宮下家・令和アフターストーリー〜カフェ改名騒動〜

りんくま

第1話 家族会議は突然に

時は令和


コロナの脅威は終わった訳では無いが、カフェ「S&A」は以前の賑わいを取り戻していた。


リノベーションした二階の居住スペースには、オードブルや缶ビール、ペットボトルのジュース、お茶等がテーブルの上に所狭しと置かれている。

時刻は21時。カフェの営業時間を終え、家族で打ち上げをしていた。

元店主、宮下秀(みやした・しゅう)


その妻、愛里(あいり)


現店主、颯汰(そうた)


その妻、悠希(のぞみ)


「だからよぉ、店の名前変えたいって言ってるだけじゃねぇか!なんでパーティー開いてんだよぅ」

足を大きく広げ、あぐらをかいた颯汰が前のめりになる。こめかみには血管が浮き、奥歯を噛み締めている。

「パーティーじゃねぇ!家族会議だろうが」

秀がパシュッとビールのプルタブを開けた。

「会議に酒いらねぇだろう!」

颯汰は秀の手からビールを取り上げた。


「そうくん、お母さんが作った苺とチーズのベーコン巻き美味しいよ?あ〜ん」

隣で悠希が颯太に串を差し出した。

「えっ?…あ〜〜〜ん♪」

ぐりんっと首を捻って、悠希の手からパクついた。

口の中で苺とチーズとベーコンが喧嘩した。

美味くはなかった。


「話の途中で何やってんだ?クソかよ」

秀はチキンスティックを噛み締めながら、我が息子を睨みつけた。

「だから、店のなーまーえ!俺とのんが店主なのに、『S&A』じゃおかしいだろうって話!」

言いながら颯汰は悠希の肩を抱き寄せた。

「うふ……」

悠希は頬を染め、颯汰の肩にそっともたれ掛かった。


カシャッ


「……愛里、写真撮るな」

「〜♪」

愛里はそっぽを向いてスマホを置いた。


「つまりアレだろ?Sは良いとして、AをNに変えれば良いんだろ?」

「業者に頼んでくれよ。新しい看板作ってもらおうぜ」


秀は、紙とボールペンを取り出した。

「その必要は無いな。ほれ、見てろ」

スルスルとアルファベットのAを書いた。

「ここの、Aの中の線を何かで消してよぅ、隣に縦の線引いたら……と、ほれ!Nになった!!」


「テストの日に消しゴム忘れて詰んでる奴の誤魔化し方!!」


「完璧じゃね??!!ww」

「テキトーじゃねぇか!このクソ親父!」

「だって俺、この店名ずっと恥ずかしかったんだもん。正直どうでも良いわ」

グイッとビールを煽って、ポテトサラダを取り皿に盛る。


颯汰は、その言葉に眉をひそめた。

「いや、恥ずかしかったのかよ……。自分でつけたんじゃねぇの?」

「まさか!!俺はもっとセンスあるっての」

「そういえば、誰がお店の名前つけたの?お父さん」

悠希が、新しくビールを開け、秀の手元に置いた。


「つばさだよ」


……………


『ああ〜〜……察し』

二人が一瞬で納得した。

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