第7話・最後の冷たいデザートでシメです!

 冒険者ギルド・リーン南支部の第三訓練場。

 バーベキューを締める為に、氷屋のグラスが本気で作った冷たいデザート。

 ボウルの中にはアプールのすりおろしに、はちみつと砂糖を入れて混ぜながら丁寧に凍らせた物。

 鉄のお玉を入れるとシャリシャリとふわりとした音が周りに響いた。


「銀髪のお兄ちゃんは何を作っているの?」

「それは今からのお楽しみだ」


 子供達が席から立ち上がり簡易調理場の前に集まってくる。

 グラスは優しい笑顔を浮かべながら、お玉から手を離して隣に置いてあるアプールを8等分にカットして、ラピッドの耳の形になるように短刀で切っていく。

 耳が可愛く切れたのでグラスは満足しながら、アプールを皿の上に乗せて子供に見せる。


「このアプールの耳は何に見える?」

「んー、なんだろう?」

「ボクわかった! ラピッドの耳だよね!」

「正解! ご褒美としてラピッド耳のリンゴをプレゼント!」

「ありがとう!」


 ラピッドの耳の形をしたアプールを受け取った子供は、笑顔でシャクリと食べた。

 冷たくて新鮮で甘味の酸味のバランスがいいアプール。

 子供達は目を輝かせながら、グラスの方に目を向ける。


「銀髪のお兄ちゃん! わたしも欲しい!」

「オレにもお願い!」

「もちろん。ただ、俺が用意したデザートはアプールだけじゃないぞ」

「「「へ?」」」


 身長的な問題で子供達はボウルの中身が見えない。

 グラスはいたずらっ子のような笑みを作り、別で準備した木の器に冷たいシャーベットに、ラピッド耳のアプールを優しく乗せる。


「氷屋グラスの最新作『甘いシャーベットとラピッド耳のアプール』だ。さあ、いっぱいあるから順番に受け取ってくれ!」

「「「はーい!!」」」


 キラキラと目を煌めかせている子供達は行儀良く列を作る。

 大人たちは元気な子供達に微笑んでいるが、どこか不機嫌そうに呟いた。


「子供達はうまそうなデザートが食えていいよな?」

「ん? ああ、大人たちの分もしっかりあるぞ」

「マジでか!? 銀髪のにいちゃんありがとう!」


 子供達にシャーベット入りの器を渡すグラスは、大人たちの羨ましそうな視線を浴びた。

 ただ量的に全員分のシャーベットがあり、大人たちは子供のように笑う。


「美味い飯を作れる銀髪のにいちゃんはすげぇよ!」

「先に言っておくけど、料理は趣味で本業は氷屋だからな」

「氷屋! それで冷たそうなデザートが作れるのか!」

「そういうこと。っと、子供達の分は配り終わったし、貴様らも順番に取りに来い!」

「「「はい!」」」


 子供達は笑顔でシャーベットが入った器を手に取り、スプーンで一口分すくって食べた。

 シャリシャリと柔らかい氷が砕ける音に、アプールの甘みと酸味にはちみつと砂糖の甘さが混ざり、子供達は全員満足そうに頬を緩ませる。


「いつも食べているアプールよりも甘くて美味しい!」

「ママ、またこの冷たいやつを食べたい!」

「あたしも食べたいから銀髪のお兄ちゃんにお願いする?」

「「「うん!」」」


 奥さんたちにもシャーベットが回り、スプーンですくって口に含んでは目を見開いた。

 先に食べ終わった子供達は、列に並ぶ大人たちを羨ましそうにジッと見ている。

 対する冒険者達は受け取ったシャーベットを一口食べたら、膝をついて涙目で点を見上げた。


「この冷たいデザートと結婚したい!」

「シャクだけどアンタと同じ気持ちよ!」

「甘いもんは人並みに食べてきたけど、甘い氷にラピッドのアプールとか美味しすぎて天に召されそうだ」

「マジでそれ!」


 感動して涙まで流す冒険者達に、しれっとシャーベットとアプールを大皿に乗せて食べているバルクはニヤリと笑う。


「お前ら、このデザートはグラスの手間と高い素材を使っているから、もう一度食べたいならしっかり稼げよ!」

「「「おう、バルクさん!」」」「「「もちろん稼ぐわよ!!」」」


 男女問わず冒険者達は勢いよく叫び、子供達や奥さんは感動したように目に涙を浮かべた。


「冒険者さんたち頑張って!」

「お前らもママの手伝いを頑張れよ!」

「「「うん!!」」」


 最高のバーベキュー宴会。

 デザートを配り終えたグラスは、自分の分とアルマの分のシャーベットをお皿に盛り付ける。

 アルマは食べ足りないのか、銀シャリの上に大量のホルモンを乗せた粗い食べ方で、がっついていた。


「やっと少しは満足したわ!」

「相変わらず大食いだな……。っと、口直しにデザートはどうだ?」

「おお! ダンナはやっぱり気がきくわね!」


 満面の笑みでグラスからシャーベット入りの器を受け取ったアルマは、スプーンを手に取り一口分をすくってパクりと食べた。

