人生2週目を選んだら、1週目の初恋が実った。
百合
第1話 あぁ・・・俺のギネス挑戦の人生が・・・
平田 和樹 122歳と11ヶ月と21日。
長い人生だったと、病院のベットの上の天井を見ながら、もう人生の巻引きをしよう・・・そう思って目を閉じた。
息子や娘、その配偶者や孫・ひ孫が、ベットを囲み、
泣きながら、手を握りながら、必死に名前を呼んでくれている。
心拍数がゆっくり落ちていき、死に向かっていた時、和樹は走馬灯を見た。
あぁ・・・やっと死ぬんだ。
物心ついてからの両親との記憶。
草食系男子を極めすぎて、結婚どころか恋愛も難しかったのに、猛烈アタックしてきた奥さん。
押しに押されて結婚したが、そんな奥さんにも先立たれた人生。
ずっと尻に敷かれて、「あれ?俺ただのATM?」と悩んだ時が多かったが、
子宝にも子孫にも恵まれたし、奥さんが早くに亡くなってしまったから、
我慢してた高級車乗り回せたし、大型バイクでツーリングしたし、
海釣りがしたくて船買ったし、いい人生だったなぁ・・・。
そう思いながら、スッと魂が肉体から浮く感覚に身を任せた瞬間だった。
「・・・、ワシ、ギネスに載っとらん・・・。」
「「お父さん!?(おじいちゃん!?)」」
走馬灯の中で、まだ体が元気だった頃の自分が目標にしていた、
”ギネスに載る”を思い出し、和樹は心拍も回復し、
突然目を見開き、掠れに掠れた声で呟いた。
「いや・・・私の医師人生で初めてです・・・。」
看護師に呼ばれた医師や検査技師などが、和樹の体を細かくチェックするも、
老衰状態は変わらないものの、ハッキリと意識を取り戻していた。
「私が分かる!?父さん!」
「・・・お前は・・・娘の、さ・・ちこ・・・。」
「俺は・・・!?」
「息子、の・・・太蔵・・・。」
信じられない光景に、和樹の話を聞いた看護師や医師も何人も病室に来て、
皆信じられないという顔をしていた。
「平田さん、今いくつか分かりますか?」
「ぇ・・・・・・122・・・?」
「!!・・・正解です・・・。」
「お父さん!あと10日で誕生日で、123歳よ!」
「親父、間違いなくギネス載るぞ!」
和樹はギネスと聞き、ふっと隙間から見える空を見て呟いた。
「じゃあ・・・あと10日は・・・生きる・・・か・・・。」
和樹の言葉に喜べない家族だったが、こっそり一番上の孫がスマホで、今の世界最高齢を調べ、世界ギネス協会に連絡を入れた。
最後の祖父の願いを叶えるために。
だがしかし、人生というものは、自分の思う様にはいかない。
誰かがそう言っていた気がする。
和樹はあの日から4日後、息を引き取った。
世界ギネス協会から何も連絡がなかった為、一番上の孫は落ち込んでいたが、
もうあと3時間だと余命宣告された時、日本ギネス協会から連絡があり、
本人は知らぬまま亡くなってしまったが、ギネス認定を受け、
和樹の名前がギネスに刻まれた。
葬儀が終わり、いよいよ現世とのお別れの時が来た。
亡くなった時の容姿で極楽浄土へ行けるのかと思ったが、
自分で容姿を選べるらしく、とりあえず奥さんにわかってもらえるように、
奥さんが亡くなった時の容姿を選んだ。
「ほう・・・これは凄い・・・。」
果ての果てまでお花畑が広がっていて、皆キラキラと目を輝かせて見惚れていた。
しかしそれも束の間、5mほどの2体の赤鬼が、大きな棘のついた金棒を手に現れ、
先程までなかった古びた朱色の大きな門を開け、中に入れと命令をする。
長い長い階段の先にあったのは、10棟それぞれ特徴的な形の建物。
それを手前から順番に訪問し、建物の中にいる各王から人生を見定められる。
1人1部門、計10項目裁かれると、天国行きか地獄行きかが決まる。
王は昔美術館で見た様な怖い姿で、本のように血も涙もないのだろうか・・・。
そう考えるだけでゾッとする。
和樹がふっと後ろを振り返ると、2〜3人門の外で鬼に阻まれている人がいた。
「どうして私はいけないの!?」
「俺も!なんで!」
「お前らはもう・・・・・・・地獄行きが決まってるからだ!!」
そう叫ぶ鬼の声と共に、扉は閉まった。
