ソフィアの沈黙

中野 敦

第1部 ソフィアの到達点

第1章 はじめに言葉ありき

第1話 カンブリアの夜明け

「意外と狭いんだな」

 

 そう呟きながら、眩しげに成瀬健二はスタジオを見渡した。

 照明が容赦なく肌を焼くように降り注ぐ。

 そんな成瀬を横目に、伊吹岳が軽く肘で小突く。


「……喉が乾いた」

 

 小声で、そう漏らす成瀬。

 慣れない正座をさせられた小学生のように落ち着きがない。


 煽りVが流れ始めた。


『社会課題の救世主!?』

 

『届け、声なき声達よ』

 

『壁は乗り越える為にある!!』


『実現までのラストワンマイル、その時何が!!』


 モニターの中でテロップが踊る。


 ――威勢がいいな、と成瀬は思う。


 ナレーターの低くてよく通る声が、まるで説法のようにスタジオを満たしていく。

 こんなにもカメラが必要なのかと、疑問に思いながら、伊吹は微かに息を吐いた。


「本日の『カンブリアの夜明け』は、株式会社ソフィアより、代表取締役社長の成瀬健二さん。」

 

「そして一元支援AI Sofia-Coreの開発責任者、伊吹岳さんにお越しいただきました。」


 VTRが終わり、アシスタントの女性が朗らかに二人へ笑顔を向ける。

 モニターの中、アップになった成瀬はぎこちなく、伊吹は冷静に会釈した。


「VTRにもありましたが、Sofia-Coreって、我々はどう受け止めるのが正解なんですかね?」

 少し眠たげな目をした六十代の男性MCが口を開く。


 成瀬が息を呑む。伊吹は軽くため息をついた。

 ライトが眩しい。


 ――正直、荷が重いんだがな。


「……それでは、私の方からご説明を……」


 カメラが伊吹に寄る。

 成瀬の肩から、力が抜けた。


 静かにスタジオの空気が動き始める。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る