 グラスも自分の分のシャーベットを食べて、デザートの出来に満足そうに頬を柔らかくする。


「我ながら最高のデザートだな」


 バーベキューはコッテリ目の料理が多かったので、甘くてスッキリするアプールのシャーベットは口直しにピッタリ。

 シャリシャリとシャーベットの氷が砕けて、甘くて冷たいデザートがグラスの口の中に広がる。


「また作ってみるか……」


 自分が作ったシャーベットに満足していると、器を持った子供達が簡易調理場のテーブルの前に集まってきた。


「銀髪のお兄ちゃん、おかわり!」

「ああ! まだまだあるから落ち着いて列に並べよ」

「「「うん!!」」」「「「おう!」」」「「「はい!」」」

「ちょっと待って!? なんで大人達まで混ざっているんだよ!」

「「「美味しいからに決まっている!!」」」


 あくまで子供優先にシャーベットを配っているグラスだが、大人達も真剣な表情で器片手に近づいてくる。

 グラスは童心に戻った大人達にツッコミながら、先に子供達へシャーベットを配っていく。


「お前ら、もう少し遠慮という物を覚えろ!」

「バルクさんだって、調理補助の特権でデザートをめっちゃ食べてますよね!」

「オレは働いているからいいんだ!」


 バルクは真顔でシャーベットが入った小さいボウルを手に取り、スプーン片手に中身を食べ尽くす。

 子供達はもちろん大人達からもブーイングが上がり始めたので、グラスが呆れたようにつぶやく。


「バルクさんに文句を言うのはいいけど、真面目に並ばないとデザートは渡さないぞ」

「「「ごめんなさい!」」」


 苦情を上げていた大人達は、グラスの一言でおとなしくなった。

 残りのシャーベットは充分にあり、グラスは大人たちの分を配り終えて、残った分は皮を剥いたアプールを乗せてアルマに渡した。


「アルマ、今日はありがとな」

「わたしはビビりなダンナの護衛だから、これくらいは問題ないわ!」

「余裕だったら明日からもこき使ってやるよ」

「お手柔らかにお願いします!」


 楽しそうに軽口を叩くグラスとアルマに、隣でシャーベットを食べていたバルクが豪快に笑った。


「ほんとお前さんたちは仲がいいな」

「……あの、バルクさん。シャーベットのボウルを丸々独占した貴方には片付けの罰を言い渡しますね」

「え、ちょっ!? この量を一人で片付けさせるのか?」

「文句はありますか?」

「いえ、ありません!」


 冷たい笑みを浮かべるグラスの圧を受けたバルクは、冷や汗を流しながら敬礼をした。

 二人のやりとりを見た参加者たちは、愉快そうに声を上げる。


「腕利き冒険者のバルクさんが、氷屋のにいちゃんに頭が上がらないぞ!」

「デザートを独り占めした罰だからちょうどいいわね!」

「だな! おお、このシャーベットにワインをかけると大人の味になるぞ」

「「「マジで!?」」」


 一人冒険者が口にした悪魔の一言。

 他の大人達がこぞってワインをお皿に注ぎ、一気飲みする。

 彼らの口の中では、シャーベットの甘い味と赤ワインの酸味がジュワリと時間をかけながら広がった。


「「「うめえぇぇ!?!?」」」


 今日一番の叫び声。

 大人達はお酒で顔を真っ赤にしているが、まだまだ飲めるのか追加の冷えたワインやラガーの蓋を上げてジョッキに注いだ。

 

「あ、あいつら! おい、オレにも酒を飲ませろ!」

「バルクさんは片付けがありますよね?」

「そんなのは明日やればいいんだよ!」


 バルクは我慢できずに冷えたワインのビンに口をつけてラッパ飲みを始めた。

 ゴキュリゴキュリとバルクの喉にワインが通り、本人は満足そうに口からビンを離す。


「さいっこう! グラス、追加でつまめるものはあるか?」

「ったく、肉は残っているから食べるか?」

「頼んだ!」


 ハイテンションなバルクに、グラスは呆れながら追加のお肉を焼いていく。

 最高なバーベキュー宴会が続き、参加者たちは満足そうに床で寝始めた。

 そのためグラスは事前に用意していた毛布を彼らにかけながら、屈託のない笑みで一言。


「ご馳走様でした」


 最高のバーベキュー宴会。

 参加者はもちろん、調理担当のグラスは幸せそうに頷く。

 

 なお次の日の早朝。

 グラスから罰として、片付けを任されたバルクは「ヒィヒィ」とバテながら、なんとか洗い物と片付けをやり終えたのだった。

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氷屋グラスの優雅なサボり方〜元貴族の秀才魔法使いは、美味しい料理と自由のために実力を隠します! 影崎統夜 @052891

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