全員が平等に裁かれるわけではなく、明らかに犯罪していた人間は、裁きもなく地獄へ落とされてしまうのだ。
遠くから、さっき鬼に止められていた人の叫ぶ声が聞こえる。
その声は落ちていくように小さくなっていったことから、
門の近くに、地獄へつながる穴か何かがあるのだろう。
「さぁお入りなさい。」
人と変わりない身長の鬼が、一番前にいた人間を手招きし、裁きの時間が始まる。
建物自体はおまり大きくなかったものの、ゾロゾロと一緒に船に乗った残りのメンバーで中に入ると、100人は余裕で入れる大きさだった。
目の前には壇上があり、煌びやかな和服に身を包み、見下すような視線の細身の男が、壇上の上にある椅子に座っていた。
黒い扇子で口を隠し、1人1人を目で確認すると、ふと近くに立っていた初老の男性の両肩にいた2人の小人のような生き物が、壇上の男に何かを耳打ちしていた。
「ここでは、生前の善悪の行い・・・主に殺生の罪を裁きます。
こちらのお方は、秦広王(しんこうおう)様で、私は補佐官の倶生神(ぐしょうかみ)、今王に話をしているのは、私の使いの神でございます。」
殺生の罪・・・。
確かこの罪は動物だけではなく、虫を殺しても罪に問われるような・・・。
いやいやいやこれは全員アウトだろ!?
そこに居た全員がそう思ったのか、全員顔が青ざめていた。
終わった・・・最初から終わった・・・。
和樹は幼い頃に育てていたカブトムシを、自分の不注意で殺してしまった事や、
奥さんが唯一嫌いだったゴキブリを殺した事を思い出した。
「ほう・・・そこの女、貴方は独身の時、飼い猫の餓死させましたね。」
「え、あ、それは・・・!・・・し、仕事で出張が多くて・・・。」
「家族か誰かに預けれたであろう?実家からそこまで離れていないのに。」
「いや・・・あの・・・。」
「便利な世の中なのに、ぺっとかめら?とやらを使ったら、家に留守させてもできることはあっただろう?
・・・・・・連れて行け。」
秦広王が指示をすると、壇上の後ろにいた2mほどのお鬼が、
女性を別の部屋に引きずって連れていった。
開いた扉から見えたのは、動物に噛みつかれて叫ぶ人間の姿。
きっとあそこは不喜処地獄だ・・・。
全ての裁きが終わってから行くものだと思っていたが、
恐らく今送られた女性は王の前で嘘をついたようで、即地獄行きが決まった。
一緒に船には50人は乗っていたから、あと45人弱しかいない。
大丈夫だろうか・・・。
和樹は手と膝がガタガタと震え、血の気が引いていくのが分かった。
その瞬間秦広王と目が合う。
スッと目を細める王に、和樹の手と膝の震えはバイブレーションの様に激しくなる。
「そこの男・・・・・・ふむ、確かに虫を殺してはいるが・・・。
死んでしまった虫は死んでからもしっかり供養、道端で死んでいた動物も供養してるな。
・・・・・・うん、合格だから、次に連れて行ってくれ。」
和樹は現実を受け止めきれないでいたが、先程女性を地獄へ運んで行った鬼達が近づいてくると、ヒョイっと肩に担いで壇上の後ろにある扉の先へ運ばれた。
それから初江王(しょこうおう)・宋帝王(そうていおう)・五官王(ごかんおう)・閻魔王(えんまおう)・変成功王(へいじょうおう)の裁きが終わり、
やっと天国か地獄かを決める最後の王、泰山王(たいざんおう)まで辿り着くことができた。
残ったのは、和樹1人だけだった。
心細くて涙が出そうになるし、トイレを我慢している時と同じ感覚を腹部の感じてるが、なんだか壇上の横に立っている補佐官がニコニコしていた。
「はーい、お待たせお待たせー♪」
現れたのは、4〜5歳くらいの男の子で、七色の着物とお菓子を両手に持って現れた。
そしてその男の子の肩には、妖精のような生き物が止まっていた。
「さて!平田 和樹さん、僕からの質問は一つです!」
ニコニコしながら、泰山王は和樹に話かけ、妖精のような生き物はクスクス笑っていた。
「えっと、ここで天国か地獄か決まるのですが・・・。
今僕の裁きでは、人生お変わりコースも提案しています!」
「・・・・・・はい?」
人生お変わりコース?
