最強魔王の“のんびり”建国スローライフ~争わず自給自足で、平和な国を創るのじゃ~

みやも

第1話プロローグ 妾と私

こわい……助けて……。ここは…?誰か教えて…。

体が、動かない。周りは真っ暗で、どこにも触れられない――


“私”はただ、もがくしかなかった。


――ふっと、あの瞬間を思い出す。


雨の夜道。滑るアスファルト。車のライトが一瞬にして視界を覆った記憶――。

世界が裏返るような衝撃の後、気付けばこの暗く何もない空間で意識だけがどこかへ漂っていた。


恐怖の中、どれくらい漂っていただろう…。

“私”は暗闇の中に灯る一つの光を見つける。

吸い寄せられるようにその方へ……。


偶然か、あるいは神様の悪戯か――

漂っていた“私”の魂は、次の輪廻へと還らず、別世界の魔王の魂と、まるで二つの水流が混ざり合うように重なった。


「助けて……教えて……」


――重なった“私”の願いが、魔王の力を揺り起こす。


“眷属創造”


制御できぬ力が虚空に流れ出し、老執事――いや、眷属の原型が生まれた。

しかし魔王の魂は、肉体を得る前に魔力を使い果たして深い眠りに落ちる。

……“私”の意識と共に。



それから時は流れ――。


鉛色の夜空。鬱蒼とした森を抜けると、月明かりに照らされた古城が現れた。

砕けた塔、不気味な蔦。静寂に包まれたその場所に、ひとつの魂が降り立つ。


「うむ、爺や、大儀であった」


爺やと言われる男の低く穏やかな声が応える。


「滅相もございません。ただ一つ、願いが――」


「わかっておる。お主を造り出した“私”を消すな、と言いたいのであろう」


爺やに答える声の主はまだ影のような姿で、煙のように揺れながら肉体を形作る準備をしていた。


「さて……そろそろ姿を形にせねばなるまい」


集中すると、背に白と黒の翼、銀と黒の髪、そしてゴスロリ風の衣装が形成され、やがて一人の美しい少女となる。


――半聖半魔の魔王誕生。


「…ラニ。これより妾の名とする」


ラニの内側には、妙にうるさいもう一つの意識(魂)――“私”も共存していた。


視界に映るのは片膝をつく爺やの姿。


「苦労をかけたな、爺や。妾の中の“私”も礼を言っておるぞ」


「もったいなきお言葉にございます」


「ふむ…まずは、この瘴気まみれの城の掃除からじゃな」


そう言って肩を落とすラニの姿は威厳ある魔王というより、どこか普通の少女に近かった。




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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次は「第2話 眷属:爺や」です。


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