テーブルゲームの惨敗と、弟子の挑戦
玲司の、無謀な再挑戦
赤城 煇(あかぎ ひかる)の登場でクラスが騒然とする中、玲司は華恋との関係修復を優先しつつも、天堂沙耶香への挑戦を諦めてはいなかった。煇の出現が沙耶香の退屈を刺激したと確信した玲司は、この好機を逃すまいと、再び沙耶香に勝負を挑んだ。
放課後、玲司は図書室の空いたテーブルで、沙耶香を待ち受けていた。
「天堂!新しいゲームで勝負だ! 今こそ決着をつける!」
「新しいゲーム?」沙耶香は優雅に微笑んだ。「あなたの『無意味な努力』を見るのも、今日の私のデータ収集の一環よ」
玲司は、将棋、囲碁、チェスといったテーブルゲームを立て続けに持ち込んだ。しかし、結果は惨敗だった。
玲司は、得意なはずのゲームでも、沙耶香の完璧な論理の前にはまるで歯が立たなかった。どのゲームも、玲司の感情的な攻撃は一瞬で見切られ、沙耶香の緻密な計算によって、盤面はあっという間に予定調和の敗北へと収束させられた。
沙耶香はチェスのキングを盤上に倒し、優雅に微笑んだ。
「ふう。ごちそうさま、笹野くん。あなたの情熱は評価するけれど、論理的な思考力は、依然として平均点以下ね。もう、終わりでいいかしら?」
玲司は、額に汗を浮かべ、悔しさに唇を噛んだ。
弟子(ひかる)の乱入
その時、図書室の入口から、嵐のような勢いで一人の少女が飛び込んできた。赤城 煇だ。
「ししょー!こんなところで何やってるの!私を置いてゲームなんて…って、何、これ!?」
煇は、玲司の惨敗した盤面を見て、目を見開いた。玲司が悔しそうに顔を歪めている様子を見て、煇の瞳に怒りの炎が灯った。
「師匠!またこの女に負けたの!?」
「煇!静かにしろ!ここは図書室だ!」玲司は慌てて煇を止めようとした。
しかし、煇は玲司の制止を振り切り、玲司と沙耶香の間の席にドン!と座り込んだ。
「あなた、天堂沙耶香だっけ?いくらなんでも、師匠を嬲りすぎじゃない!?」
煇は、沙耶香に真っ向から挑戦的な視線を向けた。沙耶香は、初めて、玲司との勝負ではない『他者からの純粋な敵意』を向けられ、興味深そうに目を細めた。
「嬲っているつもりはないわ。これは、論理的な結論よ。あなたがこの男を『師匠』と呼ぶの?所詮、この男が師匠なら弟子の貴方も大した事無さそうね」
その言葉が、煇のゲームへの情熱という名のプライドを、完全に刺激した。
「冗談じゃない!」
煇は、チェスの駒を指で弾き、盤上に並べ始めた。その動きは、玲司よりも洗練され、研ぎ澄まされていた。
「師匠の敵は、弟子の私が取る! あなたが論理で動くなら、私も論理で応戦する。チェスで勝負よ!」
天才と弟子の白熱戦
沙耶香は、不敵に笑った。
「どうせ結果なんて変わらないだろうけど、先行を譲ってもよろしくてよ」
「絶対に負けないんですから!」
勝負が始まった。玲司が驚いたのは、煇の思考の速さと大胆さだ。煇は、玲司が恐れて避けていた複雑なオープニング定石をためらいなく選択し、一気に盤上を戦場へと変貌させた。
煇の指し手は、玲司の攻撃的なスタイルを基盤としながらも、玲司にはない緻密な計算と、勝利への貪欲なまでの執着心が加わっていた。
「くっ…この手は…!」
沙耶香の表情に、初めて、玲司以外の人間との対局で僅かな緊張が走った。煇の指し手は、沙耶香の予測ラインを何度も超えていく。それは、ゲームに純粋に捧げられた才能が、沙耶香の何でもこなせる天才と、真っ向からぶつかり合っている瞬間だった。
玲司は、自分の惨敗した席の後ろに立ち、その光景を呆然と見つめた。
(煇…あいつ、こんなに強くなっていたのか…!)
二人の対局は、図書室の静寂を破るかのような白熱した戦いとなり、玲司の惨敗とは一線を画す、互いの才能を削り合う名勝負となっていた。玲司は、師匠としてではなく、凡庸な観客として、その戦いを見守るしかなかった。
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