労働用人造淫魔ホムンキュバス ~もし現代社会でサキュバスを量産して労働奴隷にしたらどうなるか?タイパとコスパを追求しすぎた代償~

タマリリス

もしも人造サキュバスがアイドルをやったらどうなるか?①

 握りしめた包丁の柄から、肉を突き刺す不快な手応えを感じた。噴き出した生暖かい返り血で手がべっとりと染まっていく。

 驚きと苦痛の表情をあたしに向けているピンク髪の美少女は、側頭部から角が、腰から長い尻尾が生えており、改めて間近で見るとやはり人間とは別種の生物なのだと実感させる。


「……なん、で……藍(あい)さんっ……!げほっ!ごぼっ!」


 憎き人造サキュバスの吐血があたしのレインコートの袖を汚し、ライブステージの床に滴り落ちる。生理的嫌悪感が背筋を伝った。あたしは無我夢中で叫んだ。


「気持ち悪い、汚らわしい!消してやる!お前みたいな化け物なんて!!!みんなこの世からいなくなれよ!!!」


 人造サキュバスの服装は、一見アイドル衣装のようだが、胸の谷間や腹部、腰回りや太ももが大きくはだけており、明らかに露出過多だ。ローライズの超ミニ丈のスカートは股下5センチもない。まともな感性と尊厳を備えた人間の女性ならば、絶対にこんな服装でアイドルを名乗ってライブステージに立とうなどと思わない。媚態、いや醜態だ。


「アイドルはなぁ!そんなに腹出さない!胸出さない!脚もケツも股も出さないッ!はぁ、はぁっ!お前らみたいな!男共の下半身に媚びへつらったバケモノ!アイドルが立つステージに相応しくないんだよっ!!」


 クソ害獣モンスターのみぞおちに突き刺した包丁へぐりぐりと力を入れる。傷口が深く広がっていく音がする。


「あ、あぐうぅうぅっ!痛い!!いだいいぃぃっ!!!やめて、やべでぐだざいいぃっ!がふっ!ひいぃぃっ!!」


 人造サキュバスは泣き叫びながらあたしの手を掴み、震える手で必死に抵抗してくる。あたしはサキュバスの感度抜群であるらしい股間に膝蹴りを思いっきり叩き込んだ。


「んぐうぅっ!!?」


 恥骨の硬さが膝に響いてきた。サキュバスはびくんと痙攣し、内股を硬直させ、床に膝をついた。かつてジョギングやジム通いで鍛えたあたしの自慢の脚力はまだ完全に衰えたわけではない。


「う゛っ……!う゛ぅううぅ~~~~っ……!あ゛っ……がっ……!」

 

 サキュバスはみぞおちと股間を押さえながらうつ伏せに倒れ、呻き声を上げた。腰がびくびくと痙攣し、脚をじたばたさせている。ミニスカートの後ろが捲れ上がり、形のいい臀部が衆目に晒された。

 信じがたいことに、ミニスカートの下からサイハイソックスまでの間に見えた色は肌色一色のみ。布がなにもない。アンダースコートどころか普通の下着にすら覆われていない。特殊なしゃぶしゃぶ屋で働く淫売ならともかく、アイドルを名乗ってステージに立つべき服装では断じてない。こんなのは華やかな晴れ舞台への侮辱だ。

 このアバズレ共は信じがたいことに、つい先ほどまでこんな尊厳の欠片もない恰好で平然と激しいダンスを披露していた。こいつらは人間じゃないから公然わいせつ罪が適用されないのだとか。アホらしい。


「ん゛う゛ぅううぅぅぅっ!!いたいぃ!いたいぃ……っ!があっはっ!たす、けてっ……!あっ……ぐぅっ……!」


 激痛にもだえ苦しむ人造サキュバス。すぐそばにいる同じ服装の三匹の同類どもは、怯えながら震えている。

 こいつらのスカートが翻るのを鼻の下伸ばして眺めていた観客席のブタ共は、1分前まで下卑た歓声をあげていたが、その声は今や悲鳴とざわめきに変わっている。

 あたしは刃物を周囲に向けて威嚇した。ブタ共は誰も邪魔しに来ない。中にはスマホであたしらを撮影している奴もいる。どういうつもりだ!?


「見世物じゃねえよ!!キモい!!キショい!!吐き気がする!頭痛もだ!コイツも!コイツの事務所も!!それを有難がってるブタ共もっ!!みんな消えて無くなれよ!!」

 

 うつ伏せで痙攣しながら悶絶しているクソビッチの横腹を何度も蹴り、仰向けに寝転がらせた。


「きゃふぅっ!」


 そして血が噴き出るみぞおちの刺し傷を、硬くて鋭利なパンプスのヒールで思いっきり踏みつけた。


「ぐぶうぅっ!」


 人造サキュバスは霧吹きのように血を吹き出し、両手でみぞおちを押さえた。あたしは両足を掴んで脚を広げさせると、ヒールの先端に全体重を乗せ、薄布一枚にすら護られていない完全無防備な股間を思いっきり踏み潰した。足の裏にゴリッとした衝撃が伝わる。


