第25話 幼馴染と打ち上げ

「え……何これ?」


 見事な赤の答案用紙を見て、葉月は固まる。


「見たまんま、英語と現代文の試験結果だ」

「……赤点じゃない」

「せやな」

「せやな、じゃないわよ! 話と違うじゃないのっ!」

「話とは?」

「国語系と英語系は自力でいけるって言ってたじゃないっ!」

「そうだっけ? はっはっは」

「全然面白くないっ!」


 俺だって、まさか得意教科で赤を取るなんて思ってなかったさ。


「猿も木から落ちる、ということわざがあります」

「……私の苦労は何だったの……」


 華麗なスルーを決めた葉月は、頭を抱え込む。


「何でも命令権がぁ……うああ……」

「……その事だけどさぁ」


 確かに、約束は「赤点の回避」だったけどね……?


「葉月のおかげで数学はめっちゃ伸びたし、生物と世界史もクリアできた。だから、契約は成立って事でいいと思う。何でもひとつ、言う事を聞くよ」


 そんな俺の提案を、幼馴染は秒で拒否する。


「ダメよ。約束は赤点の回避だもの」

「……赤取ったの、葉月が関与してない二教科じゃん」

「私が数学に時間を掛け過ぎたせいで、手が回らなかったんでしょ」

「まぁ、うーん……一理はある、けど」

「だから、契約は不成立。残念だけどね」


 俺としては、葉月に申し訳がなく……さっきの提案をしたんだけど。

 ……昔から頑固なとこあるからな、葉月は。

 これ以上、何を言っても決定は変わらないだろう。


「まじでごめんな、葉月」

「いいわよ、別に。暇つぶしにはなったし」

「……まじで、得意教科を落とすとは……思わなかったんだ……」


 国語と英語は大丈夫、なんて慢心していた自分が恥ずかしいよ。


「次は全教科、勉強しなさいよね」

「……おいっす」

「さ、じゃあテストの話はおしまい。打ち上げしましょ」


 ポン、と手を叩いた葉月が笑顔で言った。


「打ち上げって、あの打ち上げ?」

「テストが終わったら、普通するでしょ?」

「……いやぁ、俺はしないけど」

「いつも一緒にいる三バカで遊びに行ったりしないの?」

「さ、三バカって……」

「バカが三人集まってるから、三バカでしょ」


 俺達の合計赤点数は「8」だから……うん、立派な三バカですね。


「あいつらとは仲いいけど、遊びに行ったりはしないよ」

「そーなの?」


 陰キャグループにはよくある事だと思うんだけど。

 みんな家に帰ってパソコンに向かいたいから、学校の外で遊ぶなんて事はほぼないのだ。


「…………ま、そゆこと」

「陰キャの生態は不思議ねぇ」

「人を深海生物みたいに言うな」

「……顔は、深海生物そのものだけどね」

「おっと、その発言は完全にアウトっすよ?」

「そうね。発言を撤回するわ」


 間違えたら、ちゃんと謝れて偉いね。

 大人の皆さんも、ミスをしたら責任転嫁せず、素直に謝罪しましょうね。


「ってかさ、葉月こそ、一軍面子との打ち上げは?」

「私は今回パスしてきた」

「なんで?」

「今回のテスト期間はアンタと一緒だったし? 打ち上げはアンタとやるのが筋でしょ?」

「そう、なるのか?」「なるでしょ」「なるのか」「なるのよ」


 赤点を取ってはしまったが、今回の試験はかなり頑張った。

 ここはパーっと打ち上げるとしましょう。


「打ち上げって、どこ行くん?」

「ご飯を食べに行ったり、カラオケか……ボーリングなんかもするわね」


 たまに見るもんな。店の前にたむろしてる高校生。

 他のお客さんの邪魔になるから、少し考えろ、と俺は苦言を呈したい。

 ……別に、打ち上げしてる奴らに嫉妬してるわけじゃないぞ、うん。


「カラオケはちょっと遠慮したいな」


 その理由は、ズバり歌が下手だから。

 葉月とじゃ選曲も噛み合わないだろうしね。


「じゃあ、ボーリング?」

「ボーリングも……パスかな」

「嫌いだっけ?」

「最近、行ったからさ」

「誰と行ったの?」

「……そんなん、どうでもよくね?」

「気になるじゃない」

「……三バカで行ったんだよ」


 咄嗟に嘘をついたのは、姫野さんの名前を出せなかったからだ。

 ほら、なんでアンタがお姫様と? って聞かれたら……ねぇ?

 姫野さんが小説を書いている事は秘密だから……答えられないやん?


