第12話:王女様が引っ越してきました。荷物が多すぎて家に入りません。

 嵐のような謁見から一夜明けた、早朝。

 俺はまたしても、地響きのような音で叩き起こされた。


「地震か……? いや、この音は……」


 窓を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 俺の屋敷の広大な庭を埋め尽くす、50台もの豪華な馬車。

 そして、その中心で仁王立ちしている金髪縦ロールの少女。


「おはようございます、ダーリン♡」


 リリアーナ王女だった。


「……何してんの、アンタ」


 俺の隣の部屋から、寝巻き姿のアイリスが不機嫌そうに顔を出す。


「あら、見れば分かりますでしょ? 『お引越し』ですわ」


 リリアーナは扇子をバサリと広げ、高らかに宣言した。


「父上(国王)より許可は頂きました。『英雄ディーンの元で、庶民の暮らしを学ぶ社会勉強をしてこい』と。……まあ、泣いて嫌がる父上を3時間ほど問い詰め……説得しましたけど」


「脅迫じゃねーか」


 俺は頭を抱えた。

 あの国王、娘の圧に耐えきれず俺に丸投げしやがったな。


「というわけで、今日からここが私の愛の巣です! さあ爺や、荷物を運びなさい!」


「はっ! 総員、搬入開始ーッ!」


 執事の号令と共に、数百人の従者たちが雪崩れ込んでくる。

 高級家具、ドレスの山、巨大な天蓋付きベッド、謎の剥製……。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 アイリスが剣を片手に庭へ飛び降りる。


「この屋敷に、そんな大量の荷物を入れるスペースなんてないわよ! そもそも、王族が泊まれるような豪華な部屋は空いてないの!」


「あら、そうですの?」


 リリアーナはキョロキョロと屋敷を見回し、ふんと鼻を鳴らした。


「確かに……元公爵の屋敷といっても、王城に比べればウサギ小屋ですわね」


「ウサギ小屋とはなんだ!」


「部屋がないなら仕方がありませんわね。――お父様に言って、この屋敷を取り壊して『新・リリアーナ城』を建てるしかありませんわ」


「やめろ! 俺のマイホームだぞ!」


 俺は慌てて二人の間に割って入った。

 このままだと、リリアーナのワガママで屋敷が更地にされてしまう。

 かといって、アイリスの言う通り空き部屋はない。


「……分かった。部屋なら俺が用意する」


「あら? どうやって? リフォーム業者は呼んでませんわよ?」


「業者は要らない。俺一人で十分だ」


 俺は庭の空きスペース――テニスコート二面分くらいの芝生の上に立った。

 イメージするのは、王女様が満足するような「豪華な離れ」。


「建築開始(ビルド)。土魔法クリエイト・ブロック×無限」


 ズガガガガガガガガガガッ!!


 地面から石材のブロックが、まるで噴水のように湧き出す。

 通常、一日一個しか作れない最高級の大理石ブロックが、毎秒数百個のペースで生成されていく。


「なっ……!?」


「次は加工だ。《ウッド・シェイプ(木材加工)》×高速連打」


 近くの森から切り出した木材が、目にも止まらぬ速さで柱になり、床板になり、精緻な彫刻が施された家具へと変わっていく。

 俺の『時短』は、生産系スキルの工程もゼロにする。

 組み立て、乾燥、塗装。

 全てが一瞬だ。


「合体!!」


 ドォォォォォン!!


 濛々たる土煙が晴れると、そこには――。

 本館よりも立派な、白亜の尖塔がそびえ立っていた。

 所要時間、わずか3分。

 カップ麺が出来上がる前に、城が建った。


「……はい、完成。リリアーナ専用の『離れ』だ」


 俺が汗ひとつかかずに言うと、庭にいた全員――アイリス、リリアーナ、そして従者たちが、口をあんぐりと開けて固まっていた。


「……ディーン様」


 リリアーナが震える声で呟く。


「あなた、冒険者なんかやってる場合じゃありませんわ。今すぐ建築ギルドに入りなさい。国のインフラ問題が一日で解決しますわよ」


「絶対にお断りだ」


「ちっ……。まあいいですわ。この早技とスケールの大きさ……やはり私の見込んだ男です♡」


 リリアーナは満更でもなさそうに、完成したばかりの塔へ向かった。


「爺や! 荷物はあっちへ運びなさい! 今日からあそこが私の部屋よ!」


「は、はいぃぃぃ!」


 こうして、俺の屋敷に「王女」という名の爆弾が住み着くことになった。

 S級冒険者、ドワーフの鍛冶師、そして王女。

 

 ……俺のパーティ、もしかして国より権力あるんじゃないか?

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