祝福すべき1000万人目の死者

ツキシロ

祝福すべき1000万人目の死者

「私は……もうじき、神の迎えが来る」


偉大な僧侶が、病院のベッドで最期を迎えようとしていた。


「和尚、しっかりしてください!」


「死後の世界とは……どんな場所か、楽しみ、だ……」


僧侶は目を閉じ、静かに息を引き取った。


* * *


僧侶の魂が体から抜けだすとすぐに、声が聞こえた。


「おめでとうございます!あなたは今年1000万人目の死者です!」


「な、なんだ……?」


僧侶の霊魂の前には、スーツを着た職員が3名ほどいた。


「いま、あなた方はなんと……?」


「あなたは、祝福すべき1000万人目の死者なのです」


「祝福、ですか」


「冥府の神の定めにより、あなたには特典を差し上げることとなっているのです」


「特典……?」


「はい、この中からお選びください」


職員はカタログを渡した。


僧侶は目を通す。


『死後の世界で使える通貨、日本円にして約1億円分』


『世界の美食をいつでも食べられる権利』


『誰か好きな方を1名生き返らせる権利』


僧侶は苦笑した。


「申し訳ないのですが……私は、こういった俗な欲望は捨て去ってきました。どのような権利もいりません」


「いらない、とおっしゃいましたか?」


職員たちは目を見合わせた。僧侶は噓偽りない本心で、重ねて答えた。


「ええ、いりません」


「ですが、何も差し上げないわけにはいかないのです」


「そうなのですか?」


「はい。冥府の神は『還ってきた魂を祝福せよ』と定めておられますので」


「そうなのですね。私が何も受け取らないと、どうなるのですか?」


「その場合は、あなたを生き返らせることとなっております」


「……わかりました。あなた方もお困りのようですし」


「ありがとうございます。では、あなたを生き返らせますね」


職員が何かを紙に記入し、どこかへ連絡すると、僧侶の霊魂は光に包まれた。


* * *


僧侶は目を覚ました。


「ここは……?」


「和尚!もうだめかと思いましたよ!」


「あ、ああ……戻ってきたのか」


僧侶の死亡を確認していた医師が告げる。


「今、分かったことなのですが……」


「なんでしょうか」


「おめでとうございます!あなたは今年1000人目の蘇生者です!」


僧侶と弟子は、呆然としている。


「特典を差し上げることになっているのですが、何が欲しいですか?カタログはこちらです」

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祝福すべき1000万人目の死者 ツキシロ @tsuki902

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