第8話 領主の屋敷にて

————選択してください。

▶︎初めから

▷続きから


これなんでいつも初めからを選択しているのだろうな?


“続きから”が選択されました。

デュノの屋敷に着いたキョウスケ達はまず応接室に通される。泣き喚いている腹の虫をなんとか抑えるためにキョウスケは差し出されたお茶を勢いよく飲み干した。

「そちらの少年は随分良い飲みっぷりだな。余程喉が渇いていたのかな?」

「ここに来るまでご飯もお水も飲んでいなかったんですよ〜。だからでしょうね〜」

見定めるように目を細めてキョウスケを見るデュノにニーナが答える。彼女の言葉に疑問を持ったのか、今度はニーナに目を向けた。

「ここに来るまで?君達は何処から何をしにきたんだ?」

「グラナトゥム王都から来たんです〜。堅っ苦しい王都での生活が嫌になっちゃいまして。ね?」

果たしてそうだっただろうか?疑問を抱きつつもニーナに同意する。

「目的という目的も持たずに出てきたので、申し訳ありませんが何をしにきたという質問には答えられません」

レムも心底申し訳無いといった声で言う。まだ少し混乱していたキョウスケだが、取り敢えず二人に話を合わせることにした。

「成る程。王都から。さぞ大変な旅だったのだろう。ところで君達は王立騎士団を知っているかな?」

「もちろん知ってますよ。やたらと偉そうな金食い騎士団の事でしょう?」

ニーナの言動があまりにも信じ難かったキョウスケは表情筋を極力動かさないよう細心の注意を払いつつ、彼女を一瞥する。ニーナは顔色一つ変えていない。


…………ニーナちゃんって本当は王立騎士団嫌いだったのか…?


「ならば話は早いか。と言いたい所だが、先ほどからずっと黙っているそちらの少年はかの騎士団について何か知っているのかな?」

デュノの視線はロイドに移る。口を引き結んでテーブルを見ていたロイドだったが、徐に顔を上げ、正面からデュノを見る。

「………俺は、その騎士団に入団していたんだ」


そらそーだろ。ていうかレムさんもニーナちゃんもだよな?


何を言い出すかと思えば。自分以外の皆は現在進行形で入団しているはずだが。

心の内で色々疑問を抱きつつもキョウスケはポーカーフェイスを貫く。

「なんと。何部隊に所属していたんだ?」

「第四部隊だ。一番下っ端の。五年近く所属していたんだが一向に上に上がれる気配がないからやめたんだ。今じゃあんな騎士団大嫌いだ」


えぇ〜?俺の知らない物語が展開していっている気がする〜…。


「そうだったのか。大変な目に遭ってきたのだろう。今日はゆっくりしていきなさい」

デュノは優しい声で言い、側近に何かを託けた。

「私はこの後仕事があるから、君達は食堂に向かうと良い。この者が案内してくれる」

それだけ言い、デュノは部屋から出ていった。案内を頼まれた側近はキョウスケ達に恭しく頭を下げる。

「私はソルディと申します。では皆様、私の後に続いてください」

「あのー、すみません。うちの探偵くん少し対人恐怖症なんですよ。だからご飯は我々だけで取るというのは出来ますかねー?」

彼女の言葉にキョウスケは。

▷ニーナをそっと伺う

▷話を合わせてバツが悪そうに笑う

▶︎「何の話?」


それ今絶対言ったらダメなやつ!


