最強魔王の“のんびり”建国スローライフ~争わず自給自足で、平和な国を創るのじゃ~
みやも
第1話プロローグ 妾と私
こわい……助けて……。ここは…?誰か教えて…。
体が、動かない。周りは真っ暗で、どこにも触れられない――
“私”はただ、もがくしかなかった。
――ふっと、あの瞬間を思い出す。
雨の夜道。滑るアスファルト。車のライトが一瞬にして視界を覆った記憶――。
世界が裏返るような衝撃の後、気付けばこの暗く何もない空間で意識だけがどこかへ漂っていた。
恐怖の中、どれくらい漂っていただろう…。
“私”は暗闇の中に灯る一つの光を見つける。
吸い寄せられるようにその方へ……。
偶然か、あるいは神様の悪戯か――
漂っていた“私”の魂は、次の輪廻へと還らず、別世界の魔王の魂と、まるで二つの水流が混ざり合うように重なった。
「助けて……教えて……」
――重なった“私”の願いが、魔王の力を揺り起こす。
“眷属創造”
制御できぬ力が虚空に流れ出し、老執事――いや、眷属の原型が生まれた。
しかし魔王の魂は、肉体を得る前に魔力を使い果たして深い眠りに落ちる。
……“私”の意識と共に。
◇
それから時は流れ――。
鉛色の夜空。鬱蒼とした森を抜けると、月明かりに照らされた古城が現れた。
砕けた塔、不気味な蔦。静寂に包まれたその場所に、ひとつの魂が降り立つ。
「うむ、爺や、大儀であった」
爺やと言われる男の低く穏やかな声が応える。
「滅相もございません。ただ一つ、願いが――」
「わかっておる。お主を造り出した“私”を消すな、と言いたいのであろう」
爺やに答える声の主はまだ影のような姿で、煙のように揺れながら肉体を形作る準備をしていた。
「さて……そろそろ姿を形にせねばなるまい」
集中すると、背に白と黒の翼、銀と黒の髪、そしてゴスロリ風の衣装が形成され、やがて一人の美しい少女となる。
――半聖半魔の魔王誕生。
「…ラニ。これより妾の名とする」
ラニの内側には、妙にうるさいもう一つの意識(魂)――“私”も共存していた。
視界に映るのは片膝をつく爺やの姿。
「苦労をかけたな、爺や。妾の中の“私”も礼を言っておるぞ」
「もったいなきお言葉にございます」
「ふむ…まずは、この瘴気まみれの城の掃除からじゃな」
そう言って肩を落とすラニの姿は威厳ある魔王というより、どこか普通の少女に近かった。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次は「第2話 眷属:爺や」です。
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