「んぐっ!?ああああぁあ゛あああぁあああぁあ!!!!」


 人造サキュバスは耳をつんざくような悲鳴を上げた。あたしの足を両手と両脚で押さえ、必死で股間から離そうとしている。あたしは踵に体重をかけて全力で股間を踏みつけながら、足首をぐりぐりと動かした。


「大好きなんだろォ!?硬くて長いモノがよぉ!!この糞ビッチがああああああ!!!」


 すると人造サキュバスは白目を剥きながら、汗と涙を滝のように流して絶叫した。

「ぎううううぅぅぅ!!!んぎいいいぃぃぃぃ!!!いぎゅぃいいいい!!」


 あたしが足を上げると、靴底から赤い雫がぼたぼたと滴り落ちた。人造サキュバスは股間を両手で押さえて床を転がり回った。呻きながらケツと尻尾を振り、腰を床にビッタンビッタンと打ち付けた。その度にスカートが翻り、赤く染まった内股がちらついた。


「う゛ぅ゛ーーーーーーーっ!!ふぅう゛ーーーーっ!!!ぐううぅーーっ!」


「もうガバガバで使い物になんねえなぁ!?オタク共に穴が空くほど見せびらかしといて!今更生娘みたいに両手で隠すのかぁ!?最初からそうしろよアバズレモンスターがよ!!」


 あたしが今やっていることは残虐な行為だろうか?もしもこの世界が物語だったら、今のこの状況は「過度な残虐表現」に該当するのだろうか。


 あたしはそうは思わない。だって人造サキュバスは化け物だから。類人猿ですらない。スライムが女の姿に擬態したモンスターだから。血も肉も骨もホンモノじゃない、ニセモノだ。こいつらは可哀想な被害者じゃない、人類の敵だ。


 漫画やアニメで勇者が剣でスライムやゴブリンを斬ったり刺したりして退治することが残虐表現に該当するだろうか?そんな例は聞いたことがない。そう、人外のバケモノはいくら斬っても刺してもいいんだ!こいつだってそうだ!


 あたしは暴れ馬のように跳ねる人造サキュバスの腰にのしかかった。

 そして包丁を両手で握ると、人造サキュバスの背中へ振り下ろし、腹まで貫通させる勢いで深く突き刺した。


「ぶぁっはぁっ!!」


 硬いものにガチっと当たる手ごたえが返ってきた。そうか、刃の向きを縦にしたまま胸を刺したら肋骨に阻まれるのか。人生で二度と使う機会がないであろう学びを得て、刃を横向きに正した。


「地獄に帰れ!!クソ悪魔ぁあああ!!」


 あたしは包丁を、人造サキュバスの首筋めがけて振り下ろした。


「やめろおおおォォォッ!!」


 男の叫び声とともに、あたしは脇腹に重い衝撃を受けた。視界がひっくり返った。誰かがタックルであたしの復讐の邪魔をしようとしてきたのか。


 やっぱりそうだ。世の中はガワだけしか見ていない。

 たとえ中身がスライムの化け物であっても、人間社会を蝕む害悪であっても。

 キャワイイ美少女のガワを被ってさえいれば、そんなモンスターを蒙昧無知な愚衆は無条件で庇護対象とみなして味方をする。人間の尊厳を守るためのあたしの戦いを、単なる残虐行為とレッテル貼りして排除したがる。

 誰も本質なんて見ていない。中身になんて目を向けていない。


 だけど、それが異常だとは思わない。だって、中身をしっかり見るのは、『タイパが悪い行為』だから。今の世の中はタイパでしか作品やアーティストの良し悪しを推し量ってくれない。

 あたしが積み重ねてきた泥臭い努力なんて、だれも見向きもしてくれない。


 堰を切ったように、観客席からたくさんの怒鳴り声が響き渡ってきた。

 どうしてこうなってしまったんだろう。こんな人生を歩むつもりじゃなかったのに。






 ……話は二年前に遡る。あたしが高校三年生だった頃。


「んじゃ、『豆谷(まめたに)シックス』は本日をもって解散。活動終了ね。お疲れっした」


 あたしが今まで頑張って盛り上げてきたローカルアイドルグループの解散が、冷たい口調でプロデューサーから告げられた。どうしても納得できない。あたしは反論した。


「やっぱり分かりませんプロデューサー……!どうして解散なんですか!?あたし達、頑張ってきたじゃないですか!ボイトレだって、ダンスレッスンだって本格的に頑張ってきたし!地域イベントでもみんなで頑張った!ファンクラブだってさぁ、会員数300人超え……」


「ああ、もういいからそういうの。数字だって横這いだったろ」


「地方創生プロジェクトで……、豆谷市の特産品や、文化をアピールして……。なんで……」


「だって君らさ、コスパ悪いじゃん。市の予算だって有限なんだよ?売れない方より売れる方にリソース注ぎ込むに決まってる。市民の皆様の血税をムダにはできないだろう?」


「売れる方って……」


「もちろん。『豆谷シスターズ』の方さ」


 プロデューサーが視線を向けた先には、ジャージにミニスカートを合わせたピンク髪、青髪、金髪、紫髪の4人の美少女がいた。どいつも頭の側頭部に角が生えており、腰からは尻尾が生えている。人造サキュバス、『ホムンキュバス』達で結成されたローカルアイドルユニットだ。


