何時か世界にキミの物語を。
阿部れーじ
言うなればプロローグ前話的な何か。
「ねえキミもそうだよね?」
誰も居ない教室で木下世界はふと顔を上げて口を開いた。
滲んだ視界の先には誰も居ない。真っ直ぐと見つめる先の壁掛け時計の針すらはっきりとは確認できなかったが、もうそろそろ下校時刻だろうか。
「泣いてなんか無いよ。……いやほんとほんと」
何時からか定かではない。物心ついた時からか、厨二病の発症と同時期頃だったか。ボクらは物語に憧れてしまった。
非日常にボクらを引っ張りこんでくれる存在を待ち焦がれたし、空から降ってくるSFとか唐突に始まるラブコメを夢想していた。
それはもう何をどうしても心の片隅から消えてくれはしなくて、焦燥感と劣等感ばかりを募らせて成長していってもずっと物語に名前を載せたいという想いだけはそのままだった。
ボクらにそんな歪んだ願望を抱かせた物語――ライトノベルや漫画やアニメはボクらを主人公にはしてくれなくて。
「もしかしてキミは違うの?」
そんな訳は無いよねと付け足そうとして世界は虚しさから言葉を止めた。
物語はどれも『頑張れば報われる』とか 『君は君のままでいい』とか『誰でも主人公だ』 みたいな、定型句として語られるどこか耳障りのいいメッセージだけを読者に押しつけてボクらを物語に入れてはくれなかった。
そうしてボクらは心の何処かで忌避して嫌っていたはずの普通を諦めと逃避から選択してしまう。日常系アニメでも許されないような夢も何もかもを隠して繰り返される昨日と同じ日常。
そんな退屈極まりない物語。
「まあ、ボクは嫌いではないよ。そういう物語も」
独り言だ。きっと何処にも存在しない読者へ向けて呟いてみる。
「こんなの聞いてないでキミはもう少し真剣にハッピーエンドを目指すべきだよ」
これも独り言。何処かに存在するボクと同じ誰かに向けて。
「自分はそもそも主人公じゃないって? はあ、仕方ないな。じゃあボクがキミを見ていてあげるよ、物語の一番端から。だからキミも」
何時か物語を諦めてしまった多くの人へ。
再度繰り返した独り言のはずなのに誰かの返事を聞きたかった。
「
最後に呟いた独り言にもきっと返事は返ってこないけれど、ボクはこの物語がハッピーエンドで終わるときまでずっと語り続けるよ。
「――ボクの主人公になってよ」
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