“話を合わせてバツが悪そうに笑う”が選択されました。

照れたように笑い、頰を掻くキョウスケ。そんな彼を暫く見つめていたソルディだったが、ゆっくり頷いて踵を返した。

「畏まりました。ではそのように致しましょう。さぁ、食堂はこちらです」

案内されたのは大きなテーブルが中央に置いてある部屋。そこには四人分の食事が用意されていた。

「ありがとうございます〜」

ニーナに続き、キョウスケ達も頭を下げる。ソルディは丁寧にお辞儀をし、ゆっくり扉を閉めた。

足音が遠ざかるまで誰も動こうとしない。ようやく聞こえなくなった頃、それまで張り付けたような笑顔を浮かべていたニーナが真顔になってレムに言う。

「部屋の隅、天井の角、テーブルの下あたりかな」

「それとなく確認したが問題は無さそうだ。今回は安心できるな」

「へえ。領主サマのお屋敷なのに珍しいね」

今のは何の確認かとキョウスケは問う。彼の疑問にはレムが答えた。

「監視カメラの確認です。ああいった輩の屋敷には大概仕組まれているものですから」

「この部屋には無くても他の場所は…って事もあるしね。さっきの応接室にも目立たないように設置してあったし。はぁーアンリ様が領主だった時はそんなケッタイなもの使ってなかったんだけどな〜」

ため息を吐くニーナを横目にロイドはテーブルに向かう。キョウスケもニーナの背中を優しく叩きつつ彼に続いた。

「カメラが仕組まれてないなら大丈夫だろ。早く食べようぜ」

「お前も人にばかり任せていないで自力で見つけられるようになれ」

「王立騎士団だと初歩の初歩に教わる技術なんだもんね。いい加減覚えてもらわないと本当に困るよ」

「………すまん」

首を傾げつつ席に着いたキョウスケだったが、料理から微かな違和感を感じた。ナイフとフォークを手にした三人を止め、料理に鼻を近づける。鼻腔の奥に刺さるようなこの匂いは。

▷嗅いだことがある

▷嗅いだことのない

▶︎加齢臭


料理から一番してほしくない臭いなんですけど個人的に。つぅか選択肢本当に飽きないな。


“嗅いだことがある”が選択されました。

間違いなく料理からしてはいけないものだ。故郷のアレアでごく稀に作られていた自白剤と同じ匂いがしている。

「何なんだよ。腹減ってんだからとっとと食わせろよ」

苛立つロイドに真剣な眼差しを向ける。キョウスケの視線にたじろいだロイドとは裏腹に、レムとニーナは真っ直ぐにキョウスケの目を見つめた。

「何か分かったのですか?」

「毒?危ない薬?あんまり人体に良くない何か?」

ニーナの鋭さに内心舌を巻きつつ、料理から自白剤の匂いがする旨を告げる。彼の説明に三人は改めて用意された食事を見つめた。

「成る程…。確かにそれなら監視カメラを仕込む必要はありませんからね…」

「勇者くんよくそんなのに気付いたね。アレアで生産してたりしたの?」

「何気に凄いよな、お前」

初めてロイドに褒められた気がする。そんなことを思いつつ懐から幾つかの薬草を取り出す。午前中にサーシャから買った花々だ。

本当は乾燥させた方が効力があるのだが、今はそんなことは言っていられない。取り出した花のいくつかをナイフで刻み、ハンカチで包む。そうして三人の料理に液を絞った。鼻につく香りはハーブの一種のようだ。

手慣れた様子のキョウスケを興味深く眺めながらレムは問う。

「今の液体で自白剤は中和されたのでしょうか」

彼女の疑問にキョウスケは頷く。ついでだから香り付けもしておいたと説明した。

「なんか、天啓の勇者っていうよりアレだよね。草花の勇者だよね。地味にめっちゃ頼りになるけどさ」

褒められているのだろうか。それとも貶されているのだろうか。きっと前者だと自分に言い聞かせ、キョウスケも液を絞る。そうして料理を口に運ぶ。

「苦味とか渋みとか心配だったけど意外としないものなんだね。というか美味しい」

「ふくよかなレモンの香りがしますが…。ハーブの一種なのでしょうか。確かに美味ですね」

自分にとって慣れ親しんだ味を褒められることがこんなに嬉しいことだとは。心に温かなものを感じていたキョウスケは思い出したように先ほど応接室で話していたことについてニーナに尋ねる。柔らかな赤身肉のステーキを堪能していた彼女は、飲み込んでから彼の疑問に答えた。