「さっき、三バカでは遊びに行かないって言ったじゃない」

「年に一度くらいは行くわよ」

「……口調を真似しないで」

「いやよ」

「殴るわよ?」

「モラハラの次はパワハラっすか? ママに言い付けるぞ?」

「……きっしょ」


 よし、何とか誤魔化せたな。グッジョブ、俺。


「……で、どうする?」

「ダーツとかビリヤードはアンタのキャラじゃないし、体を動かすのも苦手でしょ?」

「まぁ、はい」

「……普通に、ご飯でも行きましょうか」

「異議なーし」


 ってか、葉月はダーツとかやるのか……流石は一軍女子だ。

 よし、今日はダーツ行こうぜ! って普通はならねぇよなぁ……。


「アンタ、食べたいものある?」

「んー、そうだなぁ。急に言われても……あ」


 食べたいもの、と聞かれてまず思い付いたのは……。


「……いやぁ、でもなぁ」

「何よ、言いなさいよ」

「絶対文句言われるから嫌だ」

「言わないから」

「本当に?」「本当に」


 俺はその言葉を信じ、思ったままを口にする。


「葉月のビーフシチューオムライスが食べたい」

「打ち上げで……自炊?」

「ほら、文句言うじゃん」

「……文句って言うか……お気持ち表明よ」


 そりゃ、俺だって打ち上げで自炊はちょっと違うと思ったさ。

 ……だからちゃんと確認したでしょうが。


「食べたいものを聞かれたから、答えただけ」

「……そんなに、美味しかったの?」

「肯定。葉月のオムライスは世界一だ」

「ふーん、舌はまともみたいねっ」


 そんな悪態をつきながらも、幼馴染は満更でもない顔をしている。

 昔から、結構顔に出るんだよな、葉月って。


「作ってあげたい気持ちはあるけど、無理よ。シチューがないし」

「そっか。あのソースは残り物なんだっけ」

「今度、シチュー作ったら……また食べさせてあげる」

「おぉ、それは朗報だ。楽しみができたな」


 口角が上がったままの葉月は、


「普通のオムライスなら、作れるけど」

「食べたいです」俺は即答する。

「し、仕方ないわねっ。じゃあ、少し待ってなさいっ」

「お願いしますっ」


 そうして完成したオムライスには、ケチャップで「祝! 赤点!」と書かれていた。

 ん、味? そんなん、言うまでもないだろ?




「ゲームでもしない?」


 昼食を済ませると、食器類を片付けた葉月が言う。


「別にいいけど……コントローラーを抜くのは禁止だぞ?」

「えぇ、約束するわ」


 葉月とゲームするのは、何だかんだ楽しい。断る理由はないね。


「やろうか」

「そうこなくっちゃ!」


 葉月は嬉々としてゲーム機の用意に取り掛かる。


「何か、嬉しそうだな」

「アンタに勝てるように……練習したの!」


 ゲームの練習しながら九十点台連発するの、まじでやめて欲しい。


「上手くなったのか?」

「それはもう。桜凛で一番の走り屋よ」

「いや、もうそのゲームやってる奴いねぇから」


 みんな、最新のマ〇カーやってるのよ。


「ほら、こっち来て! 勝負よ!」

「よかろう。お手並み拝見といこうじゃないか」


 結論から言えば……葉月は驚くほど上達していた。

 ガチ勢が使うような、細かいテクニックまで習得しており……。


「どうよ! 私の走りはっ!」

「ぐぬぬっ」


 現在、最終ラップ。ゴールまで残り僅かな状況だ。

 順位は葉月が一位、俺が二位で……有効なアイテムはない。このままでは負けてしまう。


「ちょっと練習したらこんなもんよっ!」

「何がちょっとだ! クッソやり込んでんじゃねぇか!」

「アンタ、ゲームのセンスないわねっ!」


 このまま、葉月に勝ちを譲ってもいい。

 ……とは思うが、煽られてムカつくから……秘技を使ってしまおう。


「よいしょ」


 突然、俺のキャラはコースを外れ、山を登り始める。


「ちょ、なにふざけてんのよっ!」

「お前にだけは言われたくねぇよ!」

「負けるからって遊ぶとか、小学生以下ねっ!」


 そっくりそのまま、同じ台詞を返してやりたいが……。


「……まぁ、見てろって」


 俺の分身は、勢いよく斜面を降りて加速すると、大ジャンプ。

 越えられないはずの壁を越え……トップを走る葉月の前に躍り出た。


「ほい、トップ交代~」

「え、ちょ、何それぇ!?」

「裏技」

「ず、ズルじゃないの!」

「ズルじゃないよ。公式公認のショートカットだから」


 実践するのは久しぶりだったが、体は覚えてるもんだね。


「ず、ズルよ! ズル!」

「負け犬の遠吠えだな」

「……ぐ、ぐぬぬ……」

「コントローラーは抜くなよ」


 俺が防御態勢を取ると……


「……だったらっ!」



「妙技! ゲームのコンセントを抜くっ!」



 ——ブチンッ



「そんなのありかよっ!?」

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