第3話 女神の思惑?

「それで?」

「それで、とは?」

「これからどうするの?って事。あのクソ女神の言いなりになるわけ?」

 エルが吐き捨てるように言う。

 俺はそんなエルを抱きかかえ、膝の上に乗せてあやすように頭を撫でながら答える。

「クソ女神って酷いな。」

「あんなのはクソで十分よっ!もう少しであなたを堕とせたのにぃ。」

「ハハッ、お陰で俺は助かったんだが?」

 俺は余裕の笑みを浮かべつつ、内心では冷や汗を垂らしていた。

 エルに魅了され、今まで味わったことのない甘美な快楽に落とされ、身も心もエルに支配されかかっていたあの時、例の謎の声が聞こえて、力を貸してくれたのだ。

 お陰で、俺を下僕にしようとしていたエルだったが、ギリギリのところで立場を逆転させることができた。エルが今甘えているのは、あそこで逆転できたからであり、もし、女神の助けがなければ、今頃はエルの下僕として彼女の足を舐めていたことだろう。

「まぁ、約束したからな。それに言いなりというか、俺のやりたいようにすればいいんだから、別に問題ないだろ?」

「うぅ…あなたに忠誠を誓ったから、あなたの言うことに従うけどぉ……納得いかないっ」

「そう言われてもなぁ……。」

「うー、これからも、もっと甘やかしてくれるなら……許す…。」

 そう言って頭を擦り寄せてくるエル。

 何、この可愛い生き物。うん、エルが望むことなら何でもしてあげよう。


 謎の声は、女神シエラザードと名乗った。

 自称女神様の話をザックリと纏めると、この世界の方向性について、女神たちの間で意見が別れているとのこと。

 一方は、秩序を司る女神ネェルフィーが収める陣営で、人族を中心として、進化がおかしな方向に行かないように、教会を通じて手助けしていこうと言う考え方。

 それに対し、混沌を司るシエラザードの陣営は、この世界はこの世界の者達に任せて、手出しは必要最小限に抑えるべき、と言う考え方。

 どちらの言い分にも理はあり、下につく女神たちもどうしていいか分からなくなっているという。

 そこで、協議の結果、双方の陣営は一つづつ切り札を用意して導入、その結果を見守ろうという事になったそうだ。

 その切り札としてシエラザードが選んだのが、俺という異世界人。

 とは言っても、特に何かをしようとしなくていいらしい。勇者として世界を救う旅に出てもいいし、魔王として世界を支配してもいい、全ては俺が思うままに過ごせばいい。

 もっとも、勇者はネェルフィー陣営の教会が管理しているから、シエラザードに呼ばれた俺が勇者を名乗るのは難しいかも知れないし、また、魔王と呼ばれる存在はこの世界には現在7個体いるらしいので、もし魔王を名乗るなら、それらとの衝突は避けられないから、あまりオススメはしない、との事。

 シエラザードが言うには、異世界人という俺の存在が、そのまま世界に影響を与える……かも知れないということらしい。

 俺という存在が特異点であり、俺という存在を起点にして物事が動いていく。その結果どうなるかはシエラザードのあずかり知らぬこと。ただ、時代が動く、世界に影響が出る……女神はその行く末を黙ってみている……ということらしい。

 元々、シエラザード陣営の考え方は、基本手出し無用なので、俺がこの世界で何をしようが、その結果どうなろうが、それがこの世界の在り方だと受け入れるというものなんだそうだ。

 切り札としての俺は、世界を動かす起爆剤、ただそれだけでよく、俺がこの世界に来たことで、シエラザードの役割は終えたという。

 ただ、いきなり異世界に連れてこられても大変だろうという事で、ナビゲーターを用意する……それがエルの存在だった。

 何故サキュバスのエルかというと、俺の望みが「ハーレム」だったからだとか……アリガトウゴザイマス。

 ちなみに、エルはいきなり何者かに捕まり、小瓶に封印されて放置されていたというから、完全に俺のとばっちりを受けたのだと思う。……そのことを知ったから、エルは女神シエラザードに対してよい印象を持っておらず、先ほどから毒づいているのだ。

 まぁ、気持ちはわからなくもないが、俺としてはエルとお近づきになれてアリガトウゴザイマス、と感謝でしかないんだが。


 まぁ、それはそれとして……。

「さて、真面目な話、これからどうしようか?取り敢えず落ち着ける場所に移動したいんだけど?」

 俺はエルが何か知らないかと、訊ねてみる。

 今、俺たちがいるのは森の中。女神の話ではもう2〜3時間もすれば、張られている結界の効果が切れるらしいので、早目に移動するように、とのことだけど、どこに移動すればいいのだろう?

 正直言えば、エルを抱きかかえている間に元気になったので、またエルとイチャイチャしたいところなのだが、イチャイチャ中に襲われたらたまったものではない。

 エルと憂いなくイチャつく為にも、安全な拠点の確保が急務ということだ。


「はぁ……あのクソ女神から情報はもらってるわよ。というか、最初の選択肢ね。ここから西に向かって半日ほど歩けば、森を出て村に着くそうよ。また、北に同じく半日ほど歩けば、拠点にふさわしい場所に着くらしいわ。あなたはどっちを選ぶの?」

 いきなり選択肢キタァァァ!

 って言うか、情報が少なすぎるだろ。

 普通に考えれば村に向かうべきなんだろうけど……。

「北…かな?」

「一応理由を聞いてもいい?」

「そんなの、決まってるだろ?」

 村に向かうことはいい。しかし、俺はまだこの世界のことがよくわかっていないのだ。だからこそ、村で色々情報を得るのが大事とも言えるが、同時にエルの存在がある。

 サキュバスと言うのは、この世界ではどのような位置付けなのか?

 俺の乏しい知識によれば、サキュバスは悪魔、もしくは魔族に属していて、人間族とは敵対関係にある場合が多い。もしそうなら、エルを連れて行くのは危険じゃないか?エルを危険な目に合わせたくないし、嫌な思いもさせたくないんだ。

 ……という建前を俺は口にする……したはずだった。

「誰にも邪魔されず、エルといちゃいちゃできる場所の確保が急務だろ?」

 ……何故か、本音の方を口にしていた。

 エルが俺を見る目が何故か冷たかった。

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