「あ〜あれ?嘘っぱちだよ。王立騎士団が税金をいっぱい取っているってところは本当だけど、ちゃんとその分国民に還元してるし。まぁでもロイくんの言っていたことは8割本当のことかも?」

ね、と同意を求めるようにニーナはロイドに視線を向ける。彼は顰めっ面で小さく頷いた。

「5年近く入団していたってのは本当。いつまでも下っ端って部分も本当。あとは嘘だ。何かと勘違いされがちだけど王立騎士団は好きだ」

“入団していた”という言い方が過去形なのは何故だろう。何か話したくない理由でもあるのだろうか。気になったキョウスケだったが詮索はせず、食事を続けた。

それきり暫く会話は途切れる。食事を終えてレムが口の周りを拭いている最中、何かを思い出したのか、キョウスケを見た。

「そういえば自白剤が効かなかった時の言い訳は考えてあるのでしょうか?」

心配そうなレムにキョウスケは笑顔で頷く。

先程は念には念を入れて中和したものの、そこまで恐れるほどの効力はないものだったと。元より自白剤というものは製造がかなり手間のかかる代物故にちゃんとした効果があるものはなかなか作れないのだと。

効かなければ仕方がない。そう相手も思っているはずだと彼は説明した。

しかし、キョウスケの説明にレムは渋い顔をした。レムの名を呼ぼうとしたキョウスケに、今度はニーナが声を掛ける。

「もしもだよ?その作るのが難しい薬を難なく作れる人がだよ?ここにいたりしたらどうするの?」

普段からさまざまな薬草を使って薬を作ってきたアレアの人間でも作れる者は限られている。だから心配は無い。そう言いかけたキョウスケだったが、ふと脳裏にある日の光景が過る。

確か半年ほど前、アレア一の薬草師がどこかの街に引き抜かれたのだ。それが何処かは当時は分からなかったが、まさか。

キョウスケの背中に冷たい汗が流れ落ちると同時に、ゆっくりと食堂の扉が開く。

「あぁ、お食事はお済みでしたか。ところでそちらの探偵殿に会いたいと言っている者が居るのですが」

扉の先にはソルディが立っていた。彼の背後には一人の少年が恐る恐るキョウスケたちを窺い見ていた。彼はキョウスケに気づくや否や、少し痩けた顔に満面の笑みを浮かべて走り寄ってくる。

「キョウスケ!僕のこと覚えてる?」

————選択してください。

▷………リクス?

▷どうしてここにお前が?

▶︎おー!久しぶり!


これ相手はこっちのこと覚えているけどこっちは向こうのこと覚えていないやつだろ。それでもってどちらさん?とか聞く勇気ないからとりあえず久しぶりって言っておくやつだろ。俺には分かるぞ。


“……リクス?”が選択されました。

彼こそ幼いながらも数々の薬を作り、アレアの皆から一目置かれていた薬草師だ。同い年で家も近所同士だったキョウスケとリクスは、子供の頃からの友人だった。

引き抜かれる日の前日、彼らはささやかな送別会をした。その時のリクスの様子がキョウスケの脳裏に鮮明に蘇る。

“今よりももっとたくさんの人を笑顔にできるんだって。だから僕、新しいところで頑張るよ!”

