第2話「死にたがりの放浪者 その1」

目が覚めたら、いきなり草原に居た。服装は生前のままで、持ち物は何もない。金もなければ装備もない。一応財布はあるがこの世界で日本円は恐らく使えないだろう。


「マジに無一文で転生させることないだろ……せめて金は両替してくれ……」


本当に無能力か?指を振るだけでとんでもない魔法が出るかもしれないな……


何度も指を振る。しかし何も起こらなかった。


「無能力を望んだとはいえ流石にこれは……」


このままここに居ても仕方がないので街の方に行くことにした。ここから百メートルほどだ。パッと見小さな町だが、人はそこそこ居そうだ。まるでRPGの始まりの町だな。


「しかしあの女神がケチ臭いっつーか、厳しいっつーか……あれはきっとモテない女神だな。」


文句をいいつつ町の方へ向かう俺。望んだことではないが、ここから俺の冒険が始まると考えると同時に嬉しくもある。


「まるでRPGの主人公になった気分だ。」


違う点があるとしたら、RPGの主人公は最低限の装備はしっかりしてるところだな。



町についた俺は、まずやるべきことを考えようと思う。職を見つけて金を稼ぐことが一番だが、いかんせん装備も能力も無ければ職歴がない。まずどうやって働けばいいんだ?一般的なRPGとかだとギルドとかか?商人つっても俺には経験がない。あのクソアマ……少しでもいいから金が欲しかった。


「金が無きゃ死ぬっつーの。」


ん?俺は死に場所を探してるんだよな?なら初めっからモンスターに突っ込んで殺されるのがいいよな。どうせこっちの世界は知り合いもいないんだ。死んだところで誰も悲しまないし迷惑かける人もいない。まぁ……前世だと最後まで両親には迷惑かけちまったしな……


「……俺、異世界でも無職なのかよ。」


こんな異世界転生モノ見たことねぇよ。


路肩でうろうろしながら仕事の看板を見ていると、ある一人の老婆に声をかけられた。


「おやまあそこの若いお兄ちゃん。お金に困っているのかい?大変だねぇ、ほらこれで今日は何か食べな。」


「いやっ……その、違くて……俺は……」


「いいから早く持ってきな!私の気が変わらない内に!」


拒否する間もなく押し付けられ(?)た。ありがたいのだが、俺のプライドがボロボロになった気がする。


「情けねぇよ……」


情けないと思いつつ腹が鳴る自分にさらに悲しくなるのであった――


―—数十分後


俺は老婆から貰った金で、とりあえず食べ物を買うことにした。金はとにかく貴重だからとりあえず一番安いパンを買った。見た目がすげー硬そうなパン。まるで石のようなコッペパンだ。


「……いただきます。」


パンを口に運ぶ。決して美味しいとは言えないが温かい。パンの温度とかではなく、人のやさしさで買うことができた温かさからだ。


「とにかく硬ぇんだけど……」


歯が折れそう……は誇張しすぎだがパンにしちゃ硬すぎる。食べたことはないが刑務所の飯を食べた気分だ。


味がしないパンを食い終わった俺は、次に宿を探すことにした。いくら安いパンとはいえ、少ない金額でやりくりしているので残りは雀の涙ほどしかない。


「最悪野宿か……?」


俺としちゃそれでもいいんだが……せっかくなら異世界の宿を見てみたい。俺は、一番近くの宿をとりあえず見ることにした。


現在の所持金は10S。S(ソル)っていうのが、この世界の金の単位らしい。俺の感覚だが、1Sあたり日本円で100円ってとこだろうか。物価とか物の相場が分からないが大体合っているだろう。


俺は宿に入った。外観はどこにでもあるホテルって感じだ。


「あの~、ここって一泊いくらかかりますか?」


俺は受付のスタッフに聞く。


「一泊12Sからとなっています。オプションで価格が変動します。」


た、足らねぇ!!


「あ、じゃあすみませんが……」


足早にこの場を去る。冗談じゃねえ。マジに野宿するしかないのかよ……


どうせモンスターに襲われて死ぬだろう。正直ちょっと色々見たかったが、ここで死ぬならそれもまたいいだろう。夜までまだ時間はあるだろうしその辺をぶらつくか。


一応まだ宿がないか聞きこんでみる。もしかしたらもっと安い宿が見つかるかもだからな。


俺はその辺にいた売店の店主に声をかける。


「あの~ちょっとすみません。このあたりに安い宿ありませんか?今お金なくて……」


店主はちょっと驚いていたが、すぐに親切に教えてくれた。


「この辺で安くて有名な宿なら、ここからずっとまっすぐ行ったとこにあるよ。歩いて五分くらいだ。迷ってもここらの人はみんな優しい。あんた最近ここきたんだろう?大丈夫さ。みんな親切に教えてくれるよ。」


「ありがとうございます。」


俺はお礼を言ってその場を去った。


そのまま歩いているのだが、初めて来た場所だからか道に迷ってしまった。自分が今どこを歩いているか分からない。


俺が迷っていると、少年が声をかけてくれた。


「お兄ちゃん、迷っているの?」


「あ、ああそうだ。少年、ここからまっすぐ行ったら宿があると聞いたがどこにあるか分かるかい?」


「こっちだよ、ついてきて」


親切な少年よ……感謝する。俺はそのまま少年についていった。


しばらく歩いていると、宿らしき建物が見えてきた。


「ここだよ。」


宿を指す少年。


「ありがとう。少年が居なかったら迷っていた。」


「うん!えっとね、母ちゃんが人にいいことすると自分にもいいことあるって言ってた!」


「偉いぞ少年。きっと君にもいいことあるよ。」


少年の頭を撫でる俺。その後少年はまたどこかへ走っていった。


俺は、人との関わりがなかっただけでコミュ力自体はあるからな。普通に話せる……というか、この町の住人は特別話しやすいような気がする。


少年と歩いているときも、町の住人は親切に声をかけてくれた。なぜだかは分からない。


「もしかして俺、この世界だと話しやすい人間ってことなのか?」


俺が小さく呟いたとき、脳内に女神のあの声が届く。


「あなたは能力を選びませんでした。なので私は、人との関わりを避けたあなたに戦う能力のかわりとしてほんの少し魅力を授けました。」


「は?チートじゃねえかそんなの。」


「安心してください。あなたが思うほど能力は強くありません。ただ人並み以上に好かれやすいだけです。」


つまり、チート能力の代わりにちょっとした『カリスマ力』をくれたのか?人との関わりを避けた俺に?


余計なことをしやがって……と思う一方、どこか『ホッと』している自分が居る気がした。


俺は宿屋に入り、一泊することにした。価格は10S、ギリギリ足りた。が、もう金が無いので明日からは金を稼がなくては。


宿屋の主人が笑って言う。


「アンタ、不思議と話しやすいねぇ。旅人なら、良い仲間ができるといいね」


俺は苦笑する。死に場所を探しているだけなのにな。


その言葉とは裏腹に、胸の奥が少しだけ温かかった。

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異世界放浪記 Neru° @daihuku723

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