第6話「勉強とRINE交換」

「よーし! これから太陽くんと私の勉強会を始めまーす! パチパチパチー」


 そう言って拍手をする二ノ宮先輩だった。俺もつられて拍手をする。


「なんかテンション高いですね」

「ふっふっふー、これが夢だったからねぇ~! 一人になりたい者同士の絆!」

「なんか、二ノ宮先輩って頭いいのかバカなのかよく分かりませんね」

「ガーン! そんなこと言わないでよ~。私泣いちゃうよ?」

「どうぞ」

「やっぱり止めないんだね太陽くんは……ま、いっか。じゃあ勉強しよー。分からないところは訊いてねー」


 俺も開いてある数学の問題集とノートに目をやる。数学は少し苦手だった。分かるようで分からないところが多い。うんうんと考えながらペンを走らせていると、視線を感じた。ふと顔を上げると、ニコニコ笑顔でこちらを見る二ノ宮先輩がいた。


「なんでこっち見てるんですか」

「ふふふ、真面目に頑張る太陽くん、可愛いなぁ~と思ってね!」

「真面目に勉強してくださいよ。何の時間か分からなくなるじゃないですか」

「あ、そうだね、分からないところない?」

「あの、ここがよく分からなくて……」

「どれどれ……ああ、ここはこれがあるから、こうなって……こう!」


 二ノ宮先輩が俺のノートにさらさらと書いていく。二ノ宮先輩、手も綺麗だな……スラっと指が長く見える。爪も綺麗だ。お手入れとかしているのだろうか。

 ……いや、今はそれはどうでもいいな。


「あ、なるほど……二ノ宮先輩って本当に勉強ができる人だったんですね」

「疑ってたの!? できる女だよ~もっと褒めるべきって思わない?」

「すごいですね、とだけ言っておきます」

「うーん、なんか違うけど、ま、いっか。私も勉強しないとねー」


 しばらくの間、勉強タイムとなった。静かな空間で、ペンを走らせる音が小さく響く。途中で分からないところを二ノ宮先輩に訊くと、「ああ、これはね~」とあっさりと答えてくれる。勉強ができる人というのは本当だった。


 ……しかし、二ノ宮先輩と二人きりで勉強とか、クラスの人に教えたらみんな泡ふいて倒れてしまうのではないだろうか。あの人気者の二ノ宮先輩だもんな……。


 ふと顔を上げて、二ノ宮先輩を見る。「んー」と小さな声を出して教科書とノートを眺める二ノ宮先輩は、美しかった。目も綺麗だし、鼻も高いし、ぷるんと健康的なピンク色の唇も……俺はちょっとドキドキしてしまった。


 ……いかんいかん、勉強中なのに。俺は慌てて自分の問題に取り掛かった。



 * * *



「ふーっ、いい感じに勉強してきたね、ちょっと休憩しない?」


 二ノ宮先輩が伸びをしながら言った。けっこう長い時間勉強していたようだ。俺もつられて伸びをする。


「すいません、分からないところ教えてもらって。ありがとうございます」

「いえいえー、私もお役に立てたようで、よかったよ~」

「二ノ宮先輩って頭いいんだなって思いました」

「まだ疑ってたの!? こう見えてちゃんと勉強はしてるんだからね~」


 頬をぷくーっと膨らませて、不満そうな二ノ宮先輩。それもまた可愛らしいなと思った。


「そういえばさ、私、太陽くんの連絡先知らないんだよね。RINE交換しない?」


 スマホを手に取り、そんなことを言う二ノ宮先輩。RINEとはメッセージアプリだ。たしかに昼休みに会っているとはいえ、連絡先の交換などはしたことがなかった。


「あ、RINEですか」

「あれ? 太陽くん、私と交換するの嫌な感じ?」

「いえ、俺なんかと交換していいのかなって……」

「もちろーん! なにかと便利そうだしさ、ね、いいでしょー?」

「まぁ、二ノ宮先輩がそう言うなら」


 俺もスマホを取り出し、RINEの交換をした。俺のRINEの連絡先一覧に『二ノ宮紗彩』と出ている。アイコンはポメラニアンだろうか、犬の画像だった。


「あれ、二ノ宮先輩の家は犬飼ってるんですか?」

「そうなんだよー、『シュウ』っていう男の子でね、ポメラニアンなんだけど、元気だよー!」

「なんか、カッコいい名前ですね」

「お、太陽くんもそう思う? 私がつけたんだけどねー。我ながらいいセンスしてるんじゃなかろうかと!」

「いや、そこまでではないような」

「ガーン! そこは『二ノ宮先輩、いいセンスしてますね』って言うところでしょー。あれ、太陽くんのアイコン、カッコいい男性の絵だね」

「ああ、ゲームの登場人物なんです。俺が好きな」

「へぇー、ゲームかぁ、あそこにもゲーム機あるね、よくやってるの?」

「はい、休日はよく楽しんでいます。一人でも楽しめるから、いいかなって」

「そっかー、太陽くんの趣味なんだねー。ふふふ、また一つ太陽くんの秘密知っちゃった~」

「秘密っていうほどでもないですけど、まぁそんなとこです」


 スマホを眺めながら、嬉しそうな二ノ宮先輩だった。

 しかしあの二ノ宮先輩とRINE交換したとか……やはりクラスの人に教えたら空飛んでいって見えなくなりそうだなと思った。

 

 ……まぁ、この綺麗な笑顔を独り占めしている今の時間も、悪くないなと思えた。

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