第2話 眷属:爺や

ラニは立ち上がると、長い眠りの中で“私”と交わした約束を思い出し、爺やへ歩み寄る。


「そうだ、掃除の前に名を授けよう。妾の中のもう一つの意識――“私”が“セバスチャン”が良いと言っておる」


セバスチャンは、魔王と融合した魂……かつて暗闇の中を漂っていた“私”の願いから偶然生まれた眷属。

魔王の魔力を大量に消費した代償に生まれた奇跡の存在だ。


そんな彼には特別なスキルが宿っていた。


――『森羅万象』。


世界の記憶に触れ、知識を吸収できる権能だ。

眠りの中でさえ、ラニは彼を通じて知を蓄え続けていた。


セバスチャンは片膝をつき、深々と頭を下げる。

漆黒の執事服、白銀の髪、くるりと巻いた角、そして横に長い瞳孔――それは人ではない証。夢魔の姿。


「ありがたき幸せにございます。では、“私様”は魔王様の中で無事に定着なさったのですね」


「そうなるように…半聖半魔の姿を象ったのだ。名もそうじゃ。天の意味を持ちながら月のように魔を宿す存在、妾にピッタリであろう?」


ラニは手のひらを開閉し、肉体の感覚を確かめる。

中のもう一人の意識――“私”が「ゴスロリ!」と興奮して叫んでいたが、うるさいので無視した。

この衣装は間違いなく“私”の趣味だろう。


城は広く、静寂に包まれていた。

かつて無数の眷属たちが存在した場所に、今は残響だけが漂う。


「……前魔王の最期は、記録通りか…」


瘴気を放って自爆した前魔王の跡地。

魔王であるラニとセバスチャンだけが、瘴気の充満するこの地に立てる。


「やれやれ、目覚めて最初の仕事が“除染”とは……辛気臭い話よ」


廃墟と化した広大な魔王城。

その中心に据えられた玉座からラニはゆっくりと立ち上がり、玉座の背に手を触れ、軽く撫でる。


次の瞬間、淡い光が玉座から溢れ、その光は弧を描きながら部屋を満たしてく。

漂っていた陰鬱な気配は消え去り、清らかな月明かりに照らされた幻想の光景が現れた。

月光を背負い立つ聖魔の魔王。その姿はまるで黎明を告げる歴史の一ページのように荘厳で、そして宗教画のように美しかった。


セバスチャンはしばし見惚れ、胸の奥を打たれる。

月明かりに浮かび上がるその姿から、美だけでなく理をも超える知の気配を感じたからだ。

深く頭を垂れるその仕草には、ただの忠誠ではなく信仰にも似た決意が滲んでいた。


――かつて魔王が滅びた地に、新たな魔王が立つ。

聖と魔を併せ持ち、知識と意志で未来を切り拓く者として。



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読んでくださってありがとうございます!

次は「第3話 眷属創造チャレンジ!」です。


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『女神のつくった世界の片隅で従魔とゆるゆる生きていきます』

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