第3話
雨音だけが響くストリートコートに、アヤの挑戦的な声が響き渡った。「覚悟しときな、ジジイ!」
伊達は、その言葉に微動だにしなかった。ただ静かに、アヤの瞳の奥に宿る揺らぎを感じ取っていた。それは、かつて彼女がバスケに打ち込んでいた頃の面影だ。だが、その瞳には同時に、深い絶望と諦めが混じっていることも見て取れた。
「俺はジジイじゃない。それに、バスケはそんなに甘いもんじゃない」伊達は低い声で答えた。「街をコートにするなら、それなりの覚悟が必要だ。あんたたちに、その覚悟があるのか?」
アヤはフンと鼻を鳴らした。「うるせぇ。あたしたちは、この街で生き残ってきたんだ。覚悟なら、あんたたちよりずっとあるさ」
その時、一人の少女が、アヤの隣に立つ仲間に耳打ちした。すると、その仲間は驚いたように目を見開いた。
「アヤ、あいつ…もしかして、あの伊達か?」
アヤは怪訝な顔で振り向いた。「何だよ、急に」
「あんた、まさか知らないのか!?あの人だよ、伊達!『アウトサイドの魔術師』って呼ばれてた、伝説の選手だ!」
少女たちの間に、ざわめきが広がった。羅刹女のメンバーの顔に、驚きと同時に、畏敬の念が浮かぶ。アヤもまた、その言葉に目を見開いた。彼女の表情に、それまでの嘲りが消え、戸惑いが浮かび上がる。
「伝説の選手…?」アヤは伊達をもう一度見つめ直した。確かに、彼の佇まいにはただならぬオーラがある。しかし、あまりにも年季が入りすぎているように見えた。
伊達は、そんな少女たちの反応をどこか冷めた目で見つめていた。過去の栄光など、今の彼には何の意味もない。
「伝説だろうが、なんだろうが関係ねぇ。勝負は勝負だ」アヤは震える声で言い放った。だが、その言葉には、先ほどまでの勢いがなかった。
「話は決まったようだな」伊達は、再びボールを拾い上げた。「じゃあ、いつやる?」
アヤは唇を噛みしめた。「ふんっ。あたしたちはいつでもいいぜ。あんたたちに合わせてやるよ」
「そうか。じゃあ、明日の夜だ。このコートで、もう一度会おう」伊達はそう告げると、スターフレンズ東京Xのメンバーに目配せをした。
「伊達さん…本当にやるんすか?」
リョウが心配そうな顔で尋ねた。
伊達はフッと笑った。「ああ、やるさ。俺たちは、アウトサイドでしか輝けない。そして、この街の未来は、俺たちが掴む」
羅刹女のメンバーが去っていくのを見送りながら、スターフレンズ東京Xの面々も、それぞれの思いを胸にコートを後にした。
翌日。
雨は上がり、空には薄日が差していた。伊達は、スターフレンズ東京Xのメンバーを連れて、馴染みの古びたジムにいた。そこは、彼の数少ない友人が経営している、小さなバスケットボールコートだ。
「まさか、こんなところまで引っ張り出されるとはな」
マイクが苦笑いしながらウォーミングアップを始めた。
「今日から、練習だ」伊達は静かに言った。「そして、明日の勝負に向けて、準備する」
「あのスケバンたち相手に、そこまで本気にならなくても…」
タカが不満げに呟いた。
「バカを言うな」伊達はタカを睨んだ。「相手が誰だろうと、コートに立てば全員敵だ。それに、あの娘たちの瞳の奥には、俺たちがかつて持っていた情熱がある。それを引き出してやるのが、俺たちの役目だ」
その時、ジムの扉が開き、一人の若い男が入ってきた。彼は、清潔感のあるスポーツウェアに身を包み、鋭い眼差しをしていた。
「伊達さん、遅くなってすみません」
その声に、スターフレンズ東京Xのメンバーが振り返った。特にリョウは、その男の顔を見て驚きを隠せない様子だった。
「お前…!」リョウが叫んだ。
「久しぶりだな、リョウ」
男はリョウに軽く会釈した。
伊達は、その男をメンバーに紹介した。
「お前たちに、今日から加わる新メンバーだ。彼の名は、カイト。この春から、とあるプロチームに『アーリーエントリー』が決まっている」
カイトは、日本のバスケ界で最も将来を期待される若手選手の一人だった。高校生ながら、すでにプロレベルの実力を持ち、その非凡な才能はメディアでも大きく取り上げられていた。しかし、彼の顔には、どこか影が差しているようにも見えた。
「カイトが、俺たちのチームに…?」
タカが信じられないといった表情で呟いた。
カイトは、静かに伊達の隣に立った。
「伊達さんから、このチームの話を聞いて…興味を持ちました。アウトサイドの戦い…」
彼の登場は、スターフレンズ東京Xにとって大きな戦力となることは間違いなかった。しかし、同時に、リョウの心には複雑な感情が渦巻いていた。カイトは、リョウがずっと目標にしてきた選手であり、同時に、ライバルでもあったのだ。
「よろしく頼む」伊達はカイトにそう告げると、全員を見渡した。「さあ、始めるぞ。明日の夜、この街の未来を賭けた勝負が待っている」
アーリーエントリーでプロ入りが決まった若き才能、カイトの加入。それは、スターフレンズ東京Xに新たな風を吹き込む一方で、リョウの心に波紋を広げることになった。そして、彼らは羅刹女との決戦に向けて、それぞれの思いを胸に練習に打ち込む。
この街の「アウトサイド」で、彼らは何を掴み取るのか。そして、伊達は、なぜカイトをこのチームに招き入れたのか。物語は、さらに深く、複雑な様相を呈していく。
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