何それ?
和樹は思わず聞き返すが、泰山王はケラケラと足をばたつかせながら笑い、
人生お変わりコースの説明をした。
どうやら、死ぬまで体験した人生を始めからやり直せるシステムらしい。
生まれ変わりなどではない、特殊なシステムで出来てるそうだ。
ただし、条件として神の使い”伊津ノ尊(いずのみこと)”が監視役として付き、
罪に問われるような事をすると、そこで遠慮なく地獄に落ちるか、残りの三王に裁かれるという。
性格も容姿も何もかも一緒だが、1回目の人生の記憶は失われない為、
回避したい場面になった時は回避できるらしく、
1回目の人生でやり直したかった事も、やり直していいらしい。
「せっかく奥さんに分かってもらえるような容姿で来てくれたけど、
また奥さんに会いたかったら、全く同じ人生送ればいいだけだからさ!
ね?試してみない?」
和樹は悩んだ。
生前に孫から、「じいじは、生まれ変わってもばあばと結婚したい?」と聞かれたことがある。
その時は奥さんが孫の後ろで睨んでいたから、首取れるくらいの勢いで頷いたが、
もし回避してもいい事なら、回避したい。
自分の事をATMと思って、給料やボーナスが少なければ、星座で説教させられ、
お小遣いは1カ月2万円しか渡さないのに、自分だけブランド品ばっか買う嫁はもう御免だ。
「うん!もちろん、1回目と2回目の奥さんが違うのもありだよー!
あと、ずっと係長止まりだった会社の地位も、もっと上を目指して大丈夫!
罪になりそうかな?って思ったら、神の使いに相談できるし!」
ええええええええ!?!?
今頭にパッと浮かんだ事全てバレてるーーーー!?!?
焦る和樹に泰山王は椅子ごと後ろにひっくり返りそうになるくらい大爆笑し、
神の使いは地面を転げ回りながら大爆笑していた。
しばらくの大爆笑の末、泰山王は再び和樹にどうするかを問う。
もう和樹の目に、迷いの色はなかった。
「・・・・・・人生お変わりコースでっっ。」
「はいはい承りましたーーーー!!」
「じゃあね泰山王!行ってきまーす!」
「え?・・・・・・ほわああああああああ!!!!!」
和樹の立っている地面が真っ二つに開いて穴ができ、真っ暗な中を神の使いと猛スピードで降り始めた。
穴の入り口から泰山王が手を振りながら、ニコニコ笑顔で最後に言葉をかけた。
「ギネスへの挑戦も頑張ってねー!!」
「っっ、なんで知ってるんだよおおおおおおお!!!」
穴の奥に行けば行くほど、身体が若返っていく。
そして、ちぎりパンのような腕と足になったかと思うと、眩しすぎる光に目潰しされた。
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