第2話
椎名壮一、彼との出会いは衝撃的だった。
まず、見た目が個性の強い青髪なので、声を掛けるのを躊躇してしまう色だ。
そして、縦に長い。それはもう長い。
…怖い。そう思う程に背が高かった——
私、北条ゆいなは、最近体調がかなり悪く、気分も沈みがちである。
たまに女の子が怯えた様にして私を見るので、
え?私なんかしちゃったかなぁ?
と思ったが、思い当たらない。
その子は私が近付いて行くと、
「ひいっ!?」
と言いながら腰を抜かして、
それでもどうにか起き上がって逃げて行った。
…え?本当に私、何かしたのかなぁ?
肩が兎に角重い。…吐きそう。
私に近付くと倒れる子とかもいて、
「大丈夫!」
と声を掛けると、意識を取り戻した彼女から、
「近付かないで!」
と言われるので、困惑する。
その子も、気味の悪い目でこちらを見て顔を青ざめさせる。
なんか、あの子の側にいると不運が続く。
そう言われるようになって、孤立してしまう。
普通に声をかけて来てくれていた友人からも目を背けられて、無視されるようになった。
急に態度を変えた友人に裏切られた気持ちで一杯になる。
心に良くない感情が芽生えて行く。
それに気付いて、はっ!と首を横に振る!
——もう嫌になってくる。
……
…
父からここに行ってくれと言われて、
ボディーガードを連れて、歩く。
私は何回か行ったことのある10階建てのビルにやって来た。
指定された時間よりも少し早く着く。
何故かソワソワしていて落ち着かなくて、ウロウロとしてしまう。
——なんだか最近、嫌なことが続いて気持ちが沈んでいた。
自分でも整理できない不安に押しつぶされそうで、
ボディーガードが席を離した隙に、
ふらっと屋上まで来てしまったのを、後になって気づいた。
普段なら鍵がかかっているはずの屋上の扉が、なぜか開いていた。
風に誘われるように外へ出て、何気なく下をのぞき込む。
…吸い込まれそうな、不思議な感覚。
自分の意思じゃないみたいに足が前へ出そうになった、その瞬間——
私を引き戻してくれたのが、この巨人みたいに大きい青髪の人だった。
「お前、何やってんだ!!」
「…え?」
ハッと気づくと、なぜか屋上の端の近くまで来ていた。
どうしてこんなところまでいるのか、自分でもよくわからない。
見下ろした先は思った以上に高くて、
足がすくむような感覚に襲われ、思わず後ずさった。
「なんで私、ここに……?」
頭が混乱し、状況を理解しようとしたその時——
ヒョイっとまるで軽い荷物でも運ぶかのように、男に持ち上げられた。
そして、降ろされると、そのままヘナヘナとその場にへたり込んだ。
暫く混乱していたのだけど、あ!お礼言わないと!と思って、
「有難うござ」
まで言えたのだが、被せられた。
「うわっ!軽っ!お前、ほんと細いな。
服のせいか、なんか華奢に見えるぞ」
「…」
と、私のある部分を見詰めて華奢だと言う。
なんだこの人。何処見てるの?
男の人にそんなこと言われたのは初めてだ。
今日はゆったりしたワンピースを着ているから、
体のラインが出にくいのはわかっているけど…。
周りには、オシャレだけど体のラインを強調しない服をよく着るね。
勿体ない。とは言われていたけど、
男性から見るとメリハリがなく見えるのかな、とちょっと考えてしまう。
降ろされると、彼の背の高さに驚いてしまう。
私よりも頭一つは軽く背が高かった。
私は平均身長よりは少し高いはずなのに、彼の隣に並ぶと、まるで子供みたいである。
そして、気まずい空気のまま、
彼がちょっとさっきの事で話があるというので、着いていく。
…私もついさっきの事が気になっていた。
まるで誰かに操られていたみたいだったから……
……
…
突然消えたボディーガードとも合流する。
最近、ボディーガードが仕事してくれないと変えられる事が多かった。
危険な時に役に立たない奴らばかりだ!と父は激怒していた。
彼は四人目である。
そして、彼等から理由を聞くと、
「良く分からないんですが、突然フラフラと移動してて、別の所にいるんです。」
と語る。
しかも、四人とも全員がそう言う。
…不思議だ。
……
…
まず、落ち着いて話をする為に入った喫茶店で、
椎名さんの最初に印象に残った一言が、
「お前は俺の指示通りに動け。」
である。
私は、令嬢であるので、親から誰にでもニコニコとしていなさいと教育を受けているので、
条件反射で初対面の人にはニコニコとしてしまうのだが、顔が引き攣るのが分かった。
そして、説明らしい説明がされる事もないまま、
俺がはらうとかなんとか言い始めた。
払う?
喫茶店に入って、お茶を飲んでいたのだけど、
その料金を払ってくれるって事?
「いえ、私が払います!」
と言うと、
「は?いや、無理だろ?
お前には絶対に祓え(はらえ)ねぇよ。」
と言われた。
それに、ちょっと萎縮(いしゅく)しながらも、
「私お金持ってきてますから!」
と言ったら、
「は?お前何言ってんだ?」
と言われた。
…この人苦手かも?
「お前は何の霊能力もない、一般人だから祓えない。霊媒師の俺の言う通りにしろ」
「は、はぁ?」
れいのうりょく?れいばいし?また払うとか言い始めた。
一般人だから払えないって、ただの喫茶店の紅茶で払えない人っているの?
どれだけ奢りたいの?この人?
…こんな人に奢られたら後で何を言われるか分からない。
私は絶対に奢られないようにしよう!と誓った。
そして、急に目を見開いてジーッと見てくるので、困惑してしまう。
俯くと、顔を横にずらして下から見上げられる
もう、なんなのこの人!!
「…てかお前、顔、ちょっと変じゃね?」
「…え?」
女子校では容姿についてとやかく言われないので、顔が変と言われて、ガーンとなった。
フツメンだと思ってたのに!
あれ?私って不細工だったの?!
というか、何なのだろうか?この無礼な男性は!
無意識に屋上の端の方に行っていたのを止めてくれたのは有難いけど、言葉で人を傷付ける。
こういう人ヤなんだけど!
「…お前何頬膨らませてんだ?」
「何でもありません!」
と言って、誤魔化す為にニコっとした。
最早初対面の人に対する条件反射の笑顔である。
「ま、どうでも良いや。
で、お前はこれから全部俺の言う通りにするって事で」
「は?」
また何を言ってるのだろうか?
言う通りにする?…普通に嫌ですけど?
と言えたら良いのだが、怖いので、何も言えない。
お父様から、一人になってしまって、誰かしらに連れ出されそうになったら、抵抗せずに、相手の指示に従え。
と教えられていたのを思い出す。
まさに、今の状況がその通り。
私は抵抗せずに、コクコクと頷いた。
後になって聞いたのだけど、彼は私の親が雇った、れいばいし?とかいう人らしい。
突然現れたのも、状況が状況だったから仕方がなかったのだと気付く。
かなりの腕利きで、その界隈(かいわい)では1番の腕を持つ人らしい。
…だからか、不思議な事に、彼の側にいると気分が良くなる。
こんな言葉を選ばない男性相手してるのに、何故気分が良くなるのか理解出来ない。
不思議な男性である。
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