第6話:「どうせ詐欺師だろう」と侮る賢者が、俺のステータスを見た瞬間に眼球を飛び出させて土下座した件

王宮、謁見の間。 俺は豪華な玉座の前に立たされていた。


右腕には、相変わらず目がハートマークになったセレスティア姫がへばりついている。 「んふふ……レン様……♡ 今夜の寝室は、シルクのシーツにしましょうね……♡」 と、うわ言のように呟いている。正直、重い。物理的にも愛の重さ的にも。


そして目の前には、国王陛下と、その隣に立つ一人の老婆。 この国の最高戦力にして、あらゆる真実を見抜く『大賢者』ババア……もとい、マーリンだ。


「フン! 認めんぞ、ワシは認めん!」


マーリン婆さんは、杖で床をドン!と叩き、俺を睨みつけた。


「どこの馬の骨とも知れぬ小僧が、妖しげな術で姫様をたぶらかしおって! どうせその鎧も、幻術か何かで凄そうに見せているだけのハリボテじゃろう!」


「いや、俺もそう思います。だから帰らせてください」


俺が真顔で同意すると、マーリンは顔を真っ赤にして激昂した。


「口答えするな無礼者! 貴様の化けの皮、ワシの『真実の魔水晶』で剥がしてやるわ!」


そう言って、マーリンは巨大な水晶玉を取り出した。 国宝級の鑑定アイテムらしい。対象者の魂の深淵まで覗き込み、隠されたステータスを全て白日の下に晒すという代物だ。


「いいか小僧! もしステータスに『詐欺』や『魅了』のスキルがあれば、即刻処刑じゃからな!」


「どうぞどうぞ。俺、攻撃力1のただの一般人なんで」


俺は投げやりに手を差し出した。 マーリンが意地悪な笑みを浮かべながら、水晶玉を俺にかざす。


「ふはは! 震えておるか? さあ、己の無力さを思い知るがいい!」


ブゥン……。


水晶玉が鈍く光り始める。 俺のステータス情報が読み取られ、空中にホログラムとして投影され――。


ピシッ。


不穏な音がした。


「……ん?」


マーリンの動きが止まる。 水晶玉の表面に、亀裂が入っていた。


ピシピシピシピシッ!! バチバチバチバチバチッ!!


「な、なんじゃ!? 魔力の流入量が……計測不能!? ま、待て、止まれ! 水晶が耐えきれん!!」


「あ、これアカンやつ――」


俺が耳を塞ぐのと同時だった。


カッ!!!! パァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!


国宝級の水晶玉が、物理演算を超越した光を放って爆散した。 キラキラと美しい粉塵が謁見の間に舞い散る中、それでもシステムは執念で俺のステータスを空中に焼き付けた。


そこには、真っ赤な文字でこう刻まれていた。


【 名前 】 レン


【 職業 】 創造神のバグ報告対象(※修正不可能)


【 レベル 】 Error(測定不能)


【 ステータス 】 攻撃力:∞ 防御力:∞ 魔力 :∞ 魅力 :∞(全生物特攻)


【 所持スキル(一部抜粋) 】 ・ガチャ運:EX(因果律操作) ・歩く天変地異(パッシブ:移動時に地形変動判定あり) ・神殺し(全能特攻) ・姫様の旦那(※固定称号)


【 総合評価 】 危険度:SSS+(※刺激しないでください。世界が割れます)

「…………」


謁見の間から、完全に音が消えた。 国王陛下は王冠を落とし、騎士団長は剣を取り落とした。 姫様だけが「素敵……♡」と恍惚の表情を浮かべている。


そして、大賢者マーリンは。


「あ……あ、あ……」


眼球が飛び出そうなほど見開き、パクパクと口を開閉させた後。


ドゲェェェェェザッ!!!!


床に額がめり込むほどの勢いで、五体投地した。


「も、申し訳ございませんでしたァァァァァッ!!」


「えっ」


「ワシが愚かでございました! まさか現人神(あらひとがみ)であらせられるとは露知らず! なにとぞ! なにとぞこの老いぼれの命に免じて、国だけはお救いくださいィィィッ!!」


「いや、国を滅ぼすつもりなんてないですけど」


「お言葉ですがレン様!!」


マーリンは涙と鼻水を垂れ流しながら顔を上げた。


「そのステータス! もはや存在自体が『歩く核弾頭』ですじゃ! 貴方様が『あー、あそこの国ムカつくなー』と一言呟けば、言霊だけで地図から消滅しますぞ!?」


「そんな不便な体になった覚えはない」


俺が困惑していると、今まで沈黙していた国王陛下が、おずおずと玉座から降りてきた。 そして、俺の手(空いている方の手)をガシッと握りしめる。


「レン殿!!」


「はい?」


「娘を!! セレスティアをららららららららららッ!!」


国王は噛みまくりながら叫んだ。


「娘を嫁に貰ってくれ!! いや、貰ってください!! そしてこの国の王になってくれ!! 頼む!! 君を敵に回したら明日には国が更地になる!!」


「ええええ……」


「やったー♡ パパ公認だー♡」


姫様が俺の腕の中で小躍りする。


こうして俺は、 ゴブリンを倒しただけでSSR装備を手に入れ、 ギルドで換金しようとしたら神扱いされ、 王宮に来たら、いつの間にか『次期国王』として外堀を埋められてしまったのだった。


「……帰りたい」


俺の切実な願いは、王宮の豪華な天井に虚しく吸い込まれていった。

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