込む強豪校だったので、「そんなにほんわかしているのにすごいねー」なんて話をしていましたら、レギュラーではなかったらしいです。高校の稽古は、やっぱりキツかったみたいで、ついてこられずに辞めちゃいました。


 さて、剣道の試合、ご覧になったことありますか?

 ないですよね。

 普通、ないんです。


 なので興味があったからか分かりませんが、私のクラスの女子たち、なぜか結構見に来てくれました。わざわざ。電車とか乗って、大きな体育館まで。


「来てくれて嬉しいけどさ。この辺の剣道男子に、イケメンはいないぞ?(失敬)」

 と一応言ってみるも、

「でもあの格好だけで、カッコよく見える」

「もしかしたら」

「あわよくば」

 などと、煩悩が多すぎだよ君たちィ! 状態でした。

 

 あ、ちゃんと応援してくれてましたよ。

 剣道男子たちのバイブスも、上げてくれちゃってました。

 男子諸君、いつもより雄叫びすごくね? ウケんだけど、て感じでした。


 そんな感じで色々な試合に出ていたら。

 大きな体育館でのとある試合で、予選を無事に勝ち抜けまして。皆んなが上からキャーキャー言ってくれていたのが嬉しくて、応援席にお礼に行ったならば――なんと、Bちゃんもいたんです。

 辞めた部活を見に来るって、なかなか熱心だなあ、すごく剣道が好きなんだな、と思っておりました。


 Bちゃんの存在には気づきつつも、私の友人たちが

「えーじゅ! 試合の袴って、真っ白なんだね! 超かっけええええ」

 と騒ぐので、

「そうじゃろそうじゃろー」

 とエッヘンしてました(アホです)。


 というのも、練習用袴は紺なんですが、試合用ユニフォームは上下真っ白だったのです。胴はきらびやかな漆塗り、道着の左肩にも校名がドドーンとでっかく刺繍入り。小手も白いし、面の紐も素材がきらめいているタイプでして。お金、かかってます。

 しかも私は『竹』の竹刀しないだと一週間ので――打ちが強すぎてすぐに竹が縦に割れたり、ささくれができたりして危ないのです(竹刀は四本の竹を縛って構成されています)。自分で分解して他の竹と入れ替えていたので竹刀はパーツから組めるという不本意な特技有――カーボン竹刀使いで、つばも水牛素材の武士みたいなかっけえやつ買ってもらっていました。えっへん。


 なので、Bちゃんが

「あ、あ、あの! 先輩、しゃ、写真を!」

 て真っ赤な顔で言ってきた時も、

「あ、このユニフォーム、かっこいーよねー! どうぞどうぞ」

 と軽く受け取っていました。


 当時の私のヘアスタイルは、長いとめんどくさい、という理由でスーパーショートヘア。さっき試合で手ぬぐい巻いていたし、汗を雑に拭いてきたものだから、当然髪の毛適当状態。

「ごめんね、髪の毛はねてるー!」

 て笑いながら、撮ってもらいました。


 そうしたら、Bちゃんのお友達(知らない子)が

「先輩! Bとツーショも良いですか!」

 て言って来たので

「へ? 全然いーよー!」

 とBちゃんの腕を引いて、くっついて、ピース。

「臭いでしょー、ごめんね!」

 て話しかけたら、ずっと真っ赤になって俯いている。


「こっち! 見てよー!」とか、お友達が呼んでみても、ずっと俯いていて。


 結局試合時間が迫ってきたので、「ごめん、そろそろ降りなくちゃ!」とバイバイしました。


 試合は準々決勝で、めちゃくちゃ苦手な相手(鍔迫り合いで、つばをこねくり回してくるタイプ)に当たって負けてしまい。


 会場を引き上げる時には、Bちゃんたちは帰ってしまっていて、勝てなくて悪かったなあ、なんて思っておりました。

 


 ――そうして引退して、一緒に写真を撮ったのも忘れるくらい時が経って、大学受験シーズン到来。


 すごく久しぶりに、廊下でBちゃんに会いました。高校三年生と一年生って、本当に接点がなかったので、久しぶりで嬉しい私は、気軽に話しかけました。


「おー、元気? 学年違うと全然会わないね!」


 そうしたら、いきなりお守り(今でも覚えていますが、紙袋とかにも入っていなかった)を手渡されました。


「受験、頑張って、ください!」

「うえ? わざわざ? ありがとう!」


 すごいな、良い子だなあ、としか、私は考えていませんでした。

 けれども、Bちゃんが慌てて鞄からお守りを出したせいで、足元に彼女の生徒手帳が落ちた。なんでか、落ちた。


 そして、開いてた。


 開いてたところに、私の写真が、挟まっていて。


 あの日のユニフォーム姿で、跳ねてるベリーショートで、ピースしてる私。


「!?」

 さすがにそれを見て、固まってしまって。

「あああの、さようなら!」

 て、Bちゃんは、ものすごい勢いでしゃがんで拾って、行ってしまった。


 真っ赤な顔で。



 その後、私が受かった大学名を聞いて、「遠くへ行っちゃう……」と言っていたと、人づてに聞きました。


 ちまたで定着しだした『百合』という単語をで目にする度、あれは、きっとそうだったのだろうなあ、と思い出すのです。

 

 でもきっと、気づかなくて良かった。

 そんな、気がします。

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