鎮守様は徒然に

MOTZ

プロローグ


「おい、そのガキの口を塞げ!馬車まで走るぞ!」

 幼い子供達を小脇に抱え、4人の男達が夜の暗闇の中を走り出す。

「ハァハァ・・・」

「ちょっと待ってくれ・・・」

「おい、止まるな!馬車まで走れ!」

 幼子とはいえ、抱えて走るとなると運動不足の体には相当キツかったようだ。

 何度も後ろを振り返って追手が来ていない事を確認しながら、荒れ果てた畑の

畦道を必死に駆け抜けていく。

 やっとの事で林の中に隠していた馬車まで戻って来ると、男達は幌のついた荷車

に次々と飛び乗っていった。

 そして手綱を握ったまま微動だにしない御者席の男に声をかける。

「全員乗ったぞ!馬車を出せ!」

「リベロ、馬車を出せ!早くっ!」

「おい!聞いて・・・」

 肩を揺らされた御者の男がそのまま崩れ落ちた。

「お、おい!!」

「どうしたんだ!?」

「てっ、敵か!?」

 男達は慌てて荷車から飛び降り、ランプを高く掲げた。

 用心深く周囲を探りながら剣を鞘から引き抜く。

「畜生!!誰だ!!」

「出て来やがれっ!!」


 その時-

 音も無く馬車の幌の上から飛び降りた人影が、4人の男達のうちの一人の脳天に

猛烈な踵落としを決めて昏倒させると、着地した瞬間に放った後ろ蹴りが別の男の

下腹部を豪快に抉った。

「ぐぅっっ・・・」

「ガハッ!」

 2人を一瞬で倒すと、予想外の襲撃に慌てふためき派手に尻持ちをついていた

別の男の鼻柱に向け、強烈な膝蹴りを叩き込んだ。

 男は仰向けに倒れ込み、手放したランプの灯りに照らされて、砕かれた顔面が

露になった。

「こ、降参だっ!!降参するっ!!」

 最後に残った男は剣から手を放し、圧倒的な力を揮っている目の前の人影・・・

銀色の長髪の男を怯える目で見つめた。

「奴隷商が被災地で堂々と人攫いですか。開いた口が塞がりませんね・・・。」

 怯えた目で見つめてくる奴隷商の横を素通りし、男は荷車へと近づいていく。

 中を覗き込むと、泣いていた子供達の泣き声が一層声量を増した。

「みんな、もう大丈夫だよ。怖かったね。」

 その無防備にさえ思える銀髪の男の背中を見て、逃走するには今が絶好の機会

だと奴隷商は考えた。そして男に悟られぬよう、ジリジリと後退していく。

 全てお見通しだ、と言わんばかりに溜め息をつき、銀髪の男は流し目で奴隷商を

睨んだ。

「言っておきますが逃げられませんよ。村の自警団が来ていますから。・・・ほら。」

 男の言葉通り、前方からも後方からも大量の松明の灯りがこちらに向けて駆け

て来ているのが見える。

 奴隷商の男は力なくその場に座り込んだ。



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