青の記憶(リグレット)

@hima4200

プロローグ

「次ー潮鳴駅止まります。お降りの際は足元にご注意下さい。」

運転士のアナウンス音と共に荷物を手に取り、電車を降りると目の前を海と潮風が覆う。


アオイは大学進学と共にこの町を出てから、卒業後福岡の商社に就職した。社会人生活は良くも悪くも多忙を極め、気付けば今年の夏、二十七歳を迎えようとしている。


改札を出た後、踏み切り横断歩道を渡り徒歩圏内にあるラーメン屋に向かうと、店内にはちらほらと客の姿があり、アオイは案内された席に着き抱っこをせがむ息子のユキを膝の上に乗せ出されたお冷のグラスを片手にぼんやりと昼間のバラエティ番組を眺めていると、店員さんが注文したラーメンを運んでやって来た。


「はい。ラーメンお待ちどうさま」

「ありがとうございます」


このお店は魚介の出汁と中麺が特徴のお店で、ふとした瞬間に無性に食べたくなる味だ


「なー俺さっきさ、久々翠ヶ丘第二中に行ってきたんだよ」

そんな折横のテーブルに座る男性二人の声が聞こえてくる。

「何でまた急に?」

「別に理由はないんだけどさ、帰省がてら久々なって思って」

「なるほどな。」

「てかお前十年くらい前の事覚えてるか?」

「十年前?」

「何か眠り病って奴が流行った事あっただろう?」

「そういえばそんな事あったな」

「あれ結局何だったんだろうなー」

「さあな。唯の熱中症か何かだろ」


そんな二人の会話を他所にアオイはラーメンを食べ終えた後、翠ヶ丘第二中学校に向かった。特に理由はなかったが気付けば引き寄せられる様に足取りは其方に向かっていた。翠ヶ丘第二中学校は、坂道の中腹にあるアオイが過ごした学校で、蝉時雨が唸るアスファルトの坂道を登って行くと校舎が顔を覗かせる。変わらぬ佇まいに、響く校舎のチャイム。

想起される中学生の頃の何気ない一コマがモノクロの映画フィルムの様にガシャガシャと音を立てながら脳裏に流れる。もうあれから十年近く経つことに驚きを隠せない。やがてアオイは暫く校舎を眺め、その光景を目に焼き付けるとその道すがら不意に歩いて来た坂道を振り返る。そこには夏の残滓と共にあの日の時間が今も一すじ断続していた。

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