「悪いけど、君ら豆谷シックスは市の『中』からしか応援されてないんだよ。『外』からは見られていない。一方あっちのファンクラブは10万人超え。県外どころか海外にもファンがいる。限られた予算、限られた時間、限られた人手。コスパがいい方に投入した方が、納税者の皆様の為に還元できる。そうは思わないか?」


「でも…でもさ……!こっちは人間100%の豆谷市民ですよ!ホムンキュバスってさ、よそから納品されてきたんでしょ!?人外100%の外来種じゃん!!豆谷市民じゃねーじゃん!!それがローカルアイドル名乗るっておかしいだろ!!」


「ふむ……認識に齟齬があるな。そもそもあっちはもう、君らと『ローカルアイドル』なんていう狭い土俵で競っていない。グローバルに成り上がったんだよ」


「うぅ、でも……!」


「だいたい君たち、豆谷『シックス』なのにもう3人しかいないじゃないか。大学受験も近いんだろ?ここが潮時だよ」


「っ……!でも……あたしらは上だけに頼らず、自分達で創意工夫しながら情報発信してきたんです!一方あっちは上に言われるがままに言われたことだけやってる!顔と体だけの傀儡じゃんか!」


「結果、ずいぶん収益に差が開いたねぇ」


「っ……だから、そういう話じゃなくってッ……!」


 全然納得できない。私はどうにか反論しようとした。


「……ねえ薊原(あざみばら)さん、もうやめよ?気持ちは分かるけどさ、プロデューサーさんの言ってること正しいよ。このまま大学生になっても続けるの?活動終了はもう決まってたことだし、食い下がれるタイミングはもう過ぎたんだよ」

 そこへ、豆谷シックスのメンバーの一人、露乃(つゆの)が後ろからそう声をかけてきた。


「そうだよ藍(あい)ちゃん。今まで楽しかったしさ、いい経験になったじゃん。これだけ頑張ったんだし、いろんなとこと縁を結べたんだから、藍ちゃんがリーダー張ってきたのは無駄じゃなかったよ」

 もう一人のメンバー、雛菊(ひなぎく)も露乃の意見に同調した。


「二人が、そういうなら……もういいか。うん……。皆様、今までありがとうございました」


「……まあ、マジで頑張ったと思うよ。これからは勉学を頑張れよ。今までご苦労様」


 豆谷(まめたに)市役所、振興課会議室の中に拍手が響いた。空しい響きだった。

 その拍手に気づいた豆谷シスターズのホムンキュバス4体が、こちらへやってきた。ピンク頭のやつがお辞儀をして話しかけてきた。


「センパイの皆様方、いままでお疲れさまでした。これからは私たちが頑張ります!」


 グラビアアイドルでもそういないデカ乳。すっぴんなのにトップアイドルみたいに綺麗な顔。カラフルな髪の色は根元までしっかり色がついている。カラーリングじゃなく地毛だ。近寄られてきただけで、こいつら人造サキュバスはあたしら人間とは持って生まれたものの恵まれ方が違うと実感してしまう。4体全員がそうだ。正直うらやましくてムカついてくる。だが、ここで毒づいて印象を悪くしても仕方がない。大人の対応をすることにした。


「うん、ありがとうバーベナちゃん。これからもお互いに頑張ろうね」


 形だけでも祝福を送っておいた。本当は呪詛をかけてやりたい。失敗して失墜してほしい。そうなれ。みんなに嫌われろ。



 そうして露乃と雛菊は『特別な何者か』になることから降りていった。花屋に並ぶことを諦めた。有象無象の一般人に溶け込み、藪の中の名もなき雑草に戻っていくのだろう。


 だけどあたしは諦めきれない。まだあたしは満足していない。ほかの二人みたいなヌルい覚悟ではやっていない。本気で芸能界入りを目指してきた。学校の勉強そっちのけでレッスンに努めてきたんだ。言っちゃ悪いけど、そこらのなんちゃってローカルアイドルとは気合の入れ方が違う。


 具体的にどんな努力をしてきたかの説明は……割愛する。だってそんな泥臭くてタイパの悪い話、だれも興味持ってくれなかったし聞きたがらないから。これからは『過程』じゃない、『結果』で示す。

 そうだ、プロデューサーが言った通り、ローカルアイドルという狭い土俵の中で、ヌルい仲間に囲まれながら活動してたから伸びなかったんだ。あたしは違う。自分でいうのもなんだけど、他の子たちと違ってあたしには『世に名を轟かす何者かになれる才能』の原石がまだ眠っていると思う。掘り出し切れていない輝きの原石が。


 まだこのあたし、薊原 藍(あざみばら あい)は頑張れる。自分を磨けばもっと輝ける!

 

 見てろよプロデューサー。見返してやる。あんな人外の化け物なんか鼻で笑えるくらいデカい大物になって、いつか必ず見下してやる!咲き誇り、勝ち誇ってやる!

 

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