CAMPUS

司馬 雅

キャンパス

 貴方は、今、何色に見えていますか?

 いつの間にか、私は、モノトーンになりました。


 子供の頃、抱いていた夢には、鮮やかな色が、輝いていた。

 始め描いた夢の色は、まだ、単色で、明るい色だった。

 まだ、漠然としか日々を過ごしていないから、物事も世の中も、単純だった。


 テレビの中の出来事は、昔も今も、他人事。

 只、子供の頃は、まだ、ブラウン管の中にも、夢があった。


 その中で映し出された憧れは、小さな自分に、かなりの影響を与えてくれた。

 今のテレビに比べ、映像のクオリティも、劣っているその中は、今よりも、鮮やかに見えた気がする。


 年を重ねるごとに、色は変化し、風景も変わって行った。

 色は様々な色が入り交じり、色々な風景が、色鮮やかになって行った。


 夢が鮮明に、映し出され、それに向かって、ひた走っていた、学生時代は、周りの景色も、明るくやさしい、色だった気がする。


 時折、暗い色や灰色が混じってくるが、自分の中の色は、まだ、明るさが残っていた気がする。


 私はこの世界から消えたいと、思った事がない、幸せな環境に恵まれたのだろう。

 お金が裕福とか無難に過ごしたとかそんな事ではない人生だが、今まで過ごせているのだから、恵まれているのだろう。

 私は凡庸で、何も秀でる物も無く、子供時代にいじめにもあった。

 只、時間を浪費し、無駄に過ごす日々は、今でもある。

 それでも、過ごせているのだから、恵まれているのだろう。


 今、この瞬間にも、生きたくても、生きられず、悩み、落ち込み、奪われ、正常で居られず、灯火(ともしび)が消えそうな人がいるだろう。

 その人たちは、一体何色に見えているのだろうか。私には、まだ、解らない。

 解る時が来るまで、私は恵まれた人生を歩んでいるのだろう。


 青年になり、世の中が、何となく解かり始めた頃、色は夢以外、自分では気づかない程度、徐々に減り始めていた。


 只ひたすら、夢だけを追いかけていた時は、見えなかった風景と彩られた背景色が、生活に追われ、夢を見ている時間が減り、灰色が混じり、黒が重なりだし、徐々に濁って行った。


 大人になるにつれ、明るかった風景に、所々暗い色が、鮮明に描かれ始めた。

 二十も後半に差し掛かると、鮮やかだった夢が、色褪せていった。

 夢の為に働いていた事は、いつしか、生活の合間に夢を見るだけになっていた。

 時間が無い訳ではない、あの頃の情熱が無くなったのだ。

 それでも、必死にしがみついて、夢の端っこに、ぶら下がっていた気がする。

 これまで費やして来た時間と労力が無駄になる気がしたからだ。

 もうその頃から、私の見える景色は、全体がぼやけてきた気がする。


 あの鮮やかに輝いていた物は、全てが滲(にじ)んで、輪郭を帯びなくなっていた気がする。

 恋愛をし、結婚をし、家庭を持ち、子供が生まれ、朧気だった色は、朧気のまま、明るい色を帯びていた。

 だが生活の為に、しがみついた夢は、何処にも無くなった。

 其れから十年も経てば、明るい色は、また暗くなってきた。

 夫婦の間は、限りなく黒に近い青、家の中は電気の点いてない夕方色。


 二十年が経った今、全てが、モノトーンになっていた。

 テレビに映し出されるのは、輝かしい物は無く、子供も夢を語る事無く、成長していく。

 今の子供たちは、何色に見えているのだろう。


 やがて来る未来、私は一体何色になっているのだろう、願わくば、優しい色になっていたい。

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CAMPUS 司馬 雅 @shiba_miyabi

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