照れ臭そうに、けれど嬉しそうに笑っていた少年は今、余計な肉がなくなってしまった頬に精一杯の笑みを浮かべている。

こんな表情をしながら、たくさんの人を救えてなどいるものか。話を聞こうと一歩踏み出したキョウスケだったが、不意に足がもつれ、床に倒れ込んでしまう。

何故か、体に力が入らない。立ち上がることができなくなったキョウスケを、リクスは静かに見下ろした。

「君なら、料理に仕込んだ薬がどんなものか分かると思ったんだ。だから………二段構えにさせてもらったよ」

その言葉が届いたかどうか。不意にキョウスケは強い睡魔に襲われた。

意識が遠のく中、微かに謝罪の言葉が聞こえた気がしたのは果たして。

         ◇

不意に腹部に強烈な痛みを感じ、キョウスケは身を起こす。目を覚ましたキョウスケを、膝立ちしたニーナが笑顔で見下ろした。

「やーっとお目覚めだね、勇者くん。ニーナちゃん流メガトン頭突きもう一発いるかと思ったけど、良かった良かった!」


そんな恐ろしいモン二発も三発も要らないってニーナお嬢…。


瞳を瞬いていたキョウスケだったが、慌てて周囲を確認しようとし、体勢を崩してしまう。冷静になって自らを見れば、手足をきつく拘束されていた。腕はご丁寧にも後ろ手に縛られている。

「今はみんな芋虫だよ〜。加えてレムは例の症状が発症したから暫く起きないよ」

ニーナの言葉通り、彼女もレムもロイドもキョウスケと同じ状況だった。

この体勢でかなり高威力の頭突きを繰り出せるとは。感心したキョウスケだったが、直後に緊張感に欠けている自分に苦笑する。

「お前はあのガキと面識があったんだろ?こんな事態に陥るのを避けることはできなかったのかよ?お前のせいで今こうなってんだけど」

「余計な言葉がちょいちょいあるけど、ロイくんの意見も否定できないね。ね、勇者くん。さっきの男子は勇者くんの友達?」

さるぐつわを嵌められていないのは不幸中の幸いか。一呼吸置いたキョウスケはニーナの質問に答えた。

▷親友です。

▷良きライバルです。

▶︎俺の……大切な人です。


変な勘違いをさせるような答え方をするな!


“親友です。”が選択されました。

幼い頃からよく一緒に遊ぶ仲だった。村の皆から天才だ神童だと褒めそやされていたが、本人は少し内気で人の喜ぶ顔を見ることが大好きだった。アレアで一番の薬草師だったが、同時にアレアで一番優しい奴だった。

キョウスケの主観も含まれてはいたが、二人は彼の説明に納得した様子を見せる。

「意識飛ぶ前の感じを見てるとそんな人柄なんだろうなっていうのは伝わってきたよね。あんまり悪いこと出来ない感じ。………そういえば勇者くんは牧場主さんの言葉って覚えてる?」

ニーナの質問にキョウスケは首を傾げる。何か言われただろうか?

「ほら、酷い扱いを受けている人たちの話。どの職業だったっけ?」

その言葉にハッとする。確か、医師と建築士、そして薬師がターゲットになっていると聞いた。恐らく、薬草師もそうなのだろう。キョウスケは遣る瀬無い気持ちになりながら床を見つめる。これではまるで奴隷ではないか。それとも、言うことを聞かないとアレアを襲うとでも言われているのか。

「なーキョウスケ。なんであのガキは天才扱いされてるんだ?珍しい薬を作れるのはそんなに偉いことなのか?」

腑が沸きかかっていたキョウスケだったがロイドの言葉に我に返る。

深呼吸をして気を落ち着け、キョウスケはロイドに説明する。

確かに珍しい薬を作れるのは凄いことではあるのだが、リクスが天才だと言われていたのは別の理由が大きい。

彼は、二段構えができるのだ。

「「二段構え?」」

言葉が被った二人に頷く。例えばさっきの料理を例に出す。先に自白剤を仕込んでおき、それを中和させる薬草をかけることで別の効果を発揮する薬になった。そのまま食べれば自白することになる。中和すればそれはそれで有識者だと分かり、拘束できる。そうやって逃げ道を塞ぐのだ。

これが出来るのはアレアで彼しかいなかった。だから彼は神童とされていたのだ。


凄い奴なんだな、リクスって。


説明を終えたキョウスケは奥歯を噛み締める。そうして二人に頭を下げた。

自分がもっと気を付けていれば、避けられる事態だった。それが出来ず申し訳ない、と。

ロイドとニーナは顔を見合わせ、言葉を発しようとしたが。

「そんなに縮こまる必要はありませんよ。これは我々の無知が引き起こしたことでもありますし、キョウスケさんはチームの中で自分に出来ることを精一杯やってくれました。勇者、冒険者としては駆け出しですが、人として大事なことを貴方はごく自然にやってのけたのです。もう少し自信をお持ちください」

