探偵Sの交差する運命 ──探偵事務所は不思議な依頼をお待ちしております

雪月Ø

第1話 プロローグ

「はぁ……はぁ、っはぁ」


 走らなきゃ。もっともっと速く。

土と草の匂い。薄暗い"赤色"の森をがむしゃらに駆け抜ける。


「グルルルル」

「あ」


 すぐ後ろから猛獣の唸り声。異界の化け物は私の事を逃がしてはくれなかった。

 ダメだ追いつかれる。そもそも何で私がこんな目に合わないといけないの?私はただ、夕奈を助けたいだけなのに。

 どんなに、どんなに思っても目の前の猛獣は待ってはくれない。


「も、やだぁ……!」

「伏せていろ」

「え?」

「はぁ……!」


 バギィ!と何かが折れる音と共に、コートをはためかせた長身の男性が一蹴りで化け物を吹っ飛ばした。ピクピクと痙攣している姿を見るに瀕死……っぽい。


「西園寺さん!大丈夫でしたか?」


 もう一人の銀髪の美青年が寄り添い、震える背中を優しく撫でてくれた瞬間自覚した。ああ、私助かったんだ。


「この御嶽獅瑝が手ずから助けたのだ。無事じゃないわけなかろう」

「あ、ありがとうございます……!わ、わた、私もうダメかとッ、ぐすっ」

「遅くなってすみません。もう大丈夫ですからね」

「まったく……泣くんじゃない。こんなことではキミの友人も見つからんぞ」

「はい……!」


 私がこの二人。『御嶽獅瑝みたけしおう』さんと『氷玻雪遥ひょうはゆきはる』さんと出会い、私の運命が変わるのは今から数時間前のことだった。

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