仏の救いが現世に及ばなくなるという末法の世。荒廃にさらされる都にこもり、香になぐさめを求める貴族たちの間で、おぞましい惨劇が次々と巻き起こる。捜査にあたった検非違使、源清忠は、ほどなく『人伽羅』なる謎の香の名に行きあたり。その秘密は、果てしなく忌まわしいものだった――。崩壊の時代、人の狂気がさらなる悪夢の煙をたてる、平安末期恐怖譚。
香という本来は雅な文化を、末法思想と怪異の側へ反転させているのが印象的な作品でした。「人伽羅」という銘そのものが禍々しく、目に見えない香りが人の理性や境界を侵していく怖さがよく出ています。また、検非違使が怪異を事件として追っていく構成なので、怪談でありながら地に足がついているのも良いです。惨さだけで終わらず、どこか鎮魂の余韻を残すところも含めて、平安怪異譚としてかなり手堅い一作でした。