徐に起き上がったレムがキョウスケを見て微笑む。彼女の言葉に照れ臭くなったキョウスケは思わず顔を逸らした。

「いつも思うけどレムってどこから話聞いてるの?急に起きて話に加わってくるけどさ」

「秘密だ。さて、今はそんなことよりこの状況を何とかしないとな」

ニーナの質問を軽く流し、レムは身動ぎをした。数瞬後、彼女は自由の身になる。

彼女は懐からナイフを取り出し、次々と三人の拘束を解いた。

目の前で起こったことが理解出来ず、キョウスケは軽くなった両腕を呆然と眺める。その横ではニーナが思い切り伸びをした。

「流石。レムにかかれば罠抜けなんてお手のものだね〜」

「本当助かった。サンキュ」

「この程度の拘束ならニーナでも解けただろう。罠抜けというほどのことでもない。それに、まだ危機を脱したわけでもないだろう。敵陣から抜けるまで油断は禁物だ」

ニーナからの賛辞とロイドからの感謝を撥ね、レムはナイフを仕舞う。ニーナはやれやれと苦笑しつつ肩をすくめ、ロイドはバツが悪そうに後頭部を掻いた。

我に返ったキョウスケもレムに礼を言う。そうして作戦会議を始めようとした瞬間、4人の捕らえられている牢に近付いてくる足音が。

一気に緊張が走った4人。身を固くしながら牢の外を睨んでいたが、ひょっこりと姿を現したのは牧場主の男だった。確か、デュノにはトレッタと呼ばれていたか。

「お兄さん達!捕まったって聞いたんだけど本当だったんだね。待ってて、今出してあげるから」

言うなり彼は手早く錠を開ける。扉を開けて手招きをするトレッタに対し、レムは探るような視線を向けた。

「貴方は随分とデュノ氏に可愛がられていたようですが。そんな人を信用できるとでも?」

「悲しいけど仕方のないことだし僕のことを信用してくれなんて言わないよ。でも、ここから出るには今が好機だからね」

どういうことだろう。牢から出たキョウスケはトレッタに尋ねる。彼は軽くウインクをした。

「それは外に出てからのお楽しみ!さ、僕についてきて」

彼の言葉に従い、先ずキョウスケが、次いでロイドとニーナ、最後にレムが牢を後にする。依然レムの目はトレッタを疑ったままだ。

「なんかここって空気が淀んでいるというか黴ているっていうか…。ずっといると息詰まりそうですよね〜。前はこんな地下牢ありましたっけかねー?」

鼻をつまみながらニーナはトレッタに尋ねた。彼は腕を組んだ。

「あったけど使っていなかったんじゃないかな〜。流石のデュノさんでもこんな古臭くてカビ臭い地下牢わざわざ作らないでしょ」

答えてからトレッタも鼻をつまむ。

確かに彼の言う通り、最近出来たものでもなさそうだ。呼吸する度にジメジメとして気分の悪くなりそうな空気が肺の中に入り込んでくる。キョウスケは顔を顰めながら鼻と口を覆うように手を当てた。

「さっきからどこに向かって歩いているんだ?」

「一応は屋敷の外に向かっているつもりだよ。あ、皆とりあえずコレ被っておいて」

トレッタに渡されたのは使い古されてボロボロになった布切れ。スラムにいる人達が使っているような代物だった。

「あのー、コレは?」

「外に出た時に監視の人に見つかると面倒だからね。カモフラージュってやつさ!」

トレッタは振り返り、軽くウインクした。

彼の話し方はともかく、やっている事はまるで人売りだ。モヤモヤした気持ちを抱えながらキョウスケは渡された布を顔に巻く。しかし見た目に反して布からは清潔な香りがした。

「きちんと洗濯してあるってところがちょっと面白いですね〜」

同じく布を顔につけたニーナが意外そうな声で言う。それにトレッタは鼻を鳴らした。

「まぁね!ボロ雑巾っぽいのは見た目だけで十分でしょってね!あ、もうすぐ外だよ」

彼の言うことが本当なら、今目の前にある長い階段を上り切った先が出口なのだろう。

漸く新鮮な空気が吸える。心なしか肺が喜びの悲鳴を上げた気がした。

長いと思っていた階段だったがそんなことはなく、10段ほど登った先に扉があった。

「100段ほど上らないといけないと思っていましたが…。全くの杞憂でしたね…」

これにはレムも驚いたようだ。溢れた言葉が静かな廊下に響いた。

それを聞き逃さなかったトレッタは彼女に笑いかけた。

「そういう風に見せる魔法が掛かっているんじゃないかな?さ、待ちに待った外だよ〜」

彼に続き、外に出た四人。今まで暗い地下にいたせいで日差しが目にしみたキョウスケは。

▷額に手をかざして目が慣れるのを待つ

▷暫く目を閉じる。

▶︎「目が!目がぁーー!!」


ジ◯リを敵に回すようなことを言わせようとするな!!


“額に手をかざして目が慣れるのを待つ”が選択されました。

額に手をかざし、強く瞳を瞬く。暫くすれば周囲を確認できる程度には目が慣れてきた。

「なんだか賑やかっていうか慌しいですね?」

ニーナの声に振り向けば、彼女は両手で目を押さえていた。まだ視力が回復していないのだろう。

しかし彼女の言葉は正しい。何故だか街全体が沸いているような雰囲気だ。

「……………この空気は…」

何かを感じ取ったらしいレムは小さく呟く。

「つくづく思うけど、そっちのお姉さんは勘が良いよねぇ。君の勘は合ってるよ。

なんと!アンリさんが帰郷したのです!」

レムはトレッタを一瞥したが、すぐに視線を外し、顔に巻いた布を引き上げた。

その時、二人の男がトレッタに近付いてきた。

「お前達。そこで何をしている?」

「お疲れ様です。三番牧場に派遣になった人達を連れて参りました。右からアリス、ナナ、ヒューゴ、セディです」

「ん?あぁ、よく見たらトレッタか。ご苦労。三番牧場は今、非常に人手不足だからな。直ぐに向かってくれ」

「はい」

男達は足早に去っていく。その後ろ姿に敬礼していたトレッタだったが。

「あの」

「んーべろべろべろべーーー!!!なっにが“三番牧場は人手不足だからな”だ。何も考えずに自分の牧場を拡大しすぎたからでしょうが全くもう。巫山戯たことを抜かすなっちゅうの!」

先ほどまでの態度とは一変、トレッタはプンスカという擬音語がよく似合う様子で憤慨した。

彼の変貌ぶりに唖然としていた一行だったが、最初に我に返ったニーナが改めてトレッタに声を掛ける。

「………あの?」

「あっ…えーと、ごめんね?大人げないところ見せちゃったね」

そう言って彼は苦く笑う。瞳を瞬くキョウスケ達だったが、意外そうな声でロイドが言う。

「まるで人が違うみたいな反応だったな。あれがアンタの本性か?」

これに、トレッタは顔を逸らして暗く笑った。

「なに、生きていれば時には化けの皮も被んなきゃいけない的なアレだよ。人間誰しも素のままではいられない時もあるからね」


………トレッタさんの言葉、妙にリアリティあるな…。


「さ、そんな事はともかく、早く三番牧場に向かおう。主人が代わってしみったれた屋敷から抜け出すには何かと都合よく作られてるからね」

必要以上の事を彼は語らない。キョウスケはそんなトレッタを不思議そうに見ていたが、ふと隣に視線を遣る。すぐ傍に居たレムの目から、警戒の色が消えていた。腹の底から信じるとまではいかなくとも、とりあえず信用に足る人物だと評価を改めたようだ。

彼の後に続き、目的の牧場までやってきた。そこには屈強な男が一人、牧場を監視するように立っていた。

彼はキョウスケ達に気付く。反射で身を硬くしたキョウスケであったが。

「おうイ」

「しっ!!!」

「………すまんすまん、トレッタ。その子らが今回逃したいって子供達か?」

何か言いかけたがトレッタに素早く静止され、男は後頭部を掻いた。どうやらトレッタの知り合いらしい。

「そゆこと。言い訳は適当に考えといて」

「ったく相変わらず人使いが荒い野郎だぜ…。毎回怒られんの誰だと思ってんだよ」

「そーゆー役回りでしょ。我慢して。それに何言われても全く気にしないのがジョンじゃない。ザ・鋼メンタル!」

「あのな。たとえ鋼だとしても傷付かないわけじゃねえんだぞ。表面ちょっと引っ掻かれる程度には傷付くってコラ聞いてんのか!?」

男の言葉に生返事をしながらトレッタはキョウスケ達に向き直る。

「ここからはこの男の人が外に連れ出してくれるから!次の巡回の連中が来るのは30分後だから少し急いだ方がいいかも」

そう言われつつ彼に背中を押されるキョウスケであったが、思う所があり彼を見る。

「ん?どしたのお兄さん?」

首を傾げるトレッタにキョウスケは。

▷気になっている事がある。

▷会いたい人がいる。

▶︎領主をブン殴りたい。


ダメだって!!いくらなんでも!!

……でも、今回はどっちが良いんだろうな?

うーん、こっちにしてみるか。


“気になっている事がある。”が選択されました。

少し確かめたい事がある旨を告げる。瞳を瞬いたトレッタはその後、腕を組んだ。

「ん〜。あんまり賛成はできないけど、お兄さんは意思を曲げるつもりは無さそうだし…。かと言って大勢で動くと機動性に欠けるし…」

暫く悩んでいたトレッタは一つ、軽く手を打った。

「そうだ。お兄さん、この中から誰か1人選んでよ。1人で屋敷に戻るのはリスクが高すぎるからね」

彼に頷き、キョウスケが選んだのは。

▷レム

▷ニーナ

▷ロイド

▷トレッタ

▶︎ジョン


選択の数多いな。三つまでとかの縛りって無かったのな。

…つーかここでトレッタさん選べるって大丈夫なのか?かなり難易度緩くなるのでは…。あ、逆に難しくなるのか?うーん分からん。とりあえず。


“トレッタ”が選択されました。

名前を呼ばれた彼は瞳を瞬く。その後周囲を見回し、改めて自分を指差した。

「………僕?碌に戦えないけど良いの?」

彼の質問にキョウスケは。

▷彼に決める。

▶︎選び直す。


戦闘要素無い…よな?そもそも屋敷でどんちゃん騒ぎしない方がいいよな?


“彼に決める。”が選択されました。

今は腕が立つよりも屋敷の造りに明るい人に案内してほしい。それを考えたらトレッタが適任だとキョウスケは説明した。少年の言葉を聞いたトレッタはまじまじと彼を見つめ、軽く笑った。

「お兄さん、結構見かけによらないんだね。よく周りから勘違いされない?自分運動全く出来ないんです〜みたいな雰囲気醸しておいて実はめっちゃ足速いとか」


………………。


「さて。じゃあ行こうか!因みに屋敷の中では顔の布を外さないのと、キョウスケって名前じゃなくてセディっていう仮名を使ってね」

彼に頷き、改めてキョウスケは顔の布を縛り直した。


————今はここまでにしますか?

▶︎はい

▷いいえ


ん?今?今日はここまでじゃなくてか?

えー。これ“いいえ”にしたらどうなるんだろ。でも今日は推しのYoutuberの生配信あるし…。いいえにしとこ。


“いいえ”が選択されました。


————今日はここまでにしますか?

▶︎はい

▷いいえ


聞き直してくるんかーい。

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